べっこう飴








「燐子ー」



今朝 紺炉は燐子を探しているが見当たらなかった。
ヒカヒナも遊んで欲しくて探しているのだが
見つからないらしく朝から居ないのはレアだ。



「おい、燐子見なかったか?」

「燐ちゃんなら朝から何処か出掛けましたよ。」

「そうか…ババァのとこで花札でもしに行ってんのか…」

「何か用ですかい?」

「お使い頼もうかと思ってたんだが、
仕方ねえ俺が行ってくる。」

「俺が行ってきやす!」

「今日は調子が良いし大丈夫だ。
代わりにヒカヒナの相手してやってくれ。」

「へい!」



紺炉はそう言って詰所を出て歩き出すと
呉服屋のババアと近所のババアが立ち話していた。



「あら、紺ちゃん。お出かけかい?」

「燐ちゃんは一緒じゃないのかい?
そろそろ花札しに来てくれないと
ボケちまうって伝えといておくれよ。」

「燐子と会ってなかったのか?」

「今日は会ってないよ。
紅丸ちゃんも見てないねえ。」

「旦那が一緒に飲みたがってたんだけどね。」

「今度伝えとく。」

「ありがとうねえ。」



紺炉はババア達から通り過ぎて
詰所から少し先の八百屋へ向かった。
紅丸もこの辺にいないとすれば
もしかしたら二人で見回りしているかと
そう思って特に心配する事は無かった。









ーーーーーー…*°




「紅ちゃん!今日は燐ちゃんと一緒なのかい!」

「仲が良くていいねえ!」

「燐ちゃん!たまにはウチにも遊び来なよ!」

「うん!ありがとう!」



紺炉の予想通り 朝は珍しく
紅丸と燐子は一緒に見回りをしていた。
大股でゆっくり歩く紅丸に
燐子がちょこちょこついて行く様な感じだ。



「こっちの方来たの久々です」

「お前さんはいつも西側だからなぁ。
偶にはこっちにも顔出してやれ。」

「へいっ」

「燐ちゃん飴あるよ!持ってくかい!」

「ありがとう!でも飴はウチに今沢山あんだ!へへへっ」

「変な笑い方すんな。」

「だって嬉しかったんすもんっ」

「はっ、ガキが。」

「ム、ヒカヒナよりはガキじゃねえっす」

「アイツらと比べてるだけガキだ。」

「何時迄も子ども扱いしないで下さい」

「じゃあ手前で髪やれよ。」

「それとこれとは別です。」

「やっぱガキじゃねえか。」

「あ!西茶屋のババア!元気だったかー!?」



燐子は鼻で笑う紅丸を置いて先に駆け出し、
茶屋の主人である老婆に話しかけに行った。
会った老婆は嬉しそうに穏やかに笑っていて
燐子も楽しそうに笑っている。
その様子を紅丸は見て呆れたように頭を掻いた。



「若ー!ババアが茶ァ飲んでかないかって!」

「俺は先行くぞ。」

「えー!なんでですか!
ここの餡子甘過ぎなくて若も好きじゃないっすか!」

「いつものババアの大福よりはマシなだけだ。」

「またそんな事言って!
みたらし分けても良いっすから寄りましょ!」

「餡子じゃねえのかよ。」

「じゃあ、餡子とみたらし分け合いましょう!」



燐子に袖を引っ張られ紅丸は半端強引に
茶屋の椅子に座らされてお茶が出される。
アツアツの茶を少し啜ると
隣の燐子は勢い余って舌を火傷をして
やっぱこいつは馬鹿だと紅丸は呆れる。

団子は直ぐに出されて燐子はみたらし
紅丸は餡子が乗った団子を食べる。
にこにこ笑みを浮かべながら食べる燐子とは違い
紅丸の表情は全く変わらないが一応食べ進める。



「そういや若。なんで急に見回りを一緒に?」

「お前さんがサボってねえか確認だよ。
今のでよく分かったがな。」

Σ「な!きょ、今日はたまたま…!
久々に婆ちゃんにあったし、
こっちの皆んなとも久々で話したかったし…(汗)」

「向こうでも茶飲んで花札やってるからだろ。
ちゃんとやる事やってから遊べ。」

「へい……」

「じゃないと他の連中も寂しがるだろうよ。」

「っはい!」

「…お前はほんとコロコロ顔が変わるな。
ほら、きな粉付いてんぞ。」

「あ、すいやせん。袖で…」



燐子の頬についたきな粉を紅丸がぬぐい
その様子を団子屋の老婆がニコニコと見ていた。



「二人はほんと仲が良いねえ。
可愛い兄弟を見ているようだよ。」

「兄弟いい?(汗)」

「はっ、ガキだと思われてんだよ。」

「くっそー 皆んなして子ども扱いして…!
嫁に行かせたいのか子どもでいて欲しいのかどっちだよ(汗)」

「今はガキだが将来はって話だろ。」

「ちぇっ、あたしよりも先に
紺炉中隊長と若の心配した方がいいのに!
恋愛テキレイキって奴なんだろ!」

「紺炉はそうだろうが、俺は違え。」

「もう22じゃねえすか!」

「もうじゃねえ。まだだ。
ほら行くぞ。長居しすぎだ。」

「ああ!待ってください若!団子ご馳走さま!」

「燐ちゃんまた遊びにきてね。」



団子代は紅丸が置いていって
燐子は老婆に手を振り駆け足で追い付いた。









その後も見回りをして手土産がいっぱいになった所で
詰所に戻ると紺炉が昼飯の支度をしていた。



「燐子。今日は若と見回りしたんだって?良かったな。」

「はい!久々に東側歩いたんで見て下さいコレ!」

「おう。沢山貰ったな。」

「ヒカヒナにも寄越せ燐子ー!」

「独り占めしたら許さないぞ燐子ー!」

「へいへい。初めっからそのつもりだよ。
これから飯なんだから後で食えよ。」

「甘くねえババアんとこの団子があるぞ!」

「甘くねえ団子なんて何個食っても食った気がしねえぜ!」

「紺炉中隊長の飯食ってからだ!」

「なんだよ燐子ー!」

「邪魔すんなよ燐子ー!」

「ヒカゲ、ヒナタ。燐子の言う通りだ。
俺の飯食ってから団子食え。
それまでこの飴でも舐めてろ。」

「仕方ねえこれで勘弁してやるか!」

「甘いべっこう飴で我慢してやるか!」



ヒカヒナはべっこう飴を口に放り投げ入れて
パタパタと何処かへ走っていってしまった。



「ったくアイツ等あたしの言う事聞きやしねえ!
紺炉中隊長!あたしも手伝います!」

「おう。その前に手ェ洗って刀置いてこい。」

「へい!」



燐子は紺炉の言う通りに台所から出ていった。



「燐子と見回りはどうでした?」

「騒がしくて仕方ねえ。」

「その割には楽しそうでしたけど?」

「うるせえ。たまには良いだろ。」



紅丸はこれ以上紺炉に何か言われないように
自分も昼飯が出来るまで自分の部屋に戻る事にした。