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ある土曜日、それはおこった。



その日俺はスケボーの調整の調節のため博士の家を訪れていた。
犯人をおって無茶な追跡をした結果、モーター部分から怪しげな煙が出ていたし、おまけにまっすぐ進むはずのところが何故だか少しずつ左に曲がっていく。
博士にそう言って見せれば、なんじゃまた壊したのかと胡乱げな目をされながらもさくさくと点検をしてくれているようだった。
奥の部屋から出てきた灰原はまた来たの、なんて言いながらも俺の分の昼飯のパスタも茹で始める。
サンキューと言えばはいはいと言うように背中を向けたままてをひらひら振られた。
ツナの缶詰と大きめのトマトに瑞々しいバジルが取り出されていく。

なんだかんだで期待しつつリビングに戻ると博士は唸っていた。

「新一、なかなか派手にやったの」

「ゲ、そんなに悪いのかよ」

「直るんじゃが車軸が完全に変形しとるし中のモーターも…」

「いつも悪いな博士」

博士の作業台に近づけばバラバラになったスケートボードがそこにある。
破損した部品や変形したそれが並べられ、歴戦を物語っている。
自分も犯人を追うのに必死だったが、こいつはこいつで必死だったのかもしれない。

しばらく博士と犯人追跡装置について話していたら灰原から声がかかる。
つけっぱなしのテレビからは3分間の料理番組が軽快なオープニングメロディを奏でている。

「少しは片付けてから行かんとの」

「どうせあとからやるじゃねえか」

「最近哀くんが厳しいんじゃ」

ぶちぶちとすぐにおやつが抜きになるとか炭水化物が減らされるとかそういったことを博士はこぼしていて、俺は苦笑いしか出なかったが、ベルトの上にのった柔らかそうなそれを見れば仕方がないことでもあった。

「冷めるわよ」

灰原がすでに冷めきった目でこちらを見ていて博士と2人で慌ててリビングに行けば、テレビはすでにCMに切り替わっていた。

ふと個性的なSEがピコンと鳴る。
フォークに巻き付けていたパスタを口に運びながら横目でテレビに気を取られる。
それはけして俺だけではなくて。
博士も灰原も手を止めてテレビを見ていた。

軽妙な音楽。
人形の瞳のどアップ。瞳の中が宇宙になっている。
一気に引いていく画面。テクノポップ調の音楽とサイケデリックな映像が続く。
先程の料理番組の協賛企業のキャラクターでマヨネーズのCMだ。
ある種毒々しさまで感じる色覚の暴力とエッジの効いた音。
頭の中にゾエトロープのようにぐるぐるとキャラクターとマヨネーズが交互に映る。
微笑んでいるはずのキャラクターがこちらをじっと見ている。


なんとなくマヨネーズが食べたくなり用意されていたサラダにドレッシングでなくマヨネーズをかける。その時は印象的なCMだな、くらい。博士も灰原もマヨネーズ。博士はかけすぎで灰原から怒られている。蘭姉ちゃんから買い物リストがメールで届き、そこにはパン粉とマヨネーズをお願いしますの文字。また、マヨネーズ。
夕方スーパーにいくとマヨネーズは売り切れていた。定番商品だろ、そんなことあるのか?とコナン戸惑いながらも別のスーパーへ。業務用の大きなスーパーでそこで安室透と会う。
「やあコナンくん、お使いかな?」
「こんにちは安室の兄ちゃん。そうだよ、蘭姉ちゃんに頼まれたんだ」
「そうだったんだ、ここの業務用で少しスーパー遠いのに珍しいね」
「マヨネーズが売り切れてて…コンビニにもなかったんだ」
「マヨネーズ…?」
その時館内放送が流れる。
『お客様にご案内致します。大変申し訳ありませんが当店のマヨネーズは売り切れです』
「まただ…マヨネーズが売り切れるなんて…」
混雑した店内から続々と人が帰っていく。口々にマヨネーズの話をしながら。
安室が
「なんでそんなにマヨネーズが買いたかったんですか?なにかおすすめの料理が紹介されたとか?」
と近くの女性に話しかけると
「新しいマヨネーズのCMが可愛くってね〜」
周りの女性も同意した。
CMくらいでこんなことになるのか?と安室疑問を持つ。
「あ、それ僕も見たかも…途中からだけど」
「コナンくんも?」

次の日、全く同じことが棒付きキャンディで起こる。
世間は怪現象としてヒートアップしていく。
あのCMの代理店はどこだ、となり2社の企業の広報担当者がストーカーまがいの取材を受け始め、とうとうキャンディの方の社員が口を滑らす。
「SPADEさんです」

「鴇!お前が犯人か!!!」
「えー?」
「マヨネーズと棒付きキャンディ」
「わたしじゃないですよー。」
「SPADEの仕事だろ」
「まあ取ってきたのはわたしかな。あはは」


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