| 「名前さん!俺のツイン狙撃見た?」 防衛任務を終え基地に戻ろうとすると、異常に顔をキラめかせた佐鳥に呼び止められてしまった。最悪だ。 お前のことなんか見るわけないだろ、とうっかり口から漏れそうになった暴言を必死に押さえ込み、「い、いや〜、目の前の敵に集中してたから見てなかったよ」と当たり障りのない返事をする。 もっとも、その目の前の敵であるトリオン兵は我らが加古隊・双葉ちゃんの一撃で木っ端微塵にされたため、私が集中する間もなかったのだが、そんなこと私は知らない。 どうして今日の防衛任務は私と双葉ちゃんと佐鳥の3人なのおかしいだろ、とか トリオン兵が出たからスコーピオン出したけど、双葉ちゃんがすぐに倒しちゃったからもう使いどころないしトリオンもったいない、とか そもそもトリオン兵は1体しかいないのに佐鳥はどいつにツイン狙撃を決め込んだんだ、まさか双葉ちゃんによって既にゴミと化していた目の前のコイツにか? とか、佐鳥はなんで仲良くもないのに私に話しかけてくるんだ、双葉ちゃんお願いだから助けてください置いていかないで、とか思うところは山ほどあるけど、とりあえず今は早くこの場から立ち去りたい。 最低な男達によって築かれた私の第六感が、目の前の男から逃げろと危険信号を発している。 だいたい、安定の顔窓だとか最強の2.9枚目だとか呼んで馬鹿にしてる人がいるけど、私からすると佐鳥は普通にイケメンだ。 それだけでも懸念材料となるのに、加えて自他共に認める女の子好きときている。警戒しないわけがない。 どうせアクロバティックツイン狙撃を決め込む傍らで女の子にも色々決め込んでるんでしょ?食い荒らしまくってるんでしょ?ああおぞましい。 これだからイケメンは嫌だ。全くけしからん。 もっと諏訪さんを見習って欲しいものである。 この世から消え去ってくれないかな、と思うほどイケメンが嫌いな私だが、諏訪さんとは仲が良い。 歳は向こうが一つ上だが、毎週飲みに行って私の愚痴を聞いてもらうくらい仲良しだ。 他の男の隊員と話すと気分が悪くなるというのに、諏訪さんだけはなぜか大丈夫なのだ。むしろ落ち着く。 この前そのことについて疑問に思ったので「何でですかね?」と聞いてみれば問答無用でぶん殴られた。あれは痛かった。 別に諏訪さんがイケメンじゃないなんて一言も言ってないのに。被害妄想は良くないと思うんだ。 だけど今はそんなタバコ野郎がとてつもなく恋しい。諏訪さんカムバック。 そんな現実逃避をする私に構うことなく佐鳥は次から次へと話し続ける。 「佐鳥はずっと名前さんと話してみたいって思ってたんですよー」 「はあ…」 「ほら、名前さんってすごく有名な人じゃないですか」 「…は?」 告げられた言葉に耳を疑う。なぜだ。私は有名になるようなことなんて毛ほどもしていない。 もしかしてついにボーダーの挙動不審ランキングで1位の座に輝いてしまったのか。 いやいやそんなまさか。 「本部所属のはずなのに名前さんとは全く出くわさないから、他のA級の人もみんな不思議がってるんですよー。たまに会ったとしてもすぐに逃げちゃうし、話しかけても業務連絡の時しか答えてくれないし。だから今日の佐鳥はラッキーですね!」 「あの、もう帰ってもいいですか?」 まさかA級隊員たちからそんなツチノコ的扱いを受けていたとは。 用がない時以外隊室から出ず、移動する時はなるべく人がいない時間を見計らって双葉ちゃんの背中に隠れながらコソコソとしていたのがアダになったか。そんなことが逆に注意を引いてしまうとは。 早く帰りたい。イケメンと二人きりというこの恐ろしい空間から今すぐ逃げ出したい。というか双葉ちゃんはどこ行った。 それに、本部に帰れば腐るほどのイケメン達がゴロゴロといるのだ。もうボーダーってなんなの。 もしかすると顔面偏差値とトリオン量は比例しているのかもしれない。出水なんて異常に顔整ってるし。 だいたい私にはA級が揃いも揃ってあんなに顔がいいということが解せないのだ。 精鋭は顔まで精鋭なのか。ふざけるなC級隊員に失礼だろうがコノヤロー。 1人悶々とする私を見ながら、佐鳥は「やっぱり迅さんの言う通り名前さんって面白い人ですね!」なんて呑気に笑っていた。 残念ながら面白い人呼ばわりされるほど私と迅は仲良くないと思うんだけど。 玉狛支部のくせになぜか最近やたらと本部にやって来る迅は、会う度に馴れ馴れしく話しかけてくるが、私は毎回殴って逃亡しているので実質話したことはないに等しい。 あのセクハラエリートめ、佐鳥になに適当なことを言ってくれてるんだ。 「でも名前さんとこんなに仲良くなれるなんて、佐鳥はびっくりですよ!」 「いや私もびっくりだけど。言うほど仲良くなってもないよね?」 一言二言話した程度だろうが。そもそも私はお前と仲良くなる気はない。イケメン許すまじ。 だけどさすがの私も相手は高校生なので、迅のように殴って逃亡することも太刀川や風間さんのように無視することも出来ず、本部に着くまで嫌々ながらも佐鳥との会話を続けるしかなかった。 「でも出水先輩たち悔しがるだろうなー」 「え、何で出水?」 「みんな名前さんと話したがってるんですよ!俺が1番乗りだって、出水先輩たちに自慢しよっと」 「…お願いだからそれだけはやめてください」 嫌な予感しかしないんだけど。 佐鳥なんかに負けねえとかなんとか言って話しかけてくる馬鹿どもの姿が、某実力派エリートのサイドエフェクトを持ってなくても想像できる。 え、マジでお願いだから出水なんかに自慢しないでよ佐鳥。 そんな願いも虚しく、私の予感は見事的中した。 次の日から、出水や米屋などの高校生組が異常に絡んでくるようになったのだ。 許さない男リストに佐鳥が追加された瞬間だった。 |