| 「おい、いい加減機嫌直せって」 はあ、と溜息を吐きながら呆れ顔で缶コーヒーを差し出す諏訪さんを睨みつける。その俺は悪くない、みたいなスタンスはやめてほしい。どう考えても8割ぐらいは諏訪さんのせいだと思うんだ、割と本気で。 コーヒーは素直にもらっておいた。過去の缶を握りつぶしたトラウマが蘇ってきて虚しくなる。 突然訓練室に乗り込んで斬りかかってきた私に、最初のうちはキレて顔に青筋を浮かべていた諏訪さんだったが、事情を話すと若干歯切れ悪く謝ってきた。どうも、事の発端は諏訪さんが「名前がめんどくせえから何とかしてくれ」と風間さんに愚痴ったことにあるらしい。諏訪さんにとってはほんの軽い気持ちでも、そのせいで私は多大な迷惑をかけられた。 風間さんは真面目の塊なんだから、冗談なんて通じないだろうに。そんなことも考えず軽率な発言をした残念なおつむの諏訪さんを恨むばかりだ。さすが立方体なだけはある。 「そもそも、面倒くさいってなんですか。私諏訪さんなんかに迷惑かけた覚えないですけど」 酷い言われようだ。煙草切らしてキレかかってる諏訪さんを宥めたりおちょくったりして面倒を見てあげたことはあるけれど、私自身は何も世話になってない。 「お前、何かある度にうちの作戦室に逃げて来るじゃねえか」 「それが何か」 「それが何かじゃねえ!いちいち堤と日佐人を追い出すのが面倒なんだよ!」 ああ、確かに。それは一理ある。 私はボーダー内でイケメンと遭遇して色々とやばくなった時、近くに双葉ちゃんがいない場合はすぐさま諏訪隊の隊室へと駆け込む。 もはや日常茶飯事のこととなっているので諏訪隊の子たちは誰も驚きはしないのだが、隊室に笹森君や堤君がいたら、何だかんだ言って優しい諏訪さんが、気を利かしてそれとなく二人を隊室から遠ざけてくれるのだ。 いやはや、その説では迷惑をおかけしまして申し訳ない。 「でも、油断は禁物ですし」 堤君とか仏のような顔して諏訪隊の中では一番危険そうだし、笹森君だって真面目そうだけどああいう子が実際は何をするかわかったもんじゃない。最近の若者って過激だし。 その点、諏訪さんは一見あれだけど案外面倒見がいいし何より安全なのだ。主に顔面的理由で。 「何か前から思ってたけど、お前自意識過剰すぎじゃね?」 「諏訪さん、今日はやけに突っかかってきますね、ニコチン切れですか?」 「んなわけねえだろ。安心しろ、誰もお前のことなんか気にかけてねえって」 あまりの暴言に自分の耳を疑う。一応言っておくが、私は別にイケメンたちに好かれたらどうしよ〜、なんて痛いことを考えて彼らを避けているわけではない。イケメンという奴らはたとえ好きな相手であろうとなかろうと、己のイケメンさの上に胡座をかいて悪さばかりする、ということを私は身に染みて学んだのだ。 一度学んだことは、今後の生活にきちんと活かしていかないとね、大変なことになっちゃうから。 つまり、これはただの自己防衛に過ぎないのだ。危機管理能力の高い私の頭が、迅や風間さん、太刀川などその他もろもろのメンツを近づくな危険、と認識しているから避けているまでのこと。 別に自意識過剰じゃないからね、お願いだからそこのところは誤解しないでいただきたい。 「諏訪さんまさか鬼畜キャラでも目指してるんですか?やめた方がいいですよ、立方体は立方体らしく大人しくしてましょうよ」 せめてもの腹いせに立方体ネタで弄れば、すぐさま頭を叩かれた。痛い。心も体も痛い。辛すぎる。 「で?風間に何て言われたんだよ」 「もっと連携がとりやすくなるよう、他の隊員と必要最低限の話はしろって…」 「マジかよ。意外だな、あいつがそんなこと言うなんて」 「諏訪さんのせいじゃないですか…」 わりぃわりぃ、なんてケラケラと笑う目の前の男は、やっぱり1ミリたりとも反省していないようだった。もう一度ベイルアウトさせてやろうか。人生のレールからな。 「まあ、お前がそれだけヤバイってことだろ」 「…敢えて聞きますけど、ヤバイって具体的に何がですか」 「コミュニケーション能力」 真顔でキッパリと言い切った諏訪さんに殺意が芽生えた。いやいや、おかしいでしょ。 私よりも、あの三輪君とかの方がどう考えても問題がある気がする。何かあの子人類みな敵、みたいな感じで怖いし。最初は風間さんと同じようなタイプかと思ったけど実際は全然違った。風間さんは何というか、もう少し余裕がある人だ。 あれだけシスコンなのにそこまで周りからドン引きされてないのは、やはり彼の顔面偏差値が高いからだろうか。うわあ、イケメンって嫌だわ。 「だいたい、ボーダーにイケメンもどきが多いのが悪いんじゃないですか!」 いい加減、根付さんの差し金で比較的顔がいい奴らが優先的に選ばれている説が濃厚になってくる。だっておかしいだろ、あれだけ顔がいいメンツが集まるなんて異常だわ。根付さんの企みとしか考えられない。 それか、この間から私の中で物議を醸している、トリオン量と顔面偏差値の因果関係が問題なのかもしれない。今度トリオン量と顔面偏差値は比例しているのか、というテーマで論文でも書いてやろうか。嫌がらせで城戸さん辺りに提出しよう。 頭の中でそんなことを考えながら、世の中諏訪さんみたいな人で溢れかえっていたらそりゃあ私だってこんなに苦労はしませんよ、と嘆くと、諏訪さんはそれはそれは恐ろしい顔で私を睨みつけた。 「あ?お前喧嘩売ってんのか」 「滅相もない。諏訪さんに喧嘩売るぐらいなら立方体の辺の数を数えてた方がマシです」 「立方体の辺の数って、12に決まってんだろーが!」 「つまり、既にわかりきってるどうでもいいことことをわざわざ確認する方が、諏訪さんに喧嘩を売るよりもよっぽと有意義な時間を過ごせるということですよ」 今の私は、諏訪さんよりも立方体の方によっぽど興味が傾いている。だって、諏訪さんって。うん、なんか諏訪さんだし。 口にくわえた煙草を吹き出す勢いで騒ぐ諏訪さんをじっと見つめる。いつも思うことだけど、どうしてこの人は他人と話すときでも終始煙草を手放さないのか。非常識にもほどがある。 諏訪さんは隊員と接する時にも自分のアイデンティティを失ってはいけないとばかりに煙草を吸っている。相手は高校生なのに。主流煙よりも副流煙のほうが危険だって学校で習わなかったのか。 そもそも、普通って煙草を咥えたまま喋れるもんだっけ?棒付きの飴みたいな要領でやってるの?やだ、諏訪さん意味わかんない。 少しだけ冷めた目で「くわえタバコって、別にカッコよくもなんともないですよ」と忠告すれば、「今度から、逃げてきても隊室に入れてやらねえ」とわりと本気のトーンで脅されてしまった。 やだ、ごめんって。諏訪さん超似合ってるから、くわえタバコの代名詞がもらえるぐらい様になってるから。よ、この色男!と煽ててみても、後の祭り。 必死の足掻くも虚しく、首根っこを掴まれた私は、ポイッと隊室の外へと放り出されてしまった。 |