| 「お姉さん可愛い、いやそうでもないか。普通か」 初対面でいきなり失礼な発言をする目の前の男に、一瞬時が止まった。 何コイツ。いや、私のことを助けてくれたにしても失礼すぎないか? わざわざ普通って言い直す必要ないじゃん!確かに普通ですけどね。どこにでもいそうな顔してますけどね。 だからって本人に言わなくていいでしょ、それ。 助けてもらったお陰で身体は傷一つないけど心は深いダメージを受けた。 普通で何が悪い。だいたい、今の世の中は普通のレベルが高すぎるんだよ。なんで可愛い女の子達が町中に溢れかえってんだよ。数の暴力だよもう。もっと誰もが生きやすい世にするべきでしょ。 そう言い返したい気持ちを抑えて、とりあえず助けてもらったお礼を述べる。涙目なのは、ネイバーが怖かったから。現実を突きつけられて悲しくなったからじゃない。 「あの、ありがとうございました」 「いやいや。間に合って良かったよ。ところで、お姉さんはこんな時間に一人で何してんの?」 「えっっ」 ただいまの時刻は午後1時。今日は平日だし、社会人なら働いてる人が大半だろう。しかし、そんなことはニートの私には関係ない。 年中無休の自宅警備員にその質問は辛いぜ。 「きょ、今日は休みですから!」 個人情報だし教える必要はないのかもしれないけど、怪しまれるのも嫌だったのでとりあえず無難に返した。逆に怪しまれる気がしないでもない。 「ふうん」 男は何が面白いのか、ニヤニヤしながらこっちを見てくる。 あれ、おかしいな。笑える要素なんて一つもないんだけど。もしかしてこいつやばい奴?関わらない方がいい感じの人? うわ、変な人に助けられちゃったな。 困惑する私に、男は更にドン引きする一言を告げた。 「俺にはお姉さんが家で漫画を読みあさってる未来しか見えないんだけど」 「……………」 わたしは あはは、と引き攣った笑みを浮かべながらゆっくりと後ろへ下がり始める。 逃げよう。こいつはマジでやばい奴だ。真顔で人の未来がどうこう抜かしやがってる。まさかの電波君か。というかなんで知ってる!!! 「当たってるでしょ」 「マ、マサカ〜」 「俺のサイドエフェクトがそう言ってる」 「はあ?」 「あれ?信じてない?」 「いや、まさかまさか。信じてマスヨー。すごいデスネー」 否定すると『俺の封印されし左手が…!』なんてやりかねないので、パチパチと手を叩き褒めたたえる。棒読みなのは仕方がないと思うんだ。そもそもそのサイド…?なんちゃらってなんだ。厨二病用語か何か? 「お姉さん、名前は?」 「山田太郎です」 しまった。花子にすればよかった、と思ったが後の祭り。近年はジェンダーレスだし、どうにかして乗り切ろう。 男は私の投げやりすぎる回答にツッコむことなく、「そっかそっか、太郎さんか」と笑っていた。死にたくなった。 何だよ、太郎さんって。どう考えてもおかしいでしょ。 「まあ、お姉さんとはまた会うだろうし、今日はいいや」 「あ、ソウナンデスカー」 ご自慢の未来が見えるというやつだろうか。これ以上聞きたくなかったので適当に相槌を打つ。 誰がお前なんかに二度と会うか。あいにく私はヒキニートなので出歩かないし、お前と会うことなんて金輪際有り得ないんだよ。 「あ、じゃあ、ありがとうございました!(永遠に)さようなら!」 ペコリと頭を下げて元来た道へと戻る。 男は小さく手を振ると、軽く笑って 「就職活動、頑張ってね」 と悪の呪文を唱えた。 何で!?どうしてバレた!?まさかこいつ本当に未来が…怖い怖い怖い。 ネイバーに追いかけられていた時が比じゃないくらいのスピードで私は走り去る。 家に戻るなり、玄関の鍵を閉め、チェーンをかけ、空いていた家中の窓を閉めまくり、自室のベットで毛布をかぶってそのまま引きこもった。 リビングから母親の怒鳴り声が聞こえた気がするがこれはガン無視だ。 普段は泣くほど怖い母の働け働け攻撃も今となっては小鳥のさえずりのように可愛いものである。 この日以来、私はしばらく外出を控えた。 どれだけ両親に邪魔者扱いされようと、弟にまだ生きてたんだ、と蔑みの目を向けられようと、頑として家から動かなかった。 こうして、私の平穏は少しの間だけ保たれていた。 |