「怪我はないか」
「あ、はい。ありがとうございます」

目の前には、やけに綺麗な顔をした、私と同じぐらいの身長の少年が立っていた。少年って言っていいのかよくわからないけど。見た目はどう見ても中学生レベルのその人は、異常な威圧感と落ち着きを払っている。
そして、両サイドにはまるで下僕のように高校生ぐらいの男の子2人を従えていた。餓鬼大将か。こんな小さいのに、ご苦労なことで。

「風間さん。たぶんこのおばさん、迅さんが言ってた人ですよ」
「ああ。例の…」
「お、おばっ!?」

迅さんが言ってた人、という言葉だけで納得されたのも引っかかるけど、それ以前に非常に気に掛かる単語があった。え、何て言ったの、今。聞き間違いだよね。そうだよね、私まだおばさんなんて歳じゃないし。ピチピチの24歳ですから。まだまだこれからですから。
一番背が高い少年が、私のことをお〇さん呼ばわりした憎たらしい男の子を「おい、菊地原」とたしなめ、「事実じゃん」と反論されていたが気にしないことにした。"事実でも言ったらダメなことはあるだろ"みたいな顔でため息をつく髪をツンツンさせた男の子が正直一番ムカついた。
いや、事実じゃないから。私華のトゥウェンティーフォー。

「迅から話は聞いている」
「へー、ソウナンデスカー。それはそれは」

どうせあることないこと喋ってニートの私をせせら笑ってるんだろうが。ニートの定義って家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない人のことを言うらしいよ。まんま私だった。コンビニバイトの面接すら満足に出来ない私は社会にはいらない存在らしい。つらい。
ちなみに、今日はジャ〇プの発売日だったのでコンビニに立ち読みしに行ったら、ネイバーに追いかけられた。稼ぎがないため、毎月親から貰える500円のお小遣いだけを頼りに生きている私への報復なのかもしれない。ごめんって。私だってちゃんと買って読もうとしたんだよ、でもコンビニのものとは思えないくらい美味しそうなプリンがあったから思わず買っちゃったんだ。

ジャ〇プとプリンを持ってレジに並んだ私は、"あれ、これ500円オーバーするんじゃね?"と思い、急いで値段を見た。プリンは370円、ジャ〇プは230円だった。うん、足りないわ。無駄にクリームとか果物とか乗ってるから高いのかもしれない。ジャ〇プとプリンを数秒見比べた後、サッと元の場所に雑誌を戻した私を誰が責められようか。
まあ、そのプリンも、ネイバーの襲撃によってぐちゃぐちゃになってしまったんだけど。

「最近、よくネイバーに狙われるらしいな」

カップが凹んでしまったプリンを半泣きで眺めていると、真ん中のチビが話しかけてきた。こいつ偉そうだな。歳上はもっと敬って。ニートだからって馬鹿にしないで。

「トリオンの量が多いんじゃないですか?全然そんな風には見えないけど」

今度は菊地原、と呼ばれた少年は口を尖らせながら答えた。何だ、こいつ。私に恨みでもあるのか。トリオン量というものが何なのかはわからないけれど、馬鹿にされたことはわかった。男の癖に髪が長いんだよ。チョン切ってやろうか、ああ?

「そもそも、このおばさんは記憶消さなくてもいいんですか?」
「さあな。迅にも何か考えがあるんだろう」

私そっちぬけで進む会話に身震いする。え、記憶を消すって何だ。怖いわ、ショ〇カーかよ。実はボーダーは悪の組織だったらしい。

「とにかく、原因がわからないうちはあまり出歩かないほうがいい」
「おお…!」

偉そうなチビから告げられた言葉に歓喜する。お母さん、ついにボーダー直々に外出禁止命令出されちゃったよ。今後は一生外歩かなくていいって。永遠にヒキニートを続けろという神のお告げか。ラジャー。これで私の人生は安泰だ。

「わかりました!ありがとうございます!これはせめてものお礼です!」
「い、いや…いらな「遠慮せずに!」

困った顔で拒む背の高い男の子に、グイグイと無理矢理プリンを押し付けた。そういや、この人の名前だけ聞いてないな。ちっこい人(風間)とむかつくロン毛(菊地原)の名前はわかったけど。まあ、もう会うこともないだろうしどうでもいいか。なんて言ったって、私はこの先二度と日の目を浴びることはないのだから。うんうん、こんないい人に食べてもらえてプリンも幸せだよ。一応言っておくが、別にゴミを処理したかったわけではない。

「じゃあ、そういうわけで!アデュー!」

大きく手を振ると、清々しい気分で歩き出す。いやあ、幸せだ。今日から"ボーダー公認!ワクワクのニート生活"が始まるなんて。いつもと変わらない気もするけれど。

とにもかくにも、家に帰ったら弟にジャ〇プ買いに行ってもらおう。


「………………」
「良かったね、歌川」
「いや、これは…」

人がいいため、こんなゴミいらない、とは言えない歌川であった。