| 私はイケメンが嫌いだ。 その理由は、なんてことはない、初めて付き合った彼氏がまさかの四股野郎で、その彼女達と酷い修羅場に陥り、酷い別れを経験したからである。 彼氏は世間一般でいうとイケメンの部類に入るだろう整った顔をしていて、そりゃあ女なんて選り取り見取りだったはずだ。 当時中学生だった私が、そんなイケメンに告白されて舞い上がらないはずがない。特に好きでもなかったのに、顔が良いという理由だけでOKしてこのザマである。 女四人こしらえといて「君だけが好きだよ」なんて囁いてきた男をうっかり歯がかけるまでぶん殴ってしまったのは仕方がないことだと思う。 いやあ、警察ざたにならなくて本当によかった。 それだけならまだいい。初彼氏でこの仕打ち、普通に考えたらトラウマものだが、何を思ったか(たぶん何も考えてなかったのだろう)、私はその後も普通に男と付き合ってきた。しかも、それがまた全員イケメンなのである。 だって、私に告白してきたのがイケメンしかいなかったんだから仕方ないじゃん。ちなみに、これだけ聞くとただの自慢に聞こえるかもしれないが、そんなことは全くないのだ。 高校生になって初めての彼氏は、束縛があまりにも激しい男だった。そいつの嫉妬はヤキモチなんて可愛いものではなかった。 独占欲の塊で、私がいつどこで誰と何をしているのか、奴は全部知っていた。今考えればただのストーカーだ。 そして相手が男だったらブチギレてきた。 授業中、先生が「隣の席の人と作業してねー」と言ったから隣の見知らぬメガネ君と机を合わしただけで激怒である。 初めは耐えていた私もさすがに我慢の限界がきていた。でも相手はイケメンだったし、すぐに別れたりすると噂好きな女子達の格好の餌食となるのでどうにか受け流していた。 だけど、私がケータイでその日の夕飯について兄貴と話していた時、俺以外の男と話すなと奴が私のケータイ(しかもおニュー)をへし折った瞬間、私は別れを決意した。 ちなみにケータイはきちんと弁償させた。当たり前だ。 脅して余分に金を巻き上げたのはここだけの秘密だけど。 その次の彼氏はDV男だった。こいつとは割とすぐに別れた。 初めはどこの優男かとドン引きになるほど甘甘だったのに、次第に扱いが乱暴になり、暴力を振るい始めてきたからだ。 もちろん、殴られて泣き寝入りする私ではない。 十倍返しでボコボコにしてやった。 すると泣きながら別れてくださいと土下座され、なぜか自分が悪いことをしたような気分になったから不思議だ。 ちがうだろ、先に手を出してきたのはお前の方だろうが。そう言い返したいのは山々だったけど、さすがの私もこの時ばかりはその男と関わりを絶ちたかったのですぐさま了承した。 私が振られた形になったのは今でも納得いってない。 最後の男は、最初の男のように浮気症だった。 さすがに四股まではしていなかったけど、私と付き合っている間にも普通に他の女の子に手を出していたらしい。 私はもう諦めていた。もうどうにでもなれと思いながら、私の男歴のこれ以上傷をつけてくれるなと、それだけを願っていた。 だが、その願いも虚しく、そいつは2つ年下の女の子を妊娠させた。その女の子には申し訳ないが、妊娠させられたのが自分じゃなくて心底ほっとしたものだ。 「ねえ、俺どうしたらいいと思う?」と男が泣きついて来た時、私はすぐさま荷物をまとめて逃げた。知るか。そんなこと私に聞くな。一生を持ってその子に償いをしろ。 もっとも、荷物をまとめて逃げたと言ってもまだ高校生だったのでそんなことが簡単に出来るわけがない。ただの比喩だ。 「私の(元)彼氏が女の子妊娠させちゃったから付きまとってくる(元)彼から逃げるために引っ越したい」なんて親に言えるわけがない。 運のいいことに、私と奴の高校は別だったので、アドレスを消して、着信拒否にして、会わないように必死に逃げ回ることでどうにか事なきを得た。 この事件を経て、ようやく私は彼氏を作ることを諦めた。もっと早く諦めろよ、という話だが、まだ私も青かったのだ。 私はよく考えた。あの四人の元彼は、どこが悪かったのか。 いや、もちろん悪かったのは先程述べた通りなんだけど、奴らに共通している部分は何か。 そこでピンときた。……そう、揃いも揃って全員、イケメンだったのである。 奴らはイケメンだから何をしても大丈夫だと考えていたのだろう。 何てことだ。イケメン許すマジ。 私はイケメンと一生関わらないと心に誓った。そうすれば私にも明るい未来が待っている。自分が男運悪いなんて私は絶対に認めない。 こうして、大学生になった私は、「顔がいい奴にロクな奴はいない」という座右の銘の元、男(特にイケメン)に半径5メートル以上近づかないというレッテルを背負って生きていこうと決意していた。 だからボーダーになったのだ。 トリオン体で戦うと言っても戦闘職なわけだから、イカツイ筋肉ムキムキのゴリラっぽいむさ苦しい男しかいないと思っていたから。 そりゃあ嵐山隊とかはテレビで見たことあるし、初めて見た時はうわイケメンだ、なんてちょっと身震いしたけど、広報の仕事をしているんだから彼らの顔が良いのは当たり前だ。 むしろイケメンじゃないとおかしい。他のボーダーは普通の顔に決まってる。うんうん。というか申し訳ないけどブサイクだったらいいな。いやブサイクだよね、絶対。 そう思っていたのに。 そう思っていたのに! どうしてこんなに顔が整ってる人が多いんだ。 女の子も可愛い子が多い。それはいいんだ、癒されるから。 でもイケメンは!イケメンだけは! 正直お近づきになりたくないけれど、私はA級の加古隊なので他のA級の人と関わらないわけにはいかない。 まさにナンテコッタである。 ボーダーにイケメンなんているわけないじゃん、と高を括っていた過去の自分を抹殺したい。 イケメンがいるわけないどころかイケメンしかいないわ! 馬鹿か。私は馬鹿なのか。 今はまだボーダーのイケメン衆に世間話とか振られてもさりげなくかわせてる。でもそのうちそんなこと出来なくなるに違いない。 この間は前方からやって来るダンガー太刀川の視界に入らないようにすぐさま双葉ちゃんの背中に隠れたけど本当に何やってんだ自分。 13歳の女の子の影に隠れる20歳なんて恥ずかしすぎる。 だけどこればかりはしょうがない。 キョロキョロと辺りを見回しながら廊下を歩く。うっかりイケメンと遭遇、なんてことにならないように私は毎日必死なのだ。今ならボーダーの挙動不信ランキングでトップを取れる自信がある。そんなランキングはないけれど。 「おい、名字」 「ひっ!!!」 突然声をかけられ思わず声を上げてしまう。 なんと。敵は背後から忍びよっていたらしい。後ろとは盲点だった。 ギギギ、とロボットのようなぎこちない動作で後ろを振り返る。 「か、風間さん…」 目の前にいるのはチビだがイケメン、名前ですらイケメンと認めざるを得ないハイスペックさを醸し出す風間蒼也であった。 さすが小型かつ高性能なこの男。私の背後を取るなんざ容易いということか。 私を見るなり、風間さんは不思議そうに呟いた。 もちろん彼の表情は変わっていないので完全に私の捏造である。 「顔色悪いぞ。具合でも悪いのか」 「いえいえいえ、滅相もない!元気です!」 慌てて首を振って否定する。あまりにも必死に振りまくったので気分悪くなった。 きっと私の今の顔は青白く冷や汗たらたらなのだろう。だがそれは全てお前らイケメンのせいなのだ。 「そそそそそれでは!」 私は挨拶もそこそこに走り去る。怪しさを紛らわそうと右手をあげて挨拶してみたけど余計に不信感倍増だ。 だが仕方ない。私の中では風間さんはかなりのレッドゾーンなのだ。 ああいうクール気取ってる奴ほど豹変した時のキチガイ度はハンパじゃない。私が過去の四人の男達から得た勘がそう言ってる。 ビュンビュンと疾風の如く廊下を走る私を周りの隊員がヤバイものを見るかのような眼差しで見てくるが気にしない。 逃げろ逃げろ。風間さんから、イケメンから、かつての男達の呪縛から。 「うぎゃ!」 今度は誰かにぶつかってしまった。イケメンじゃありませんように。 謝りながら恐る恐る顔を上げれば、 「あれ、名前さんじゃん」 迅だった。 「死ねええええええい!」 「え、ちょ、酷くない!?」 私はさらに逃げた。 こいつはヤバイ。風間さんよりもヤバイ。 女の子に軽々とセクハラするその姿勢、私の最後の男とそっくりだ。 あのままいけば確実に誰かが身籠る。「俺のサイドエフェクトがそう言ってる」なんてドヤ顔してる場合じゃないよ、まだ19歳なんだからそんなことで人生棒にふっちゃいかんよ。 走って走って、私はようやく隊室の前までやって来た。ほっと一息つく。 ここまで来たら大丈夫だ。なにしろ加古隊はガールズ隊なんだから。 乱れた息を整えて、隊室の扉を、 「あれ、名前?」 「……………」 太刀川だった。私のヤバイ男ランキングで迅とツートップを誇る太刀川だ。 ヒゲモジャで髪ボサボサで目は死んでいるがこいつはやるときはやる男だ。個人的見解では女子高生を食い漁ってそう。 関わるな、危険。隊服もなかなか中二極まりない格好だし。 「ねえなんか失礼なこと考えてない?」 「ま、ままさか。そんな」 こいつはエスパーか。私の心の声を聞き取るとは、やはり侮れない。 弱みにつけこんで金でも巻き上げるだな。 はっ、そういや今までヒモ男は体験したことがない。ここにきて新手の出現とは、神も私に試練をお与えになるものである。 焦る私を他所に、太刀川はダラダラとした口調で続けた。 「そういえば、名前って、彼氏」 「彼氏!?」 思わず遮り、ファイティングポーズをとってしまった。 彼氏だと!?なぜお前が私の彼氏云々について聞いてくる。 「いや、そんな怪しそうな顔しなくても」 その言葉を聞いた私の行動は速かった。 クルンと体の向きを変えるとドアノブを手に取り、隊室の扉を開く。そのまま吸い込まれるように中へ入ると、大きな音がたつくらいすごい勢いでドアを閉めた。 やばかった。危なかった。ドクドクと鳴る心臓が痛い。 どいつもこいつも私の半径5メートル以内に近づきやがって。いやそりゃあ、半径5メートルはなかなか無理があると自分でも思うけどさ。 だいたい、ボーダーのくせにイケメンパラダイスなんて反則だ。 マジイケメンとか嫌なんだけど。拒否反応で蕁麻疹が出そうな勢いだ。 私は胸に手を当てて小さく息を吐く。 お願いだから神様、イケメンのいない平穏な日常を私にください。 (ボーダー試験の審査基準には顔面偏差値でも含まれているのだろうか) |