「荒船荒船!ビッグニュース!」

前方から、満面の笑みを浮かべた名前がパタパタと元気よくやって来たため、荒船は仕方なく足を止めた。周りの隊員たちも、騒がしく廊下を走る名前に何事かと驚いたような表情を見せる。
こいつにはアタッカーのイロハ以前に公共の場でのマナーを叩き込むべきかと、荒船は真剣に思った。

「廊下で走るな」
「イタッ!可愛い弟子を殴るなんて酷い」
「残念ながら俺に可愛い弟子がいた覚えはねえ」
「え〜。鋼も私も可愛い可愛い愛弟子でしょ?」
「鋼はともかくお前は可愛くねぇ」
「荒船冷たい…」
「うるせえ。さっさと話せ」

ぶー垂れる名前の額に軽くデコピンをしてから、話を促す。痛かったのか、少しの間涙目で額をさすっていた名前だったが、ビッグニュースとやらを思い出したのか、そうそう、といたずらっ子のような笑顔で答えた。

「今日の昼休み、鋼が告白されてた!」
「へー」
「びっくりした?」
「別に」
「何で!?」

つれない返事をする荒船に、何故かドヤ顔で胸を張っていた名前の表情が崩れる。これはいい情報だと思っていた名前にとって、荒船の反応は予想外のものだった。そして、次に荒船が告げた言葉に、更に目を丸くする。

「あいつ、結構モテるだろ」
「え、鋼が?」

学校でもボーダー内でも、ほとんど村上と一緒にいる名前だが、村上が告白されているところを見るのは今日が初めてだった。だからこそ、これはビッグニュースだと思い、授業が終わると同時に、早く荒船に知らせなければと猛スピードで本部へとやってきたのに。

確かに、優しいし強いしかっこいいけど…と、思わず惚気か、とツッコミたくなるような発言をする名前を見て、荒船は小さくため息をついた。
名前は知らないが、村上が告白されることは得に珍しいことではない。ボーダー内でもたまに見かけるほどだ。

荒船は村上と同じ高校ではないので学校ではどうなのか知らないが、おそらく名前が気づかないだけで村上に好意を抱いている生徒はそれなりにいるはずである。もっとも、四六時中金魚のフンのように村上について回る名前という存在があるので、それなりに牽制にはなっているのだろうが。

「そう!それでね、相手はすっごく可愛い女の子だったのに、鋼ってば今はボーダーに専念したいからって断ったんだよ!」

もったいないなぁ、と口を尖らせる名前。
村上が誰とも付き合わない理由が手に取るようにわかる荒船からすれば、何言ってんだお前、である。

「…誰のせいだと思ってんだ」
「え?」
「チッ。何でもねえ」
「舌打ちなんてしてると女の子寄ってこないよー?」
「うるせーよ」

何も知らない間抜けヅラにイラッとし、荒船は名前の鼻を軽くつまむ。フガフガと苦しそうな顔をする名前が可笑しくて、荒船は小さく笑った。

「お前は、鋼が誰かと付き合ってもいいのか?」

俺たちが、ではなく鋼が、と聞いたのは自己保身に走ったためだろうか。

「え?なんか言った?」
「…いや、何でもない」

村上が告白を断る理由も、自分がこんなことを聞く理由も、まだこの馬鹿は知らなくていい。