「太刀川さん!」

防衛任務を終えた私は、間抜けヅラで至福のひとときを過ごしている餅太郎の元へと急いだ。かの個人総合ランク3位、A級3位部隊の隊長である神に愛されしベビーフェイスを持つ男、風間さんに冷徹な目で「お前ほどの馬鹿はみたことがない」と吐き捨てられたほどの大馬鹿者。
我らが太刀川隊隊長、太刀川慶である。

「ん?どうかしたか?」

私の怒りを知ってか知らずか、(100%知らない)呑気に聞いてくる男に殺意が芽生えてくる。どうかしたかじゃねえよ餅食うなこの餅川が。美味しそうにびよーんびよーん伸ばしてんじゃないぶった斬るぞ。
そんな暴言を必死に押さえ込んで、冷静に切り返す。

「な ん で!例の黒トリガー争奪戦!私は呼んでもらえなかったんですか!ふざけるなよこの髭男!」
「おい、落ち着けって」

訂正しよう。私は冷静ではなかった。
でも仕方がないと思うんだ。
だって私太刀川隊だよ?太刀川隊のスナイパーだよ?
なのに自分の隊長が人の黒トリガー強奪とか胸糞悪いことしてたなんて全く知らなかったんですけど。あの出水とか米屋だって戦ったらしいのに。解せぬ。しかもあの馬鹿ども、3人のLINEグループで『いやー、なかなかいい戦いだったな』『またやろうぜ』とかいうふざけたトークしてたよ?よくわかんないけど機密情報じゃないの?知らないけど。
とにかく、その槍馬鹿と弾馬鹿のお陰で私は太刀川さんに直談判するハメになったのだ。

ふがふが怒る私を尻目に、太刀川さんは面倒くさそうな顔で告げる。

「いや、だって船酔いでお前ダウンしてたじゃん。冬島さんと一緒に」
「ふぉーーー!」

それか!そういやそうだった。
確かに遠征の帰り、乗り物酔いしやすい私は冬島さんと一緒にゲロゲロしていた気がしないこともない。無事に帰還してもしばらくは2人仲良くげっそりやつれていたことは記憶に新しい。

『あれ、死んだおばあちゃんがいる。待って、どこに行くの〜?』『待て、名前それついて行っちゃダメなやつ…三途の川…うおえっっ』『うっっ…あれ、もしかして、ふゆしまさん?ふゆしまさんがてえふってるよ?お〜い』『え、マジ?俺そこにいんの?俺もう死んでるのか?嘘だろ』『おええええええええっ』『くっっさっっっ』

「…………」

ダメだ、嫌なこと思い出した。あの日以来冬島さんとは会ってない。お互い醜態を晒しあった後などで妙に恥ずかしいものがある。なんか最終的には『ムー大陸が〜』とか泣き叫んで抱き合ってたし。早急に忘れ去りたい。
ちなみに、私のおばあちゃんは健在である。

遠い目をする私を、太刀川さんが若干引いた顔で見ていた。

「私だって、呼んでもらえたら地べたを這いつくばってでも参加しましたよ!だって、折角!太刀川さんを合法的に!殺せる唯一の機会だったのに!」
「え、何お前、そんなこと考えてたの?」
「そうですよ。だって普段は出来ないじゃないですか」

何しろ私は太刀川隊なのだ。防衛任務で太刀川さんをぶっ飛ばそうものなら(もちろんそんなことはしない)問答無用で私がぶっ飛ばされるし、ランク戦でも味方だからぶっ飛ばせないし、そもそも私スナイパーだし。
アタッカーとスナイパーの模擬戦なんてない。どうにかこうにかしてやったとしても、スナイパーに対するただの虐めである。そもそも相手が太刀川さんじゃ瞬殺だ。
だからこそ、機を狙っていたのに。そう力説すると、

「いや、もしお前が黒トリガーの時いても味方だから。俺殺せないから」

と諭すように言われた。
あの戦闘以外ダメダメな太刀川に諭されるとか悔しすぎる許せない。

「でも私の風間さんならきっと『援護しろ、太刀川に当てても文句は言わない』とスナイパー達に言ってくれたはずですよ!」

そうしたら私は迷わず太刀川さんをぶち抜く。
それがスナイパーだ。

「確かに風間さんそんなこと言ったけど!別にわざと俺を撃つ許可を出したわけじゃないからな!?」
「さすがは風間さんです。ただ餅食ってるだけのモジャ髭とは大違い」
「お前ほんと風間さんのこと大好きだな!」
「当たり前でしょこんなクソ野郎が隊長だったらそりゃ風間さんに憧れますよね」

自然の摂理というやつですよ。
そう言うと太刀川さんはため息をつきながら頭を抱えた。
いや、ため息つきたいのはこっちなんですけど。
頭を抱えたいのもこっちなんですけど。
黒トリガー争奪戦でツイン狙撃とかぬかしてる佐鳥撃ち落としたかったんですけど。

「俺には女子高生が理解できない」
「そうやって女子高生とか一括りにするからダメダメなんですよ。風間さんだったらそんなの関係なく私という個人そのものを見て評価してくれます」

風間さんイケメンすぎるヤバイ。結婚しよ。

「あー、わかったわかった。なら今から模擬戦しようぜ」
「私の話聞いてましたかこの髭面が」

アタッカー1位とスナイパーの模擬戦とか鬼畜かコラ。なけなしのスコーピオン出せってか?使ったことないぞ近接武器とか。パーフェクトオールラウンダー目指してる荒船さんなら嬉嬉として応戦するかもしれないが、私には荷が重すぎる。

そう言いたかったけど、目の前の太刀川さんの目がいつもみたいに死んでなくて子供みたいにキラキラと輝いていたのでつい押し黙ってしまった。さすが戦闘馬鹿。

俺を殺りたいなら正々堂々と戦えってか。仕方ない。売られた喧嘩は買うのが礼儀。
お望み通り首ちょんパしてやろうじゃないか。戦うのは私じゃなくて風間さんだけどな。スマホを取り出し、風間さんに『キンキュウ ソウキュウニ シーキュウブースヘ クルベシ テキハホンノウジニアリ』とメッセージを送る。
ムー大陸の後遺症はデカいのである。

「よし、行くぞ名前」

テンション上がったのか急に肩を組んでくる太刀川さん。
セクハラで訴えるぞコノヤロー。

「気安く名前で呼ばないでください」
「あー、はいはい、名前ちゃん」
「ちゃん付けしないで気持ち悪い」
「ねえ、これ何が正解なの?」