「弾バカー!槍バカー!」
「あれ、名前じゃん。え、何キレてんの?」
「うるっせーやーい!」
「ぐはっ!痛え!」

防衛任務から帰って来たのだろうか、本部のロビーで仲良く話している二人に声をかける。

元からイラついていたのに米屋の「キレてんの?」でさらにイラッときてしまった。
何だよ何だよ。私は『キレてないっすよ』とか言えばいいのか?

そんなの関係ねえ!私はキレてるんだよ!
そんな冗談も言えないぐらいにムカついてるんだよ!

仕方がないので出水のみぞおちに一発決めてやった。
米屋じゃなく出水を殴ったのは、ねえ。そこは同じ隊に所属している仲間だからという理由で納得していただこう。

「で?今日は何があったんだよ」

殴られたところを痛そうにさすりながら聞いてくる出水。
完全なる私の八つ当たりだというのに怒らないなんて、なかなか出来た男である。持つべきものは友達だ。
いや、冗談です。殴ってごめんね。

「あの、私がいつも何かやらかすみたいな言い方やめてくれます?」

嫌そうに顔をしかめると、「間違ってはいねぇだろ」と槍バカ。ケラケラ笑うな小賢しい。
まあ、そんなことはどうでも良くて。

「負けたんだよさっき!あの餅川に!」
「餅川?ああ、太刀川さんか」
「え?お前模擬戦やったの?太刀川さんと?」

おい米屋、あれ、お前スナイパーじゃなかったっけ?何やってんの?みたいな視線をコチラに投げかけてくるのはやめてくれ。
私だっておかしいと思うよ?だって私、スナイパーだもの。別にジョブチェンジしたわけでもなく、生粋のスナイパーだもの。弧月とか、スコーピオンとか使ったことないし、カッコつけてポケットに手つっこみながら『アステロイド』とか呟いたこともない。ちなみにこれはただの悪口である。私は某B級1位の隊の隊長とはあまり仲がよろしくない。主に太刀川さん関係で。

結局、あの後太刀川さんに無理矢理ブースへと連れて行かれ、渋々孤月で模擬戦するハメになった。結果は想像するまでもなく惨敗である。

まるで彼氏の浮気を知り、発狂しながら包丁をブンブン振り回すメンヘラ女子のように戦う私を見て、太刀川さんは『お前すげえな』と別の意味で感心していた。嬉しくない。

風間さんを連行しようとしたものの、任務だとか面倒臭いだとか関わりたくないだとかで助けてもらえなかったし。許すまじベビーフェイス野郎。

「そりゃあ負けるのも当たり前だろ。お前スナイパー用のトリガー以外ほとんど使ったないじゃん。しかも相手は太刀川さんだし」
「そうだけど!そうだけど!」

出水の言葉についさっきの光景を思い出す。
あろうことか太刀川は模擬戦で可愛い後輩である私をコテンパンにぶちのめした挙句、「じゃあ俺今から防衛任務だから」と敗北のあまり床にへたり込む私を置いてさっさと去って行ったのだ。許せない。こっちは初めて孤月使ったというのに。わあ〜モノホンの刀だあ〜とか感慨にふけってたらいつのまにか終わってたよ。ふざけんな。
絶対に許さない。末代まで呪ってやる。

「お前本当に太刀川さんのこと好きだよなー」
「おい槍バカぶっ飛ばすぞ」

今までの話を聞いてなぜそんは言葉が浮かんでくる。
馬鹿なのかコイツは馬鹿なのか?ああそうだった悲しいことにコイツは馬鹿なのだった。

可哀想な目で米屋を見ると、そんな私の視線に気づいたのか槍バカが頭を小突いてきた。「女子に手を出すとは何事か!」なんて言いながらすねを蹴りあげると槍バカは声にならない悲鳴をあげてうずくまった。
ごめん、流石にやり過ぎたわ。

そんな私たちを見ながら出水が呆れたように呟いた言葉は、あまりにも衝撃的だった。
驚きすぎて全米が心肺停止したと言っても過言ではない。

「でも、俺たちと話す時太刀川さんの話ばっかじゃん、お前」

…何それ。

「…マジでか」

驚きすぎて声が掠れてしまったのはご愛嬌。

「マジマジ」

二人揃えてうんうんと頷くのでたぶん本当なのだろう。
そして少し涙目になってる米屋、誠にすみませんでした。

…ああ、でも、自分でもそんなことはないと言いきれないところがつらい。
何だこれ。うわぁ、恥ずかしい。死にたい。

「私ちょっくら死んでくるわ!」
「いやいや待てって」
「はーなーしーてー!」

別に太刀川さんのこと好きなわけじゃないよ?
太刀川さんの話ばっかりって言っても悪口オンリーですけどね!
恥ずかしいもんは恥ずかしい!死にたい!

でも私の肩を掴んで「どうどう」と言ってくる槍バカと弾バカのせいで逃げられない!私は牛じゃねえよ!

そんなアホみたいなことをしていた時だった。

二人が「あ、」という声をあげて掴んでいた手を離す。
ちょ、何してんの急に解放するなよ私めっちゃ前に体重かけてたんだけど。うぎゃあ、これ死んじゃう。

いきなり離された私は重量に従って壁とキッス、しそうになってふわっと誰かに抱きとめられた。
いや、ちょっといい感じに抱きとめられたとか言ってみたけどそんないいもんじゃない。
痛い、鼻打ったんだけど。
だけど私にはそんなことを言っている余裕はなかった。

そう、けっして身体を支えてくれている相手から香ってくるわずかな匂いを嗅いで「おや、この餅の匂いはもしかして…」なんてふざけたことをぬかしている場合ではなかったのである。

「何してんの?」

聞きなれた声に、恐る恐る顔をあげると、

「うわ、顔真っ赤」

太刀川さんの顔が、こう、なんか、至近距離で、

「ひぎゃーーー!!」

慌てて太刀川さんを押し退けて走り去る。
その際2、3回つまずいたのは私のせいじゃない!妖怪のせいなのですなんて言って誤魔化すことができれば誰だってやってるよねああ辛い。

後ろから自分を呼ぶ声が聞こえて、赤くなった顔を必死に隠しながら考える。これからどうやって誤魔化せばいいんだろう。