私が何か喋ると、風間さんはいつも心の底から嫌そうに顔をしかめる。それは、私が壊れて止まってしまった時計のように、ただひたすら"好き"という言葉しか言わないから。例えば11時23分で止まった時計なら、1日に2回だけはぴったりと時が合わさるけれど、私と風間さんの気持ちが重なることはたぶん一生ないんだと思う。でも、告白じみたことを言うと決まって「やめろ」と綺麗な顔を歪ませる風間さんが、私は好きだった。

「いい加減にしろ」
「えー。まだ何も言ってないのに」

風間さんが私に冷たいのは、別に風間さんが真面目だからとかではなく、ただ単純に私のことが好みじゃないからだということは、つい最近知った。そりゃあ好きでもない女に毎日好き好き告白されたら迷惑以外の何物でもないだろう。嫌なら無視すればいいのにそれをしないのは、風間さんが真面目な人だから。これが優しさだと言えるならまだ良かったのかもしれないな、と少しだけ思う。

「お前の考えていることは大体わかる」
「えっ。風間さんが好きすぎて、蔑んだ目で"なら勝手に突っ込んで死ね"って言って欲しかったんですけど、本当にわかってました?」

ケラケラと笑いながら言うと、風間さんはまた顔を歪めた。イケメンってどんな表情でもかっこよく見えるからずるい。普段はあまり顔に表情を出さない風間さんだけど、私といる時はこれでもかというくらい嫌そうな表情を全面に押し出してくる。これだけは私の特権だ。他の人にはそんなことしないから、私はある意味風間さんの特別なのである。

いい意味であろうとなかろうと、好きな人の特別というものは気分が高まるものだ。この前迅さんに自慢したら、ドン引きした顔で後ずさりされた。失礼だなあの人。迅さんはイケメンだけど、私の話を聞いて うわ、みたいな顔をした迅さんを見ても、特にイケメンだとは思えなかった。風間さんがどんな顔をしてもかっこいいというのは、恋のフィルターがかかっているせいなのかもしれない。恋愛万歳。

「俺はお前のことを何とも思ってない」
「うんうん、でも私は好きですし。この想いを止めることは、いくら風間さんでもできませんよ!」

高らかに宣言すると、「ストーカーで訴えるぞ」とマジなトーンで言われた。ふむ、愛のためには何かを犠牲にすることも必要だということか。別に自分がストーカーだとは思わないけど。同じボーダーなのだから毎日会うことは別におかしいことでもないんだし。完全に故意の遭遇であることは否定しないが。恋ゆえに故意の逢引を果たす私。うん、行けるわ。

「風間さんのためなら、地獄でもトイレでも刑務所でも、どこまででも付いて行きますよ!」
「俺まで犯罪者にするな。トイレに付いて来る必要はない」
「えー。二人で愛の逃避行しましょうよー。あれ、もしかして、私がこの前こっそり男子トイレに潜んでたこと気づいてました?」
「一人でやれ。俺は知らないが太刀川が言ってたぞ」
「マジかよ…太刀川だと。ウキウキしながら風間さん待ったのに、あれ太刀川さんだったのか…!」
「…いい加減捕まるぞ」
「もしかして心配してくれてるんですか!?きゃー!風間さんったら!このマイエンジェルめー!」
「近づくな鬱陶しい」

流れ的にここは抱きつくべきだろうと考えに引っ付くと、有無を言わさずベリっとはがされてしまった。クールな風間さんまじジーザス。

「ねえねえ、風間さん」
「なんだ」
「受け取ってもらえなかった気持ちは、どこに行っちゃうんですかね」

どこかの漫画で読んだことのあるこの台詞。なるほど、なかなか情緒的な言葉だ。消化されずにいるこのふわふわした気持ちは、いつか私の中から消えてくれるのだろうか。そんなまさか。私が風間さんのことを諦めるなんて、大嫌いなピーマンが食べれるようになるぐらいありえないことだ。あれ、冷静になってみれば結構有り得そうだな。

「風間さんへの想いは墓場まで持っていきますからね!」
「やめろ」

あの世でも風間さんを追いかけるなんて幸せすぎて脳から名前汁ブッシャーしそう。名前汁って何だ。風間さんがカッコよすぎると分泌されるホルモンだ。たぶん。

「そんなこと言って、いざ私が近づかなくなったら寂しくなって恋心自覚するパターンでしょ?風間さん。このツンデレめ!気づいた時にはもう遅いんですよ!」
「少女漫画の読みすぎだな」
「どうせ、自分の物にはしたくないけど他人の物になったら嫌がる身勝手な男なんでしょ!くっ…!ベビーフェイスを歪める風間さん…ジーザス!」
「近づくな離れろ頬をつつくな」

いつまで経ってもつれない風間さんに、「私のこと好きになる確率どれくらいですか」と聞いてみると、「俺の身長が170cmまで伸びるくらい有り得ない」と真顔で返された。うん、それって限りなく低くないか。
前途多難な恋…燃えるわ。

1人ニヤニヤ笑う私を風間さんが当たり前のように置いていくまで、あと10秒。ちなみに、本部の男子トイレに侵入した件で忍田さんから呼び出しをくらうのはその1分後である。

title by たとえば僕が