時枝に借りたハンカチを返しに、嵐山隊の作戦室へ来た。おどおどしながらもなんとかお礼を言い、ハンカチを渡し回れ右をして帰ろうとした途端、

「あ、名前さんだ!ちょうどよかった」

作戦室から顔を出した佐鳥に呼び止められたのだった。時枝以外の面々と顔を合わせないよう、綾辻ちゃんに時枝の連絡先を聞き、わざわざ作戦室を出る前に時枝に連絡し、嵐山隊の作戦室についたら『着いたから外に出て』とLINEを送ったというのに。全て台無しである。

すぐさま逃げ出したかったが、あいにくもうそんな気力は残っていない。最近は絡まれたり絡まれたり絡まれたりと忙しい毎日を過ごしているので疲れがピークなのだ。
話しかけてくる奴らのイケメン率の高さといったら。もう何がイケメンで何がイケメンじゃないのか、そもそもイケメンとはいったい何なのか、わけがわからなくなる始末である。



「名前さん知ってました?」
「いや知らないけど」
「ちょっと、『え、何を?』とか もう少しツっこんでくれてもいいじゃないですか!」
「え、今の私のマネ?全然似てない気がするけど」
「似てないですね」
「さすが佐鳥クオリティー」
「そこはツっこんでくれなくていいです!」

わざとらしく時枝と顔を見合わせれば、佐鳥は「俺の扱いひどい!」と不満顔だ。知ったことか。

「それで?もしかして、彼女ができたとか?」
「え、そうだったんだ」
「すごーい。おめでとう佐鳥」
「今度紹介してよ」
「やめて。佐鳥の心の傷を抉らないで」

まあ十中八九有り得ないだろうなと思いながら聞くと、案の定違ったようだ。彼女欲しい…と涙目で呟く佐鳥はあまりにも哀れで同情せざるを得ない。誰か、この2.9枚目に春を運んでくれる人はいないのか。

それにしても、時枝までノってくれるとは。さすができるキノコである。
私のつれない態度に、佐鳥はようやくこれ以上引っ張っても意味がないと気づいたのだろう、コホン、と咳払いをした後、やけにもったいぶった調子で言った。

「実は、今日は嵐山さんの誕生日なんです!」
「…へえ。そうなんだ」

身構えた割には予想以上にどうでもいい話で反応が少し遅れてしまう。いや、どうでもいいって言ったら失礼だけど。嵐山が誕生日?だからどうした。
なぜそれを嵐山とほとんど接点のない私に言うのかわからないが、まあ確かに相手が誰であろうと誕生日はおめでたいものだろう。本人には会う機会などない(というか作らない)から言えないだろうし、ここは素直に2人にお祝いの言葉を告げておくのが無難か。

「おめでとうございます」
「ご丁寧にどうも…?」

深々と頭を下げると、なぜか佐鳥が礼を返してきた。これで用は済んだだろう。そう思い、さり気なく去ろうとすると、空気の読めない佐鳥はニコニコと笑いながら爆弾を落としてきた。

「嵐山さんにケーキ買って来たんで、名前さんも一緒に食べましょう!」
「ご遠慮させていただきます」

即座に断れば、「遠慮しなくてもいいですよ」となぜかキメ顔で言われた。腹立つなこいつ。
違うよ、遠慮っていうのは社交辞令で本当は行きたくないんだよ、誰もがひれ伏すような完璧の笑顔で自分の顔面偏差値をこれでもかと言うほど無意識の内にアピールしてる君の隊長とは極力関わりたくないんだよ。…とは口が裂けても言えないので、取り敢えず苦笑いで誤魔化すことにした。

「いやー。せっかくの誕生日なんだから隊員水入らずで過ごしたほうが嵐山も喜ぶと思うな」
「大丈夫ですよ!嵐山さんも名前さんと話してみたいって言ってたし」
「それはお前の気のせいだ、佐鳥」

全然大丈夫じゃない。ダメだ、こいつじゃ話が通じない。私はできるキノコ、ヘルプミー。
助けを求めるべく、時枝に熱視線を送ると、それに気づいたのか、時枝はわかりました、というようにコクリと頷き、ゆっくりと口を開いた。

「ケーキはホールケーキなので大丈夫ですよ」
「違う!」

だから大丈夫じゃないんだって。そういうことが言いたかったわけじゃないんだよ。確かに、人様のケーキを貰うのは申し訳ないって気持ちもあるんだけども。

「隊員5人+名前さんで、元から6等分するつもりだったので」
「いや意味がわからない」

私が最初から頭数に入ってるとかおかしいにも程があるだろ。しかし、ようやくわかった。つまり、6等分したため1つだけ残っているケーキをどうにかすればいいだけの話なのだ。取り敢えず、ダメ元で提案してみよう。

「中学生なんだし、木虎ちゃんに2個あげれば?」

中学生なんだし、の意味が自分でも良く分からないがこれでどうだ。

「木虎は辛いものが好きなのでダメですね」
「チッ。綾辻ちゃんは?」
「グミが好きらしいのでダメです 」
「それは関係ないだろ。…なら、嵐山さんに2個あげれば?」

主役なんだしそれが妥当でしょ、と告げれば 今度は佐鳥が「結構サイズがデカいの買ったんで、6等分でも1人2個食べるのはキツいですよー」と口を挟んだ。知らないよ。私にどうしろって言うんだ。

「じゃあお前が食べろや!ほら、佐鳥ハンバーガー好きなんでしょ!?」
「え、名前さん俺の好きな食べ物覚えててくれたんだ!でもハンバーガーとケーキは全然関係ないですよね!」
「どうにかして関連付けろ!佐鳥、お前ならできる!」
「無茶言わないで!」

仕方なく佐鳥に八つ当たりしていると、時枝が腕時計に目を移して「そろそろ時間なんで行きましょう」と告げた。

「マジだ!名前さん急がないと!」「だから行かないって」「嵐山さんが楽しみに待ってるんですよ!?」「ないないない」「俺も名前さんが来てくれたら嬉しいです」「えー…」「ちょっと、なんでとっきーが言ったら少し考え込むんですか!?」「それくらい自分の胸に手を当てて考えて、佐鳥」「嫌だ、もう心折れそう…」

しばらくそんな攻防戦を繰り広げていたが、結局押しに負けて嵐山隊の作戦室へと連行されることになってしまった。



「嵐山誕生日おめでとう。君のその笑顔に恋焦がれしかしその恋が決して叶わないものであるという現実を知り絶望する乙女達の苦しみを知って大人になるがよいよ」
「名前さん、ありがとうございます!」
「やめてその純真無垢なキラキラアイドルスマイルをこれ以上私に向けないで溶けちゃうからごめんなさいごめんなさい神様私が悪かったです許してください出来心だったんです」
「名前さん!?大丈夫ですか!??」
「ああもうだめだイケメンがきたないくさいどうこういってやっぱりいちばんきたないのはこのわたし…」
「名前さん落ち着いてください。ほら、おれのぶんもケーキあげますから」
「ああん?そんなもんで私の心が救われるかよ?ありがとうだいすきとっきーよかったら苺もください」
「…いいですよ(意外と単純だなこの人)」