「レーイージーさぁーん!おっひさしぶりでーす!」

るんるんとステップを踏みながら玉狛支部のドアを開ける。
嫌なことがあるたびに訪れる玉狛支部。
可愛い陽太郎も雷神丸も癒しのレイジさんもいて、本部と違って非常に心が休まる場所である。

迅さんいたら最悪だけど。私はどうも迅さんとは相性が良くないらしい。
というかああいう飄々として何考えてるのかわからない人は苦手だ。
迅さんしかり、太刀川さんしかり。
人間みな三輪みたいにシスコン(シリアス)だったら分かり易いだろうに。それはそれですごく面倒くさいけど。

でも今日は情報(宇佐美情報)によると迅さんはいないらしい。
つまり、レイジさんを堪能するチャンスということだ。
ああ、幸せ。
そう思っていたのに、

「…………………」
「…………………」
「…あ、あの、」
「……誰っ!?」

扉を開けた先には、メガネが似合う見知らぬ少年がいたのだった。


「おお、名前ではないか」
「陽太郎!このメガネくん誰!何?人間!?!?」
「あの…」
「最近巷で話題になってる不審者か!?露出狂か!?下着泥棒か!?陽太郎を離して!玉狛の安全は、この私が!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

見慣れぬメガネ君に焦り、トリガーを起動しようと手を伸ばす。
すると、ここまで傍観していた陽太郎が雷神丸からのっそりと降りつつ言った。

「名前、こいつは修だ」
「修?」

いやいや陽太郎さん、急に修、ってだけ言われても私にはわかりませんよ。修?何それおいしいの状態ですよ。
私はほぼ毎週こっちに来てるのに見たことないなんて、やっぱり、不審者?でも陽太郎は知ってるみたいだし違うか。
私の怪しげな視線に気づいたのか、メガネの少年は少し慌てたように言葉を発した。

「あ、あの、三雲修です」
「あ、それはそれはご丁寧にどうも…」
「い、いえ……」

何だこの気まずい空気。お見合いか。いやお見合いなんてしたことないからどんなのか知らないけど。

それにしても…三雲修、と名乗るメガネくんをじっと見る。やっぱり、どこをどう見ても初めて見る顔だった。

でも堂々と自己紹介をしてきたところを見るとどうやら怪しい人物ではないのだろう。
まあ陽太郎も馴染んでるみたいだし。

そもそも名前だけ名乗られたってね、誰が誰だかわからないよ。ボーダー隊員何人いると思ってるの。
私は自慢じゃないけど頭はそこまでよろしくない。テストの点なんていつも槍バカよりちょっといいくらいだし。ああ、嫌なこと思い出しちゃった。実はあんまり太刀川さんのこと馬鹿にできないんだよな。あそこまでじゃないからいつも馬鹿にしてるけど。

「あ、すみません。玉狛第二の三雲修です」
「玉狛第二?…もしかして、新しく玉狛に入ったっていう…」

そういやそんな話を聞いた気がしないこともない。
あのシスコン(三輪)が近界民がボーダーになるなんてありえないやらどうたらこうたら思い悩んでいたのはこういうことか。やけに最近ダークなオーラを纏ってると思ってたんだ。みんなで無理矢理カラオケに連れて行ってちびちびオレンジジュース飲んでるだけで一言も喋らないし。
米屋が黒トリの白チビが云々言ってたのも記憶に新しい。確かその時、その近界民以外にも2人玉狛支部に入隊したって聞いていた。
それにしてもあいつらベラベラ喋るな。そりゃあ私も(本来なら)その作戦に参加してたはずだからあまり問題ないのかもしれないけども。


「あ、そうだ!修君、レイジさんは!?」
「レイジさんですか?今は千佳と訓練室にいると思いますけど…」

千佳?はてさて。また聞き覚えのない名前。だが私は学習した!たぶんその千佳ちゃんというのは玉狛支部の新人だろう。

「あ、千佳はレイジさんに弟子入りして…」

ほら、やっぱり私の思った通りで、

「弟子入り!?」
「は、はい」

ナンテコッタ!オーノー。ちょっと待てありえないだろ羨ましすぎる。

あまりのことに開いた口が塞がらない。このままいけば間違いなく顎が外れる。何が言いたいのかというと、つまりそれだけ驚愕した。

修君によると千佳ちゃんはスナイパーで、玉狛で唯一スナイパー経験のあるレイジさんが師匠になったらしい。

私だってスナイパーだぞコノヤロー。レイジさんにスナイパーの基礎を教わりたかった。
なんて言ったってレイジさんはパーフェクトオールラウンダーだもの。
憧れるなと言うほうが無理である。

「私も、レイジさんに手とり足とり…くっっっ」

あまりの悔しさに歯を食いしばる。
だいたい私は玉狛支部に行きたかったのに。玉狛第一でレイジさんと共に戦いたかった。

でも迅さんとか迅さんとか迅さんがあまりにも嫌すぎて太刀川隊に入ったのだ。そうじゃなきゃあんな餅川の隊なんてまっぴらごめんこうむる。

確かに太刀川さんは最強だと思うけど私生活があまりにも酷すぎて尊敬なんて出来ない。
むしろ哀れみの目で見てしまうほどだ。


「いいな〜レイジさん…」

迅さんなんか我慢して自分も玉狛に入ればよかったという後悔の念がうずまくが、そんなことを言ったって今更どうしようもない。そんなことはわかってる。でもやっぱり悔しい!よし、こうなりゃヤケだ!
やけ酒持って来い!という言葉を飲み込んで私は高らかに叫んだ。


「修君、共にレイジさんの話で盛り上がろうではないか!」
「えっ?は、はい!」
「仕方がない、おれも参加してやろう」


こうして、烏丸が邪魔しに来るまで私達は心ゆくまでレイジさんについて語りあったのである。