| 好きな人に勇気を出して告白すると、「俺ロリコンじゃないから」と苦笑気味に言われた。ただの私の一目惚れで、話したことなんて今まで一度もなかったから、そりゃあ振られるとは思っていた。急に告白してきた女を彼女にする奴なんて、来る者拒まずなチャラ男だけだ。相手がとびきりの美人だったら別かもしれないけれど。 ただ、あいにく私は平凡な、どこにでもいるような女だ。だから振られてしまったことに不満はない。だけど、まさかそんな理由で振られるとは。その言葉を聞いた瞬間、『好きな人』は『好きだった人』に早変わりした。 「ロリコンってさ、私はりっぱな20歳ですが。何なのあいつふざけてんの、ちょっとモテるからっていい気になりやがってクソヤロー」 膝を立てグビグビとお酒をあおる。ああ、苦い。失恋の後の苦さならまだ許せるけど、これは自分の男を見る目の無さに対する苦みだ。あんな男を一瞬でも好きになるなんて。 もうやだ。黒歴史ものだ。 確かに私は背が低いし顔も童顔と言うよりただガキっぽいだけですけどね、さすがにあれはないだろう。イケメンだったら何を言ってもいいわけじゃないんだぞ。恥を知れ、恥を。 ジョッキ片手にぶーぶー愚痴たれていると、目の前に座っている風間さんが「足を閉じろ。うるさいからギャーギャー喚くな」と渋い顔でオカンの如く注意してきた。 「だって!本気でありえないんですけど!ロリコンて!」 「相手は同じ大学の理学部男子、187cmの高身長らしいな」 「え、何でそこまで知ってるんですか風間さん」 風間さんに教えた覚えはないんだけど。まさかストーカー?と怯えた目で見つめれば「太刀川から聞いた」とやけにあっさりした答えが返ってきた。 あの外道め。ダンガーのくせにペラペラ話やがって。あとで死刑執行台に送り込んでやる。メラメラと闘志を燃やす私をよそに、風間さんはモグモグと焼き鳥を美味しそうに頬張っていた。その姿はあまりにも可愛くてとても21歳男子には見えなかったので少しだけ泣きそうになる。 「今回は高望みしすぎたんじゃないのか」 「風間さんなかなか失礼なこと言いますね、ぶっ飛ばしていいですか?」 危ない危ない、あやうくトリガー起動しちゃうところだった。戦闘体でもないのに首ちょんパしたらさすがの風間さんでもお陀仏だ。 「そもそも、私が恋多き女みたいな言い方するのやめてもらえます?」 今回は、って何だ今回はって。私のことを、毎度毎度恋しちゃ告る、恋しちゃ告るを繰り返す尻軽女とでも思っているのか。 失礼極まりない。 「事実だろう」 「まさか。私は本当に好きになった人にしか告白なんてしませ〜ん」 調子に乗って「バーカバーカこのおチビ〜」なんて言っていたら風間さんの目が鬼のように釣り上がったので、瞬時に口を閉じた。今ならムール貝になれそう。いやはや、命は大事だ。 「太刀川から、背が高くて比較的見た目のいい奴がいたらすぐさま告白していると聞いたが」 「げっ」 何てことを言ってくれているんだ餅川よ。確かに事実っちゃあ事実だけれども。 ただ、これには深い事情があるのだ。 「風間さん、よく聞いてください。私たちベビーフェイス同盟の宿命を」 「そんな同盟に入った覚えはない」 「やだあ〜、風間さんったら、もう冗談ばっかり。これは本人の意志とは関係なく強制的に組まざるをえない同盟なんですよ。神より選ばれし者は、その宿命からは避けられない運命なのです」 そう、私たちはベビーフェイスの呪いを背負いながらこの先も生き続けなくてはならない。 たとえ中学生に間違われようとも、居酒屋に行ってビールを頼むと必ず年齢確認をされようとも、私は20歳だとドヤ顔で身分証明を出して店員に『えっ、マジでこいつ成人してんの』とひどく哀れんだ視線を向けられようとも、悲観することなく涙を堪えて立ち上がらなくてはならないのだ。 なぜなら私たちは、ボーダーだから。 「…だいぶ酔ってるな」 「風間さん、女の子はね、彼氏との身長差を多少は気にするもんなんです。『私、蒼也が小さくても気にしないから!』なんて言う女の子ほど風間さんに気を使ってヒール履くのを我慢してたりするんですよ。まったく、健気な話だ」 「お前は身長差を40cmも望んでいたのか。馬鹿だな」 「だから私の話はいいんだって!」 今回はたまたま相手が187cmだっただけですから。私は身長差15cmぐらいで十分。風間さんだとちょっと足りないな、残念。 「風間さんって、チビですよね」 「その言葉をそっくりそのままお前に返す」 「女の子は小さくてもいいんですよーだ!」 私は別に風間さんが小さくてもどうでもいいけど。風間さんはもう少し自分の背の低さを気にした方がいいんじゃないだろうか。小型かつ高性能とか言われてるけど、小型は別に褒め言葉じゃないからね、ぶっちゃけ小型かつ高性能(笑)だからね。風間さんはそのへんをわかっているのだろうか。 「俺は女子の平均身長はある」 「ちょ、涙出そうなんでドヤ顔でそういうこと言うのやめてください」 なぜだかこっちまで悲しくなってきた。 ああやばい、本当に涙が…あ、マジでやばい。 「風間さん」 「何だ」 「気持ち悪い…」 目から涙が出ると思ったら口から何やら飛び出してきそうだ。下品なこと言ってごめんなさい。 ちなみに一応言っておくけど断じて風間さんが気持ち悪いわけではない。そこは誤解しないでいただきたい。 「飲みすぎだ」 風間さんは青白い顔で口を押さえる私を見て、呆れたような顔で呟いた。 返す言葉もございません。 ▽ 「うー、寒いー」 春とはいえ、深夜はまだ冷え込む。居酒屋にて催した吐き気はだいぶ楽になり、あの後どうにか事なきを得た私は風間さんの小さな背中に引っ付いていた。最初は(本気で)嫌がっていた風間さんも、酔っぱらいだからと大目に見てくれたのか、おんぶまでしてくれている。 寒いけど、風間さんの体温はあったかい。何だか幸せな気分。 「風間さんって、やっぱり小さいですよね」 私を背負って、ちっこい風間さんの骨が折れたりしないか少しだけ心配だ。自分がそこまで重いとは正直思いたくないけれど、落ち着いた筋肉のレイジさんと違って風間さんはヒョロヒョロおチビちゃんだし。まあ、レイジさんと比べたら、ほとんどの人類はもやしレベルなんだけど。 「お前は重いな」 「風間さん、私が言うのも何ですけど女の子にそういうこと言うのは良くないですよ。ここは嘘でも『君は羽根のように軽いね』と、そのベビーフェイスを煌めかせないと。背が低い上に乙女心もわからないようじゃ女の子とのフラグなんて立ちません」 お酒のせいだろうか、何だかすごく気分がいい。不思議だ。さっきまでは気持ち悪かったはずなのに。 「安心しろ、お前とフラグを立てる気は毛頭ない」 「冷たいな〜、風間さんは」 そんなに面倒くさそうな顔しないでよ。 せめてもの反抗にと、風間さんの首元に顔をうずめてみた。あ、やっぱり嫌そうな顔した。今日一番の仏頂面だ。 だけど優しいから、振り解けないんだろうな。風間さんにも可愛いところがあるもんだ。 今日だけはその甘さに甘えて、私はそのまま目を瞑った。 |