「あれ?名前先輩、来てたんですか?」
「げ、とりまる」

修君と話すこと数十分、足音が聞こえたのでレイジさんかと期待してみれば部屋に入ってきたのは烏丸だった。
ちくしょうコノヤロー。私のドキドキを返せ。

「修、お前名前先輩と仲よかったのか?」

烏丸は私たちが談笑していたのを不思議に思ったのか、修君に尋ねる。だけどその間も表情が全く変わらないのが地味にムカつく。
もっと表情豊かに生きろよ!
これについてはレイジさんにも当てはまるので口には出せないけれど。

「いえ、今日初めて会って…名前先輩、ですか?」

メガネ君の反応を見て、そう言えば自分がちゃんと名乗っていないことを思い出した。
こんな女と語り合ってくれるなんて修君はなんていい子なんだろう。私にもこんな後輩が欲しい。
本部はあまりにもギスギスしすぎてるもんなあ。緑川とか木虎ちゃんとか黒江ちゃんとか。……あの子たち怖い。


「この人は名字名前、太刀川隊のスナイパーだ」

おい烏丸、まだ自己紹介もしてなかったのかあんたは、みたいな視線を投げかけながら私を紹介するのはやめろ。

「太刀川隊…!A級1位の!」
「名前先輩はそんなに尊敬に値する人じゃないから大丈夫だ」
「こんのもさもさした男前がぁぁぁぁ!」

修君今ちょっと尊敬の眼差しで私のこと見てたじゃん!すげえ強い人だ、みたいな感じで見てたじゃん!
キリッとした顔で酷いこと言うのやめてくれる!?
確かに尊敬されるようなことをした覚えはないけど、曲がりなりにも太刀川隊のスナイパーだからね?それなりの実力は持ち合わせてるつもりなんだけど。

なぜ烏丸は私にこんなに当たりが強くなったのか。辛い。
後どうでもいいけどもさもさした男前は悪口じゃない。

「だって、どうせ本部で何かあってコッチに逃げてきたんですよね?」
「べ、別に!勘違いしないでよね!」
「そこツンデレ使うところじゃないです」

私の渾身のボケも無表情で一蹴されてしまった。悔しい。

「また太刀川さんとモメたんですか?」
「ちっ、ちげーやい!」

またとは何だ、いつも私が太刀川さんと何かあるみたいな言い方はやめてくれ。

「いや、先輩いつも太刀川さん絡みでうちに逃げてくるじゃないですか。太刀川さんがお尻触った、首チョンパしてきた、レポートの手伝いを無理矢理させられた、セクハラ発言をしてきた、休憩室で18禁の雑誌読んでた、」
「ねえとりまる、私が悪かったからさ、もうやめてくれない?」

私も恥ずかしいけどそれ暴露されると太刀川さんが可哀想すぎる。ほら、修君も明後日の方向を向いてるし。実情を知らない隊員にとったら太刀川さんって憧れの存在なんだから。仲間内では嘲笑の的だけれども。

「で、今日はどうしたんですか?」
「…別に太刀川さんから逃げてきたわけじゃない」
「………………」
「本当だって!」

疑いの目を向けてきた烏丸はどうやら信じてくれないらしい。
いや、確かに嘘なんだけど。でも烏丸に相談出来るわけがない。

危うく床と顔面からキッスしそうになった時に太刀川さんが颯爽と現れて抱きとめてくれた挙句、見上げるといつも餅を食ってぼーっとしてる太刀川さんの少し焦った顔と至近距離でご対面してそれがあまりにもカッコよくて、次どんな顔をして会えばいいのかわからないから逃げてきたなんて死んでも言えない。

どこの少女漫画だよ。寒すぎてハゲるわ。
私だったら漫画読んでてそんなシーンが出てきたら鼻で笑って迷わずゴミ箱に投げ捨てる。

「とりまる…どうしたらいいと思う?」
「いや、何があったかわからないんで答えようがないですね」
「ちっ、使えねえな…」
「まあ、」

そう言うと烏丸は顎に手を当てて少しの間何やら考えだした。

「え、何?」
「いや、太刀川さんなら大丈夫だと思いますよ」
「は?」

何が大丈夫?訳がわからない。
普段に増して意味不明な鳥丸の発言に首を傾げる。そんな私にお構いなしに鳥丸は一人で納得したのか、それ以上は聞いても何も答えてくれなかった。
いやいやいや。待ってくださいよ鳥丸さん。だいたい、

「太刀川さんじゃないって言ってるじゃん!」
「あーはいはい、大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないわ!」

そんな雑に頭をポンポンされても何とも思わない。だいたい異性の頭を撫でるなんてイケメンにしか許されないことなんだぞ。
あ、こいつイケメンだったわ。クソ、悔しい!


自分よりだいぶ背の高い烏丸を見上げると、見えるのは烏丸の顔の筈なのに、なぜだかあの時の太刀川さんの顔を思い出してしまって、ひとりでに自分の顔が赤くなっていくのを感じた。