翌日。

行きたくないけど防衛任務もあるしやることいっぱいなので泣く泣く本部に向かえば、廊下でばったりと太刀川さんに鉢合わせしてしまった。私はことごとく運が悪い女だ。
どうせ避けたって作戦室で会うんだけどさ。

「おー。名前、昨日玉狛泊まったんだって?」

びっくりした私は名前で呼ばないでくださいと言うのも忘れて聞き返した。

「どうして餅川さんが知ってるんですか?」

もしかしてこの人、ストーカーか?だとしたら恐ろしすぎる。アタッカー1位を誇るコイツに誰が勝てると言うんだ。あ、警察がいるわ。グッジョブ。

「実は俺の名前太刀川なんだけど、知ってた?」
「…………」
「あー、迅が言ってたんだよ」

おい、個人情報。あの自称実力派エリートめ。セクハラも多いし、この際査問会にでもかけてやろうか。

「で?だから何ですか?」

なぜそんなことを聞いてくる。もしやお前も玉狛支部に泊りたかったのか!?そんなの私は絶対に認めない。
レイジさんと千佳ちゃんは私だけのものだ。


しかし、太刀川さんの回答は思ったよりそっけないものだった。

「…別に」
「はあ?」

何なの太刀川さんエリカ様に憧れてるの?お前には無理だ諦めろ。それともツンデレ狙い?それも無理だ諦めろ。

私の訝しげな視線に、太刀川さんは目を逸らし気まずそうな顔で言った。

「…たまには家帰れよ」
「はあ…」

ちょっとわけがわからない。家に帰れよ?家に帰れよ?いや、帰りますけど。むしろ毎日帰ってますけど?
え、なんなの。
ダメだ、たぶん今の私の顔やばい。すごいアホヅラ晒してると思う。それほどまでに、太刀川さんの言葉は意味不明だ。

「何が言いたいんですか。私が家に帰らない不良少女とでも言いたいんですか。三輪みたいになるって言うんですか。ひどい、太刀川さんがそんな人だと思わなかった!」
「いやお前被害妄想激しすぎだろ。あと三輪は不良少女じゃないし」
「そりゃああいつは男だからな!」
「そっちじゃない!」
「そっちってどっちよ!こっち?あっち?それともそっち?」
「そっちはそっちだわ!」
「…………」
「…………」

あれ、何の話してたんだっけ。たしか三輪が実は男の娘で……全然違う気がする。
埒が明かないので、話題を変えることにした。

「太刀川さん、餅ばっか食べるのはどうかと思いますよ」
「いや、そんなに食べてねえけど」
「今までは餅川さんのことを思ってあえて言わなかったんですけど…正直、餅臭いです」
「餅臭い!?おい!嘘だろ!?マジかよ!?」
「マジです」

太刀川さん、稀に見るご乱心ぶりである。チョロい、チョロすぎる。

昨日のお返しだ。私の顔を真っ赤だとか言ってからかった天罰である。

いや、でも餅臭いのは嘘じゃない。別に臭くはないけど、太刀川さんからはいつも餅の香りが漂っている。
他の人は感じないみたいだけど。どうやら感じるのは私だけらしい。

この前そのことを槍バカと弾バカに相談すると「それお前のサイドエフェクトじゃねえの?太刀川さん限定の」と馬鹿にされたのでぶん殴っておいた。どう考えても私は悪くない。
でも匂うんだけどなー。餅の香りするんだけどなー。
なぜみんなは匂わないのか。解せぬ。

私がそんなことを考えている間にも太刀川さんはクンクンと自分の袖やら身体の匂いを嗅いでいた。面白い。
少し可哀想になったけど、間違ったことは言ってないので私にはどうしようもない。

取り敢えず、「そんなに気にしなくても、餅川さんにはお似合いだと思いますよ」と肩を叩いて励ましておいた。
断じて嫌味ではない。本心である。

いつまでも臭いを嗅いでいる太刀川さんをそのまま置いて(どう見ても不審者にしか見えない)、さっさと歩き出す。
三輪隊の作戦室で課題でもしよう。

それにしても、あの自称実力派エリートめ。人の個人情報を暴露しておいて、100発ぐらい殴らないと気が済まない。まあ、どうでもいい個人情報だけど。
次会ったらただじゃおかない。



次の日、本部では太刀川さんからラベンダーの香りがすると噂になった。
消臭スプレーは効果抜群だったようだ。




『太刀川さ〜ん。名前また玉狛に泊まるみたいだよ』
『マジか。何でお前が知ってんの?』
『俺のサイドエフェクトがそういってる』
『ほんと悪趣味だよな』
『あの子レイジさんのこと好きすぎでしょ』
『あ?』
『名前がレイジさんに抱きついてる未来がみえる』
『ちっ』
『…(両)片想いも楽じゃないねえ』