「当真さん、寝てないで真面目にやってくださいよ」

目の前でぐーすか寝ている当真さんを起こそうと話しかけてみるも、一向に起きる気配はない。
この人の神経どうなってんの。
こんな状況で安眠できるなんて、図太いにもほどがある。だからスナイパーは変人ばかりとか言われるんだよ。おかしい、どう考えてもスナイパーよりもアタッカーの方が個性的な人が多いはずなのに。
まあ、そもそもボーダー自体が変人集団の集まりなのでなんとも言えないけれど。

そんなどうでもいいことを考えていると、ドカッと激しい音と共に基地が揺れた。

現在ら敵の侵攻を受けている真っ最中である。

学校での昼休み中に緊急招集をかけられた私は、猛スピードですぐさま本部へと向かった。だが、その努力も虚しく、忍田さんが私に出した指示は本部で待機しろというものだった。解せぬ。
もちろん本部を守ることが大事なのはわかっているつもりだが、私だって他の人達みたいにトリオン兵をバンバン倒したかったのに。

聞いたところによると新型まで現れたらしく、こちら側はだいぶ苦戦を強いられているらしい。
まだかまだかと出撃したくてウズウズしている私だが、忍田さんから出撃命令は一向出されないままである。

もしかして、忍田さん私の存在忘れてるとかないよね。ボス戦でMPを温存するために作戦を『じゅもんをせつやく』にしといたらそのまま流れでボス戦に行っちゃったわけじゃないよね、違うよね忍田さん。

ちなみに、太刀川さんにも同じく待機命令が出されていたはずだが、気づいたらあの人はいなくなっていた。
まさか我慢できずに一人で行ってしまったのだろうか。


「なんか揺れたな」

ようやく目を覚ました当真さんは、つけていたアイマスクを外しながら寝ぼけ眼で起き上がった。
このリーゼントと待機とか本気で嫌なんだけど。忍田さんお願いだからもう少し空気読んで。

私は、真面目に訓練なんてしないくせに不動のスナイパー1位を死守する当真さんが、たまに殺意すら抱くほどに嫌いだ。その点では、奈良坂とは話が合う。
確かに、いざという時に頼りになるリーゼントではあるのだが、なんかムカつく。これが僻みだと自分でも理解しているけどやっぱりムカつくものはムカつく。


「イルガーが突っ込んできたんですって」
「へえ。基地の壁って案外丈夫なんだな」
「そうですねー」

突撃してきたイルガーの内一体を太刀川さんが斬り落としたとも知らない私達は、呑気にそんな会話を続けていた。

「そういや、太刀川さんは?」
「さあ。どこぞのトリオン兵と遊んでるんじゃないですか?」

なぜかニヤニヤしながら聞いてきた当真さんにそう答えれば、「へー」とすこぶるどうでも良さそうな相槌が返ってきた。興味ないなら最初から聞くな。

「太刀川さんもよくやるよな〜」
「は?」
「俺だったら無理だわ、名前みたいな面倒くさい女」
「何の話だ殴りとばすぞ」

どうやら当真さんは私をディスりたくて仕方ないらしい。え、私この人に何かしたっけ?いやいや、少なくとも恨みを買うようなことをした覚えはないぞ。

私がやったことといえば、当真さんの顔写真を貼った藁人形に五寸釘を打ちまくった程度の可愛いものである。あれは思ったよりも楽しかった。
嫌がる奈良坂にも無理矢理やらせると、案外満更でもなさそうに釘を打ってたので、自分の事を棚に上げて若干引いた。奈良坂、そんなに思い悩んでいたのか。たぶん万年2位とか言われてよっぽど悔しかったのだろう。
人の心の闇を垣間見た瞬間だった。

「太刀川さん、普段はあれだけど名前のことになるとマジこえーよな」
「いい加減その話題やめませんか?」

もう一度言う、今は敵の侵攻を受けている真っ最中なのだ。こんなふざけた恋バナに花を咲かせている場合ではない。

目の前のリーゼントにアイビスをぶっぱなしてやりたい衝動を必死に抑えこむ。今当真さんをベイルアウトさせたら後々まずいことになるから、落ち着け自分。ここは大人にならないと。

「いやいや、マジなんだって。この前なんか、お前のこと噂してるC級隊員に、」

懲りずにケラケラと笑いながら当真さんが続ける話に、少しだけ耳を傾ける。え、何。それはちょっとだけ気になる。何しでかしたんだ太刀川さん。


しかし、ちょうど私が話を促すように当真さんの方へ視線を移した瞬間、忍田さんからまさかの出撃命令が出されてしまった。
なんというタイミング。いや、むしろグッドタイミングと言うべきなのか。
当真さんの話は気になったけど、さすがに命令を無視するわけにもいかないので素直に従う。

ようやく待ちに待った戦闘だ。ひどく出遅れた気がしてならないが。忍田さんによると、太刀川さんはとっくの昔に出撃して新型トリオン兵をバッサバッサ倒していっているらしい。ズルい、ズルすぎる。

色々と複雑な想いを抱える私をよそに、隣のリーゼントはあくびをしながら「チョロっとやってさっさと帰ろうぜ」なんてムカつくことを呟いていた。

「当真さんと一緒とか不安しかないんですけど」
「安心しろって。俺だってお前とは嫌だからよ」
「今日のリーゼントがキマらなかったからって私に八つ当たりしないでください」

なぜだか知らないが、今日の当真さんはいつもの100倍くらい当たりが強い。なに、私嫌われてんの?え、これ泣いていい?

特に当真さんにお世話になったことはないし当真さんから教わったことも何もないが、同じスナイパーとしてもう少し優しく接してくれてもいいんじゃないだろうか。こいつ、後輩(一応)が可愛くないのか。

キッと睨みつけると、当真さんは真顔でわけのわからない弁明を始めた。

「俺、太刀川さんに斬られたくねーもん」
「別にあの人に斬られたい人なんて早々いないと思いますけど」

どこの物好きだ。ドMにもほどがあるわ。冷めた目つきでそう言えば、「そういうことじゃねーんだよな」と呆れ顔で溜息をつかれた。意味がわからない。

「は?」
「こりゃ太刀川さんも大変だわ」

やれやれ、と肩を竦めるリーゼントに苛立ったので、任務に支障をきたさない程度に、アイビスで頭部をぶん殴っておいた。