《名前ちゃ〜ん。太刀川さん、新型の撃破数トップだよ》
「…そうなんですか」

太刀川隊のオペレーターである柚宇さんの謎の報告に、少し顔を引き攣らせる。それはおめでたいことで。楽しそうな顔で新型を切り刻んでる太刀川さんが容易に想像できて、ひどく腹が立った。

良かったね〜と笑いを含んだような柚宇さんの声。顔は見えないけれど、さぞかしニヤニヤしていることだろう。
柚宇さんは、どうやら私と餅川のことを誤解している節がある。
出水や米屋みたいに直球では聞いてこないけれど、私と太刀川さんが隊室で話していたら(ただの世間話)、気味が悪いくらいニマニマするし、太刀川さんと柚宇さんが喋っている時に私が通りかかると、慌てて会話を止める。そして"私は太刀川さんタイプじゃないから!"とわけのわからないフォローを入れてくる。

私だって、別に太刀川さんがタイプなわけではない。そこは大いに主張しておきたいところだ。ちなみに、柚宇さんはこの時も私たちを見て異常なほどニマニマしている。それでも可愛いのだから美人って本当に得だと思う。
太刀川さんが、柚宇さんの"タイプじゃない"発言に毎回少しだけ落ち込んでいるのは、面白いから秘密にしておくけれど。


「あ、太刀川さん」
「どこ!?」

隣にいた当真さんの発言に、すぐさまトリガーを構えた。しかし、急いでスコープを覗き探してみても、餅川らしき人はどこにもいない。

「いや、嘘だけど」
「ふざけんなこのクソリーゼントが」

ちょっとテンション上がっちゃったじゃないか。何くだらない嘘ついてるんだよ。いい加減にしろ。
小さくため息をついてトリガーを下ろす私を見ながら、当真さんは「俺が太刀川さんって言った瞬間に嬉々としてスコーピオン構えるとか、なんか違くね?」となぜか引いた顔をしていた。

「うわ、当真さんにドン引きされるとか人生終わったわ」
「なんだとコラ」
「そのリーゼントをもぎ取ってやりたい」
「おーおー、相変わらず過激だねぇ。一応言っとくけど、これヅラじゃねえからな?地毛だから」
「へー、そうだったんですか。すごーい」
「マジでムカつくなお前」

"太刀川さんはこんな口悪くてめんどくせー女のどこがいいのかね"と首の後ろに腕を回しながら真顔で呟く当真さんを睨みつける。

「当真さんよりはマシだと思いますけど」

私はどっかの誰かさんみたいに"スナイパーのプライドが許さねー"とかなんとか言って自由気ままに戦ったりしない。面倒くさいにもほどがある。奈良坂も大変だな、問題児のお世話をしなきゃいけないなんて。その上その問題児ときたら、自分よりも格上の相手ときている。そりゃあ奈良坂だって五寸釘で当真さんの顔を打ちまくりたくなるだろう。私だったら欝になりそう。

インカムからは、そんな苦労人奈良坂の《おい、二人とももう少し真面目にやったらどうだ》という疲れた声が聞こえてきた。そうだった。こんなことをしている場合ではない。人型ネイバーと戦闘中の弾バカ達の援護をするために屋上で待機しているのだ。

「ごめんごめん」
「うるせーな、奈良坂。そんなんだからお前はいつまで経っても万年2位なんだよ」
「黙れくそリーゼント」
「なんで名前がキレるんだよ」

そんなの、私が万年1位にも2位にもなれないスナイパーだからに決まってるだろうが。奈良坂を馬鹿にするということは私を馬鹿にすることと同義だ。許さない。

そんな言い合いをしているうちに、弾バカのメテオラが炸裂し、物凄い音を立てて周りの建物が崩れた。
いつも思ってたけど、あれわざわざ"メテオラ"とか"トマホーク"とか技名言わないとダメなの?打てないの?それともあいつがただ中二チックにカッコつけてるだけなのだろうか。
よくあんな可哀想な隊服で堂々と戦えるな。尊敬する。もちろん私も同じ隊服なので人のことは言えないけれど。

《出水君が防御を削るわ。スナイパー組はそこを狙って》
「りょーかいりょーかい」

蓮さんの言葉に軽く応じるリーゼント。どうして私はこいつとペアを組まされたのか。古寺と一緒が良かった、いい子だし。それか100歩譲って奈良坂か。当真さんとか言動に心の底からイラッときて集中できない。

「サカナをよけて本体に当てるゲームか。いいねぇ」
《遊びじゃないですよ当真さん!》
「うーるせーな章平。もののたとえだって」
「三門市を守るためですよ。ふざけた髪型も大概にしろ」
「てめーは本当に関係ねえことしか言わねーのな」
「もっと真面目に生きてください」
「わーかってるって。なにしろ、珍しく迅さん直々に頼まれたからな」
「え、何それ私頼まれてないんですけど」

まさかの戦力外通知?衝撃の事実に開いた口が塞がらない。あの実力派エリートめ、許さない。
私だってたとえランクが振るわなくてもやる時はやる女なのだ。いい加減にしろ。

「俺らにかかりゃ楽勝だぜ。なあ奈良坂」
「当然だ。あの程度では防御のうちに入らない」
「奈良坂だけじゃなくて私にも聞けよ!」

普段いがみ合っているクセにこういう時だけ息がぴったりの二人は、私を無視したまま人型ネイバーに狙いを済まし引き金を引いた。おい、ちょっと待て。私も入れろ。出来るから、私もたぶん当たるから。

二つの閃光が空を泳ぐ魚をすり抜け、人型ネイバーへと直通した。

《当てんのかよ!うちのスナイパーどもは変態だな!》
「スナイパーたるもの、当然のことをしたまで」

驚いたような出水の声に、心を落ち着け冷静に返す。人型ネイバーに攻撃したはいいが、やはりまだ致命傷には至らないようだ。

「あ?お前も当ててたのか?」
「当然ですよ。バッチリ魚に当ててやりました」
「…全然ダメじゃねーか」
「うるさいな!言っておきますけど!誰もがあんたたちみたいな人間離れした能力発揮できると思ったら大間違いですからね!」

隣で小馬鹿にしてくる当真さんに怒りを抑えて反論する。無理だった、出来るかと思ったけど普通に無理だった。これが1位2位とその他の差か。
リーゼントとたけのこに私は負けたのか。悔しい、悔しすぎる。


「あ、おい後ろ!」
「は?うぎゃっ!」

珍しく少し焦ったような当真さんの声に慌てて後ろを振り向くと、いつの間に現れたのか、そこにはお初にお目にかかるトリオン兵が一体。
うわー、これが新型か〜、なんて考える間もなく、新型の腕が伸びてくる。避けきれず捕まった私は、どこか上の空のまま、反撃出来ずにただじっとラービットを見つめていた。あれ、これやばくね?
そういや新型はキューブ化がどうたらこうたら…

気持ち悪いトリオン兵のお腹がパックリと開いた。

「え、ちょ、うわ、やば…」

ベイルアウトと叫ぶ間もない。
こうして、私の戦いは終わった。


「うわ、これ俺が太刀川さんに斬られるパターンじゃね?」なんて面倒くさそうに頭をかく当真さんの声だけが、頭に響いていた。