「名前、双葉」

作戦室のこたつでゴロゴロしていると、望ちゃんに声をかけられる。
読んでいた漫画を閉じ、体を起こすと望ちゃんが恐ろしいほどの笑顔で立っていた。

「炒飯作ったんだけど、食べる?」


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「二宮君を誘ったんだけど、今から防衛任務があるらしくて断られちゃったのよね」

そう言う望ちゃんは、とても残念そうな顔をしている。
私はそうなんだ〜残念だね〜、と相槌を打ちながらも、内心では上手いこと逃げた二宮に対する憤怒の念を抑えきれない。
あの男は、毎回、何だかんだ理由をつけて望ちゃんの魔の手から逃れているらしく、被害に遭ったという話を聞いたことがない。顔を合わせる機会でもあればボコボコにしてやりたい所存である。
怖すぎてそんなことできないけども。紛うことなきイケメンだし。極力近づきたくない。

望ちゃんが趣味で6歳の頃から続けている炒飯作り。そのほとんどはさすが、と唸るほど絶品な炒飯なのだが、ごく稀に、言いにくいのだが、なんというか、ゲテモノが当たることがあるのだ。
例えば、堤が死んだ「いくらカスタード炒飯」、太刀川が死んだ「チョコミント炒飯」。どうしてそんなおぞましい創作料理をするのかオブラートに包んで望ちゃんに聞いたところ、曰くほんの好奇心らしい。その好奇心で殺された人間にはたまらない話である。
ちなみに、私は堤が死んだ時も一緒にその炒飯を食べたし、太刀川の時もまたしかり。
何を隠そう、私が1番炒飯の被害者なのであった。もちろん、望ちゃんにおいしい炒飯を振舞ってもらってるのも私が1番多いのでなかなか文句は言えないのだが。
今回も当たりだといいんだけどなあ。

「そ、それで、今回はどのような、もの、なのでしょうか……」

これから訪れる恐怖に尻すぼみになりながらも、望ちゃんに尋ねる。
お願いだから、当たりがきますように。神様、ヘルプミー。

「名前、納豆好きでしょ?」

望ちゃんは美しい顔で聖母のように笑いかける。

「納豆?嫌いじゃないけど…」

もしかして今回は納豆炒飯なの?それならたまに聞くし、普通においしく食べれそうだ。

安心したのもつかの間、

「隠し味にキャラメルソースをかけてみたの。名前甘いものも好きよね?」

その一言で、私は全てを悟った。


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「あのイキリホストめ!!!成敗してくれる!」
「おい、うるせえぞ。ここで騒ぐな。日佐人がびっくりしてるだろうが」

地獄の時を過ごした私は、『納豆炒飯キャラメルソースがけ』をなんとか食べ終えると感想を求める望ちゃんに「なかなか絶妙な味だったよ」と半泣きで告げ、すぐさま諏訪さんの元へと駆けつけた。
そして、絶賛二宮の悪口のオンパレードなう、である。
別に、望ちゃんに強く言えないから二宮に責任転換しているわけではない。断じてない。

いつもなら、作戦室に日佐人くんがいたら躊躇するか向こうが気を利かしてランク戦に行ったりしてくれるのだが、今日はそんな余裕はなかった。

私にはこの苦しみを共有してくれる仲間が諏訪さんしかいないのである。以前双葉ちゃんに切々と訴えたが理解してもらえなかった。望ちゃんが炒飯を振る舞うのはチームメイトである私と双葉ちゃんが圧倒的に多いのだが、私がゲテモノに当たって泣きながら食してるのを他所に、双葉ちゃんはそれを何事もなくペロリと平らげるのだ。
あの子の胃袋は間違いなくボーダー最強である。

「二宮が悪い全部あいつが悪い憎い憎い憎いあのビビり野郎め」
「いやまあ、逃げるだろ、普通は」

二宮へ呪詛を吐く私を見ながら、諏訪さんが苦虫を噛み潰したような顔で言う。
諏訪さんも身近に堤という犠牲者がいるため、他人事ではないのだろう。

「そもそも、二宮に食べさせたところでお前も一緒に食べることになるだろ。堤と太刀川の時もそうだったじゃねえか」
「だって望ちゃんが『少しずつそのイケメン嫌いを直していかないと』って言うからあああ。断れなかったんですよ!」

望ちゃんは、防衛任務などで加古隊と他の隊が一緒になった時、任務に支障をきたすほどではないけれど、挙動不審で使い物にならなくなる私の代わりに、メンバーとコミュニケーションをとってくれる。
迷惑をかけている手前、『堤君に用があるから名前も付いてきて。私と一緒なら大丈夫よね?少しずつ慣れていきましょ』なんて言われたら無下に出来るわけがない。
それがただ私に炒飯を食べさせる口実であったとしても。
堤と会話らしい会話もなく、ただ死んだ目で無言で炒飯を食べ続けた地獄の時を思い出し、思わず身震いする。確かに、苦を共にした者同士、よくわからない結束力は高まったけれど。

「死にたくないからって自分だけ逃げるのはどうかと思うんですよ!」

二宮以外の20歳は、みんな逃げずに立ち向かっているというのに。

「文句があるなら本人に直接言えばいいだろーが」
「え?二宮に?無理無理無理、無理ですよ。あの人悪逆非道の限りを尽くした人でなしですよ!?そんなことしたら腹パンにローキックかまされて生まれてきたことを後悔するくらい酷い仕打ちを受けるに決まってます!」
「…お前は一体二宮と何があったんだよ」
「私は大して話したことはないので、全部望ちゃん情報です!」

元気よく告げると、諏訪さんが頭を抱えた。やはり、二宮という男はそれほど恐ろしい奴なのか。顔が無駄にいい男にろくな奴はいないのだ。絶対に関わらないように気をつけよう、と心に誓う。


「でも、二宮さんすごい人ですけどね」

まくし立てる私に若干引きながらも、日佐人君がポツリと呟いた。
その表情からは、二宮に対する尊敬の念が見て取れる。

歪みのないその眼差しが羨ましい今日この頃であった。



「あれ、名前。来てたんだ」
「ひっっ!つ、堤」
「また加古ちゃんの炒飯当たったんだって?《加古望炒飯被害者の会》で話題になってたよ」
「…お前ら何でそんなもん作ってんだよ」
「ほらこれ、口直しのコーヒー。名前の好きなミルクキャラメルにしようかと思ったけど、あれ食べた後は嫌かと思って」
「あ、ありがとう…」
「そう言えば、今度被害者の会で飲みに行くんだけど、名前も来る?LINEのグループ招待しとくよ」
「う、うん」
「また詳しい日程が決まったら連絡するよ。太刀川にはあんまり名前をからかわないように言っておくから」
「よろしくお願いします…」
「(…こいつら実は仲良しだろ)」