「で、二人はいつから付き合ってんの?」
「何言ってんのお前、馬鹿なの死ぬの?」

席に着くなりふざけたことを抜かす太刀川をギロりと睨みつける。

私たち3人は駅前の焼き肉屋に来ていた。
馴染みの居酒屋がいいという私の提案が風間さんに冷たく却下されてしまったためだ。

これでは今日はお酒が飲めないじゃないか。さすが小型かつ高性能、他人に対して容赦がない。

ちなみに、なぜ飲めないのかと言うと、私は初めて訪れた店でお酒を頼むことがあまりないからだ。というか頼みたくない。だっていちいち年齢確認されるんだもん。

年齢確認されるのは構わないよ、だけど店員の目がね。風間さんと二人共々、哀れみの目を向けられることは正直苦痛なのだ。その点、いつもの居酒屋は既に常連となりつつあるので、顔見知りの店員さんがいれば年齢確認なしでお酒を注文することができる。あな素晴らしや。


悲しいことながら、これがベビーフェイスの呪いの代償なのである。ベビーフェイスの呪いとは、歳をとるほど効果を発揮するもので、年齢よりも若く見えるという素晴らしい代物だが、若い時には実年齢よりも相当幼く見えてしまうのが欠点の代物だ。

小型かつ高性能など、人によっては見た目だけではなく他の分野でも効果が出るらしい。いやだ、こんな中2臭いことを言っていたらすごく恥ずかしくなってきた。太刀川隊の隊服並に赤面ものである。これはヤバい。


「お前が風間さんをお持ち帰りしたって噂になってるぞ」
「え、何それ。おかしくね」

ニヤニヤと笑う太刀川の言葉に、思わず眉をひそめる。
普通は逆じゃない?私が風間さんにお持ち帰りされた、っていうならまだわかるよ。どうして私がお待ち帰りする側になってるんだ。おかしい。どう考えてもおかしい。
誰だよそんな噂を流したやつ。リンチだ。見つけしだいボッコボコにしてやる。


「いやー、良かったな。ついに貰い手が見つかって」
「ふざけんな。全然良くないから。風間さんとか考えただけでおぞましいわ」
「でもその割には、やることやってんだろ?」
「だからやってねえよ!」

もしその噂が昨日のことだとしたら、それは完全に誤解だ。風間さんは私をその小さい背中で一生懸命に背負い、家まで運んでくれただけである。

それ以外は何もない、はず。よく覚えてないけど。
いやいや、だって風間さんだし。酒に酔った女に手を出すほど、飢えてはいないだろう。

つまり私たちは潔白だ。どこの誰がそんなつまらないことを言い出したのかは知らないが、ふざけるのも大概にしてほしい。


「ちょっと、風間さんも何か言ってくださいよ」

私が太刀川に必死に弁明するなか、あろうことか風間さんはもぐもぐとおいしそうに肉を頬張っていた。お前も早く否定しろ。

そもそも、ハムスターみたいにもぐもぐする姿がさまになる21歳ってどうなの。


「この肉は美味いな」
「話を聞け!」

だいたいそれは私が焦がさないよう、大事に大事に焼きあげた肉だ。何で人の肉食ってんだ、コイツは。

「ありえないな」

いや、私の方がありえないから。
食べ物の呪いは恐ろしいと言うだろう。末代まで呪ってやるぞ、風間家にベビーフェイスの呪いをかけてやるぞ。


「で、実際は?」
「はい太刀川死刑ー!」

いつまで言う気だ。いい加減しつこい。私はニコニコと笑いながら太刀川の首を締める。A級1位のくせに青白い顔をして「ギフギブ!」なんて叫ぶ太刀川は正直爆笑ものだった。

三門市民のみなさーん、こいつが総合・アタッカーランク1位の男ですよー。やだー、こんな人が?恥ずかし〜い。

「おい、そろそろやめたらどうだ」
「ちっっ」

風間さんに呆れ顔で諭されたので、仕方なく太刀川を解放する。どうして私が悪いみたいになってるの、解せない。
それでも懲りない太刀川は、ゲホゲホと咳き込みながら言った。

「風間さんも、よくこんなので我慢できるよな」
「おい太刀川、ケンカ売ってんのか、ケンカ売ってんだよな」
「うるさいぞ、店で騒ぐな」
「だから何で私なの!?」

私は断じて悪くない。悪いのは馬鹿にしてくる太刀川だ。イラッとしたけど、確かに騒いだりしたら周りのお客さんに迷惑だ。大人な私は、とりあえず落ち着いて話を聞くことにした。

「だいたい、その噂どこから流れてきたわけ?」
「諏訪さんと迅と当真と俺」
「マジかよ」

何だそのメンツは。というか、噂になってるぞって、お前も原因の一つじゃないかい。ふざけんな太刀川。

助けを求めるように風間さんを見ると、またもや もぐもぐとウインナーを頬張っていた。こいつはもうダメだ、使い物にならない。
私は風間さんを無視して話を進めることにした。

「で?お前はなんでそんな噂を広めやがったんだ?」

事と次第によらなくてもぶっ飛ばすぞ。殺意を込めて太刀川を睨みつける。
それを気にすることなく太刀川はヘラヘラと笑っていた。

「昨日、飲みに行ったろ?」
「まあ…」

そりゃあ行きましたけど。失恋の愚痴を風間さんに聞いてもらってましたけど。そういえばこいつ、私が振られたと知った時も爆笑してやがったな。やばい、さらに殺意が芽生えてきた。

「その時、俺たちもいたんだよ」
「は?」
「それで、暇だったから二人の後をつけてた」
「はあ!?」

え、意味がわからない。何?何なの。つまり、

「私たちを尾行してたってこと?」
「そうとも言う」

いやそうとも言うじゃねえよ。そうとしか言わないわ。え、何、こいつら人が知らぬまま4人でそんなストーカーじみたことしてたの、ありえない。

驚く私を他所に、風間さんは淡々とした口調で言った。

「やっぱりあれはお前たちだったのか」
「あ、やっぱ風間さん気づいてた?」
「あれだけ騒いでいたらすぐわかる」
「え、風間さん知ってたの!?」

嘘だろ。私全然気がつかなかったんだけど。というか気づいてたら言えよ。どうしてそんなに落ち着いてるの、おかしいでしょ。私たちありもしない噂を立てられてんだよ。


「お前はだいぶ酔ってたからな」
「そうそう、あれはやばかった」
「おい太刀川、お前は何を知っている」

したり顔でうんうん頷くんじゃない。やばいって、私はそこまで醜態を晒した覚えはない、たぶん。


「面白半分で尾けてたのに、二人があまりにも甘い雰囲気出すから、俺らはすげえ気まずかった」
「は?そんなの出してないけど」
「だからマジでやばかったんだって」
「そんなことない!ね、風間さん!」
「……………」
「え、マジで?」

必死に訴えかけても、風間さんはまさかの無言だった。これがあれか。無言は肯定というやつか。いやいや、嘘でしょ。


「お、おんぶしてもらってただけじゃん」
「…………」
「ちょ、ちょっとくっついてただけでしょ」
「…………」

ま、まさか。

「それ以外に、私何かしてた?」

コクリ、と無言で頷く二人。マジかよ。死にたい。いっそのこと誰か殺してくれ。

「お、おい。落ち着けって!」
「離して!今さら優しくしないでよ!」
「いや意味わかんねえから!」
「こんな恥ずかしい思いをするくらいなら、焼肉になったほうがマシだー!太刀川、早く私を焼け!」
「できるか!」

網で焼いてもらおうと身を乗り出す私を、太刀川が必死の形相で止める。傍からみたらとんだ茶番だが、私は本気だった。もうやだ、ボーダーやめたい。消え去りたい。

「お前が思ってるほどたいしたことじゃないって。なあ風間さん?」
「………まあ」
「早く焼いてー!」
「ちょ、風間さんもコイツ止めて!」

結局、暴走する私を二人がかりで押さえつけ、どうにか事なきを得た。いやいや、全く得てませんけどね。

だって風間さん、「………まあ」なんて言いながらすごく微妙な顔したからね。完全に私から目をそらしてたからね。
どんだけやばいことしでかしたの、私。全く身に覚えがないんだけど。


「あの、風間さん。…責任は取らせていただきます」
「何の話だ」
「いや、だって。とんだ粗相をしでかしたようですし」
「本当にな」
「ひいっっっ」

風間さんにここまで言わせるなんて、本気で何しでかしたんだ自分。

「あ、あの。それで私は何をしでかしたんですか?」
「…………」
「コッチを向けえええ!」

そんなにか。言えないほどやばいことなのか。二人そろって顔をそらすものだから、私は結局怖くてそれ以上は聞けなかった。

もしかして、本気でやることやったんじゃないだろうな。お願いだからそれだけは勘弁してほしい。

ビビリまくっている私を見て風間さんはため息をついた。

「責任を取ると言ったな」
「は、はい」

この人、私に何をさせる気だ。金か?金払えってか?払いますから。いくらでも払いますから許して。
チラリと太刀川を見ると、あろうことか奴はニヤニヤと笑っていた。そんなに人の不幸が嬉しいのかコイツは。もうやだ。人間不信になりそう。

「明日、」
「え、明日ですか!?私明日非番なんですけど!お金払うのは明後日でも…」
「違う」
「え、違う?」

首を傾げる私に、風間さんはさらにわけのわからないことを言った。

「明日は俺も休みだ」
「はあ…」
「どうせお前は何の予定もないんだろう」
「…私の傷えぐって楽しいですか?」

確かに予定はありませんけどね。どうせ独り者ですから。だが、それがどうした。もしかして、家まで札束持って来いってか?

「1時に集合だ」
「えっ深夜の?深夜の1時に風間さんの家に札束持っていけば許してくれるんですか?」
「お前は馬鹿か」
「えっっ」

そんなもので昨日のことを帳消しにしてもらえるのかと、表情明るく風間さんに問いかければ、悲しくも一刀両断されてしまった。

「風間さん、こいつバカなんだからはっきり言わないと」
「おい太刀川表でろや」

さっきから言いたい放題言いやがって。弱みを握られている以上、今は下手に出るしかないが、そのうち覚悟しとけよ。

ギロりと太刀川を睨みつけると、また風間さんにため息をつかれた。ため息をつくと幸せが逃げるらしいですよ、と言うのはさすがにやめておく。命は大事だ。

「明日の昼1時にお前の家に迎えに行く」
「はあ…」
「はい、これ」
「え、何?」

太刀川から渡された紙を見れば、水族館のチケットだった。へえ、水族館。これはまた。

「………ん?水族館?」

どういうことだ。

「つまり、サメに食われてこいということですか?」
「お前本当馬鹿だよな」
「お前にだけは言われたくない」

太刀川が感心したように呟き、無性にイラッとした。確かに馬鹿かもしれないけれど、お前よりはマシだ。
それにしても、サメに食われてこい、という意味ではないのか。風間さんベビーフェイスのくせになかなかのSっぷりを発揮したのかと思ったんだけど。

「これは俺たち四人の気持ちだ」
「は?」
「昨日ずっと見てて、あまりにも風間さんが不憫だった」
「何の話?」
「そこで、全員で金を出しあってこの計画を実行することにした」
「ねえ頭大丈夫?」

突然気持ち悪く語り始めた太刀川が本気で心配になる。単位落としすぎてついに頭がおかしくなったのか。可哀想に。

哀れみの視線を向ける私を無視したまま、「だから、」と太刀川は続けた。

「明日は風間さんと二人で水族館デートしてこい」

私はポカンと口を開けたまま、しばらく固まっていた。デート。誰と誰が?風間さんと誰が?

「…もしかして、太刀川と風間さんが?」
「何でだよ。そんなわけないだろ。お前と風間さんがだよ」
「はっ!?やだやだやだやだ。意味わかんない。するわけないじゃん、ふざけてんのあんたたち」

律儀にチケットを用意してくれたようだけど、ありがた迷惑にもほどがある。誰がデートなんぞするか。コイツ、頭のネジでも飛んでるのか。

ふざけるなと必死に抗議しても太刀川はニヤニヤ笑うだけで、何も言わない。

「風間さんも嫌ですよね、デートなんて!」

必死の形相で風間さんに訴えかける。変人が多いボーダーの中で、風間さんは数少ないマトモな思考回路を持った人間だ。アホどもの思惑に乗るわけ、

「責任を取ると言っただろう」
「…はい」

まさかのブルータスお前もか。なぜか風間さんはノリノリでこの計画に乗っているらしい。そう言われてしまった以上、自分が昨日何をしでかしたのかわからない私は、素直に承諾するしかなかった。
だって、もしかしたら風間さんのどうてiげふんげふん、奪っちゃった可能性あるわけですからね。

風間さんが『名字に襲われた』、とか訴えたら私ボーダーにいれなくなるどころか警察のお世話になっちゃうからね。それだけは阻止しなければ。

こうして、私は風間さんと嬉し恥ずかし初デート(笑)をするよう、仕向けられたのである。

とりあえず、水槽を泳ぐ魚たちを見ながら「美味そうだな」、なんて言う風間さんしか想像できなくて、私は自分の未来を呪った。