私は、三日月宗近という男が苦手である。天下五剣と呼ばれる彼はとてもうつくしくて、それと同時に、何を考えているか分からないため近付きにくいからだ。通りがかりに茶をすすめられたり、誰それの様子を見てくる、と本丸の中を歩き回って迷子になってみたり。自分も出陣したいから部隊に編成してくれ、と食事の後に執務室まで頼みに来てみたり。本当に、何を考えているのか私にはさっぱり分からない。現世にいた頃は、まわりにいた人たちが皆分かりやすかったのだろうか、と頭を抱えて考えてみるも、特別そういう人ばかりではなかったように思う。まあ、確かに少々分かりやすすぎる人もいたが、三日月宗近ほど分かりにくい人もいなかったはずだ。…私の記憶の限りでは。だから、私は今、とても困っている。
「…三日月殿。」
「うん?どうしたんだ、主?」
「これはどういう事だろうか。なぜ私は、貴方の腕の中に居るんだ?抱き枕なら布団にあっただろうに。というか、離してほしいのだが。できれば今すぐ、そう、十秒以内に」
早口に伝えれば彼は目を細めて、はっはっは、と気の抜ける笑い声を上げた。
「だが断る。」
「…は?」
即答、だったと思う。文字通り光速、光の速さで拒否されてしまったため、思わず素で返してしまった。慌てて咳払いをひとつして、仕切り直すことにする。
「なぜ?貴方に断る理由はないはずだが。」
できるだけ毅然として問いかけてみると、はて、と不思議そうな声が頭上から降ってきた。
「今日の分の書類だったか、それはもう済ませてあるのだろう?それなら、主にも断る理由はないはずだがなあ」
なぜ断られるのだろうか、と言いたげな声に、溜め息がひとつこぼれおちていく。それと同時に、やはり私は三日月宗近が苦手だ、と再認識したのだった。