ぱさり。書類の落ちる音がした。目の前には、もう会うこともないだろうと思っていた、学生時代の先輩の姿。…そっか、彼女も審神者になっていたのか。
「えっ、あっ、と…後輩ちゃん、だよね?美術部の…よく、廊下側のすみっこの机にいた…」
そういえばそうだったなあ、なんて思いながら落ちた書類を拾いつつ、そうです、と返事をする。声はふるえていないだろうか。ああ、先輩の顔を直視することができない。だってこんな、こんな、姿。
「久し振りだね!その…あの頃と変わってなくて、なんだか安心しちゃった!この前部長ちゃん達と集まったときにね、みんなは元気かなー、変わってないといいねーっていう話をしたばっかりだったの!」
だから、よかった。続けられた言葉ににじむ動揺に、息が苦しくなる感覚がした。変わっていない。お世辞ではなく、そのままの意味で投げられた一言。その中に隠された意味くらい、分かる。悪意は込められていないにしても、それに気がつかないほど、鈍くはないつもりだ。
「ありがとう、ございます。…先輩も、あの頃と変わらずに笑顔が素敵ですよ。」
貼り付けた笑顔でお礼を返して、そのまま少しだけ話をした。何を話したのか、自分がなんと言ったのかは、はっきりと覚えていない。お互いの戦績だとか、刀剣男士の顕現状況だとか、当たり障りのない内容だったと思う。ただ、別れ際に呟かれた『ばけもの』の四文字だけが、頭の中をぐるぐると駆け回っていた。心配げにこちらを見つめる乱ちゃんに、大丈夫やよー、とゆるく伝えて、小さな溜め息を吐く。
「ばけもの、かあ。」
心まで、そう成り果てることができれば良かったのに。泣けはしないのに、こんなにも悲しくて苦しいだなんて、私はなんて中途半端なんだろう。