玄関の開く音に、もそもそと布団から抜け出した。きっと疲れているだろうな、わがままで困らせてしまうのは申し訳ないな、と思いながらも、玄関へと向かう足は止まらない。頭からブランケットを被った状態でひょこりと顔を出せば、ただいま、と声を掛けられる。おかえりって返さなくちゃ。そう思うのに、唇からは「どっぽお兄ちゃー…」と情けなさの滲む声音だけが零れおちた。
「またあの夢を見たのか?」
あの夢、という言葉に一瞬びくりと震えた肩に気付かない振りをして、こっくりと頷く。それを見た独歩お兄ちゃんは、そうか、とだけ返して、何も言わずにぽんぽんと頭を撫でてくれた。触れるてのひらが優しくて、あったかくて、思わず泣きそうになるのをぐっと堪える。五つしか違わないのに、もう良い大人なのに。夢見が悪かったくらいで、ほっとしたくらいで泣くだなんて、みっともないと思われてしまう。…今までに何度も泣いているから、もう手遅れではあるけれど。ささやかな抵抗も虚しく、じわりじわりと独歩お兄ちゃんの顔が滲んで、ぼやけていく。それにあわせるように、独歩お兄ちゃんがふ、と目を細めたような気配がして。目蓋から滲んで溶けた景色が逃げていくのと同時に、それを誤魔化すためにぐりぐりと頭を胸元へと押し付けた。
「何も言わずに居なくなる事は、しないから」
俺も、たぶん、一二三も。紡がれた言葉に、雨は暫く止みそうにないな、と思った。