ぱた、ぱた、と赤い雫が地面に染みを作っていく。こんなはずと違たんやけどなあ、なんて心の中で悪態をつく。口に出そうにも呼吸すらままならないせいで、唇からこぼれるのは荒い息と言葉にならないうめき声だけだった。視界が翳る。指先から冷えていくような心地がする。思考することを放棄した頭の片隅から、じわりじわりと死という一文字が浸蝕してくる。ああ、私の人生はここで幕が降りるんだ。その事実に哀しさも寂しさも感じることがなくて、もしかしたら私の感情は、時間遡行軍との戦いの中で少しずつ枯れつつあったのかもしれない。

「…るじ…主…!」
夜に似た暗闇の中に聞こえた声に、ゆるりと目を開いてみる。少しの間ぼんやりと虚空を見つめていると、次第に意識がはっきり浮上してきたらしく景色に彩が付いていく。視界に映るのは見慣れた天井。傍らには心配そうな表情を浮かべた、近侍の相棒の姿。その様子を捉えた瞬間、今まで視ていたものはすべてすべて夢だったのだ、と認識する。
「大丈夫?うなされてたみたいだけど…」
上手く言葉を紡ぐことができずに小さく頷くと、心配げな表情を残したまま近侍を呼びに行ってくる、と彼は私の部屋を後にした。はあ、と大きなため息を吐く。夢。あれは、夢。それにしてはやけに鮮明で、感覚に現実味があった。思い出そうとするだけで身体も震えてくる。もしかするとあれは予知夢、一種の未来視のようなものだったのかもしれない。遠くない未来、あんな風に命の終わりがすぐそこに迫るような日が来るとして、きっとあのまま大人しくくたばってやることはないのだろうと思う。
「入るよー?」
「ん、どーぞ」
もし終焉を告げる色があるのなら、それはきっと、始まりを連れてきた彼の赤色だ、と。