私は今、見知らぬ人…否、歴史の教科書や本で読んだことのある偉人たちに囲まれている。堀川くんに買い出しを頼まれて、買い食い目的の安定くんを護衛に万屋に向かったはずだったけれど、門を通り抜けた瞬間、ぐるりと世界が反転するような感覚に襲われて。気がついた時には、見知らぬ建物の廊下にぺたりと座り込んでいた。そこまでは良かったのだけれど、周りを見渡しても安定くんが見当たらなかったせいで方向音痴の私はひどく焦ってしまって、敵が潜んでいる可能性を頭の中からすっかり消し去り、見知らぬ建物の中を歩き始めてしまった。その途中で沖田総司だと名乗る美少女に発見され、あれよあれよという間に医務室らしきところへと連れていかれ、あれやこれやと質問攻めにされ、今に至る。ちなみに、安定くんは食堂で大盛りごはんと揚げたての唐揚げをご馳走になっていたらしい。いくら買い食いが目的で腹ペコだったからって、主を置いて知らない人達にご飯を貰いに行くのはどうかと思うなあ私。毒とか盛られてたらどうするつもりだったんだろう。それを伝えてみたら「すごく美味しかったよ!!」と返ってきて、餌付けかな?と思ってしまったのは秘密にしておこう。少し待つと二人分の足音が聞こえてきて、軽い音と共にさっき出会った沖田総司だという美少女と、白い服に身を包んだ青年が入ってきた。…彼が、沖田ちゃん(仮)の言っていた『マスター』だろうか。
「こんにちは、初めまして。彼女…沖田総司から、廊下で君のことを見つけたって聞いたんだけど、良かったら話を聞かせてもらえないかな?」
ふんわりと柔らかい笑みを浮かべてそう言われて悪い人ではなさそうだと判断した私は、万屋に行こうとしていたところからの話をした。途中でポロッと審神者という言葉を出してしまって焦ったけれど、分かるから大丈夫だと返された。何が大丈夫なんだろう、と思ったけれど、とりあえず気にしないことにする。そうして一通り私の話を聞くと、彼はもしかして、と呟いた。
「俺の妹も審神者をしてるから、そこから縁が繋がってしまったのかも。ちょうど君が来た頃、召喚陣に立ってたし…」
「ほへぇ、妹さん審神者なんかー。だから大丈夫って言ったんやな」
なるほど大丈夫とはこの事だったのか、と納得して頷く。その妹さんは今は本丸に居るらしく、縁も繋がったしいつか会えるかもしれないね、と言われて何だか楽しみな気持ちになった。これからはもっと外出するかなあ…そう心に誓っていると、彼からあっ、と大きな声。
「そういえばまだ名乗ってなかったよね。藤が丸く立ち香る、で、藤丸立香です」
「すっかり忘れとったなあ…私は、緋色の月で緋月。まあ、これは審神者としての名前で、本名はまた別なんやけど!」
よろしく、とお互いに頭を下げたところで、そうそう、と付け足す。
「同い歳くらいに見えるかもしれやんけど、私、君より歳上やでな?身体の成長が止まっとるだけで」
えええ!?と驚きの声が立香くんから上がって、やっぱりなあと思ってしまった。
「服装もこんなんやから、間違えられても仕方ないっちゃ仕方ないんやけどな」
「同い歳くらいかな?と思ってました…」
すみません、と続けられた言葉に、だんないよー、と返した。ちなみに、服は高校の制服の上に黒の羽織を着ている。さっき自分でも言ったけれど、これじゃあ間違えられても仕方ないよなあ、と改めて思う。今更変えるつもりはないけれど。
「まあ気を取り直して、これからよろしくな、立香くん!」
「はい!よろしくお願いします、緋月さん!」
もう一度お互いにぺこりと頭を下げて握手をする。現世らしき所で新しい友人が出来るなんて思ってもいなかったから、新鮮な気持ちもあるけれど、何よりも、とても嬉しい。