冷たいひとだと、思っていた。だから彼があたしを抱くのも気まぐれ、もしくは欲求の解消だと信じてやまなかった。あたしもただの気まぐれ、もしくは寂しさを紛らわせるためだったから。だから数度目の彼の腕の中で微睡みの中に聞こえた言葉はきっと、もしかしたら、ただの願望が幻聴となったのではないか。そうとしか思えなかったのに。
「聞こえませんでした?」
あなたが僕を好きになったら僕の勝ち。ならなければあなたの勝ち。ひとつ賭けをしませんか。
「僕はあなたが欲しい」


頬を指が滑る。撫でられたそばから、熱を帯びるようだった。そんな自分の気持ちを押し返すように、そんなの賭けにならないわよ、と熱っぽい視線のバーボンから目を逸らす。
「先に惚れた僕のほうが根本的に負け、とでも?」
「…ええ、惚れたら負けならね。そもそもあたしが得るものは何もないじゃない」
「その時は…そうですね、僕を好きにしてください」
驚いた。まさか彼がそんな事を口走るなんて。もっと慎重に、もっと狡猾に相手を探るのがバーボンのそれだと思っていたのに、それともこれは、もう既にあたしの揺れる気持ちを知っているから言えることなのか。

大体、惚れたほうが負けというのなら、そもそもあたしたちの勝負はお互いが既に負けを喫している。
降り掛けていたまぶたの重みはどこかに行ってしまって、彼が意図することを汲むのに必死だった。
わざわざこんな賭けを持ち出して、一体あたしをどうする気なのか。組織からの命令?個人で何かあたしを疑って?それともほんとうに、ほんとうに。
「随分自身があるのね。あたし、そんないい女かしら?バーボンなら、もっといい子を捕まえられるでしょうに」
「いい女ですよ。だから独占したいと思ったんです。覚悟、しておいてくださいね?」


「それは楽しみだわ」
元から自信がありそうなその顔は、今日もやっぱりその様子を見せている。
「それでは一応、聞きますが…こんなに逢瀬を重ねても、まだ僕を好きではないんですね?」
「…あなたとは、気まぐれよ」
「そうですか…では、このまま押し続ければ、僕が勝つ確率は?」
「それはバーボン、あなた次第よ」
どうせ、もう。

*お題「1分の1の確率で耽溺」
ツイッターにて企画、#DC夢題 に提出させていただきました