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ここからは拍手お礼文です。名前変換が無いのでご注意下さい。
稲妻で落ちは氷浦貴利名。主人公はのりかちゃんと同じ選手です。主人公の名前はデフォルトで千歳。



「貴利名!」

部活帰り、汗でびっしょりのユニフォームを鞄に詰めている貴利名を見つけて声をかけると、貴利名は驚いた様子でこちらを振り向き、私の姿を確認するとにこりと笑った。

お互い与那国島で育ち、雷門の選手としてここにいる私たちはもはや腐れ縁と言っても過言ではない。与那国中でサッカー部に入っていた私だったが、まさか雷門に連れて行ってもらえるだなんて夢にも思わなかった。だから雷門中の一件を聞いたときには「ああ、ついに離ればなれになるんだ」と酷く落胆したのだ。それが、女である私も試合に参加できると興奮気味ののりかから聞いた時は頭が真っ白になったものだ。

それからというもの、親に本土へ行く許可を得た私たちは揃って雷門中学に編入した。”田舎者”として扱われる中でも、皆サッカーが好きな気持ちを忘れずに特訓に励んでいた。

貴利名はその努力の功績でもある砂で真っ黒になったスパイクからいつものスニーカーに履き替えて駆け足でこちらに向かってくる。

「まだいたのか千歳。先に帰って良いって言ったのに」
「結局変える場所は同じでしょ?なら待つよ」

さ、帰ろう。と言って歩き出すと、貴利名もそれに合わせて足を動かす。

貴利名と一緒にいる時の話題と言ったらサッカーの事が殆どだ。もし話題が尽きたらそのまま沈黙に入る。だけど不思議と気まずさは感じられなかった。それは昔からで、そんな心地の良い空気があったから私はずっと貴利名の側に居続けたのだ。

島にいるせいでもあるが、幼少期から一緒に過ごしてきた私達は言うまでも無く幼稚園、小学校と同じだった。初めは「きりちゃん」なんて可愛らしく呼んでいたけれど、中学生に近づくにつれてなんだか気恥ずかしくなって「貴利名」と普通に呼ぶようになったりもした。泣き虫だった私を、貴利名はいつも励まして側にいてくれて、いじめっ子からも一生懸命守ってくれた事もあった。幼馴染なら当たり前のような事は、周りよりもずっと距離の近かった私達を私は特別に感じていた。だから、こうして中学に入って、部活も一緒に出来る事に何よりも歓喜していたのだ。

「おい、聞いてるのか?」

顔をしかめて私の顔を覗いてくる貴利名に一瞬どきっとしたが、何とか平常心を取り戻して苦笑いで返す。

「ごめんごめん、聞いてなかった」
「そういう所で素直にならなくても……」

えへへ、と頭を掻くと、貴利名も同じように苦笑した。

その後話題を戻すように、貴利名は「それで」と切り返す。

「千歳に相談したいことがあるんだけどさ」
「相談?」

そう言って貴利名は稲妻の絵が描かれた学校指定の鞄をごそごそと漁り始めた。私は一体何が出てくるのかと思って首をかしげて待つ。「あった」と小さく漏れた言葉に気が付いて、貴利名の手元に視線を移す。

「こんなの貰ったんだけど」

ぴら、と私に見せてきたそれは、ピンク色の可愛らしい封筒だった。丁寧に花のシールで真ん中を封じてあり、どこからどう見ても………うん。

正しくラブレターであった。

どうしようか。ここは貴利名になんて言ったらいい?「それ何?」か「え、ラブレターじゃん」か?だめだ、どちらも言えない。まず貴利名のこのすました表情からして、ラブレターだと気が付いていない可能性がある。

「それって、」
「うん、ラブレター?ってやつ」
「…………さいですかぁ」

コイツ、あっさりと言い放ちやがった!びっくりだよ私!昔の貴利名はこういうものに疎くて貰う度に頬を赤らめて恥ずかしそうにしていたものだが、今じゃこの反応だ。

もう告白は慣れたってか?くそう……このモテ男め……。

咄嗟に出た返事はすごくあっけらかんとしたものになってしまったが、貴利名は気にしていない様子だったのできっと大丈夫だろう。そんな私の心境はつい知れず、貴利名はどんどん話を進めようと口を開く。

「この返事、受けようか迷ってるんだ」
「……受けるの?」
「分からない。でも、すごく真剣に書かれていたんだ。どれだけ頑張って、勇気を振り絞って書いたのかがすぐ分かったんだ」

ぐっと拳を握る。痛いほど握りしめているのに気付かれないよう、さりげなく手を後ろにまわす。

封筒を見てフッと優しく笑う貴利名に胸がズキズキと痛む。あれだけ穏やかだった心は、一人の幼馴染によってこんなにも簡単に変わってしまうだなんて何だか情けなかった。

ずっと、幼馴染だから大丈夫だと心の何処かでそう決めつけていた。……でも、そうだよね。いつかはこの関係性が壊れる事があるんだ。それを予期していなかった私が全部悪いんだ。貴利名はただ、その子の気持ちに精一杯応えようとしているだけなんだ。

「でも、同じくらい頑張り屋な人を俺は知ってるよ。小さい頃からサッカーが好きで、いつでも特訓して、それだけでなく周りを助けるのが大好きで、一生懸命努力するんだけど空回りしちゃって、実はとっても泣き虫な人だ」

その言葉に、そっと貴利名の表情を伺う。貴利名はさっきよりも何処か生き生きとしていて、私を真っ直ぐ見つめて言葉を紡いでいた。

どくん、と再び心臓が大きく跳ねる。自惚れだ、なんて言われるかもしれないけれど、すぐそこに希望を見せられては信じるより他になかった。

「千歳、俺はお前が好きだよ」

ふにゃりと口角を上げて優しく微笑む貴利名に目を奪われる。顔が整った彼が、こんなにも綺麗な笑顔を浮かべると本当に様になる。

真っ白になった頭を頑張って回転させて、自身の震える手をぎゅっと絡ませる。徐々に頬へ熱が集まっていくのを感じながらも早く返事をせねばと同じように口を開いた。

「……遅いよ、ばか」

口ではこうだけれど、緩む頬は隠しきれなかった。泣きそうになりながらも、貴利名に自分の想いを伝えた。もう後悔はしないようにと、はっきりと伝えた。

そんな私を見て目を白黒させると、貴利名はニッと男の子らしい笑顔を浮かべた。そんな彼らしい笑顔が、もうずっと離れないのだ。