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  ag夢

お久しぶりです、浅葱です!
サイト更新を怠って今まで何をしていたかと言うと、wehの夢本原稿をやりつつTwitterで夢活に勤しんでいました。
そして最近agに再熱をしてしまいまして、勢いで夢を初めてしまった訳ですよ。
という訳で(どういう訳なんだよ)Twitterに載せている固定夢主の夢小説を追記から載せようと思います。
好きな所から書いた文章なのでTwitterをフォローしていない方は少し分かりにくいかもしれませんが、興味のある方はどうぞ!

デフォ名:暁
 戦えるかと聞かれた時に、暁はきまって「弱いから」と言って断っていた。
 それは彼女の一種の口癖のようなものであり、いつから使い始めたかすら本人も覚えていないくらいだ。実際自分が弱い、戦えないという事は事実であり、誰よりも暁はそれをよく理解していた。だからこそ、彼女は弱くても戦えるように色々な策を生み出してきた。
 今日はその『策』というものを実験するべく、誰にも内緒でとある場所へ足を運んでいる。その場所は最近活動が活発になり問題になってきていると噂の、とある攘夷志士の活動拠点だ。主に外国からの密輸等、不法貿易に手を染めているらしく、天人と手を組んでいるとの情報もある。暁には政府に通ずる知り合いが多々いるため、そういった情報は割とすんなり手に入るものだ。

「そろそろ行くかなあ」

 ぽつりと呟いた暁は、巫女装束とは違う地味な色合いの袴を身にまとい、大きな笠を被りながら楽しげに口角を上げる。別に戦いが好きという訳でも人を斬るのが好きという訳でもない。別に人斬りになる気も犯罪者になる気も死ぬ気も毛頭ない。ただひとつ、『実験』が好きなだけである。今日も戦いに来たという意識は彼女に一ミクロンもなく、薬の実験のために来たという意識の方がそれはそれは強かった。
 袖口に忍ばせておいた薬瓶をそっと取り出し、きゅぽんと軽い音を立てながらコルクを外す。目をきらきらと輝かせたまま、暁は一気に薬を口の中に流し込んだ。そうしてコルクをまた瓶にはめて袖口にもう一度しまうと、今にもスキップをしそうな軽い足取りで活動拠点へ歩き始める。

「き、貴様! 何奴だ!?」

 まるで罠に掛かったかのように、タイミング良く攘夷志士が暁の姿を見つけて刀の先を向けてくる。暁ははしゃぐ小さな子どものような笑顔を見せると、目の前の攘夷志士と同じように腰に差していた刀を流れるような動作で引き抜いた。

「まあ、なんだろうねえ……なんて言うのかな。簡単に言っちゃえば……薬の実験台になってもらいま〜っす!」

 男はいつの間にか斬られていた。刀を振り翳す様子もその目で確認できないほどの素早さで、肩からざっくりと心臓まで切り刻まれていたのだ。
 その男は一言も言葉を発せぬまま力なく地べたへと身体を倒れさせる。
 暁は頬に付いた返り血を袖で雑に拭うと、きらきらと目を輝かせてガッツポーズをしてみせた。

「動きがまるで違う……いや、動き方が手に取るように分かる! まさかまさか、これは実験成功したんじゃない!?」

 血の付いた刀を持ったまま楽しそうにその場でくるくると回る少女の図は、人が見たら狂気に感じるだろう。人が死ぬのも人を殺めるのも躊躇なく行う暁だが、実戦経験がある故のものではなく、むしろ実戦経験はほぼ無いに等しい。
 だからこそ、戦えるために暁はこの『薬』を作ったのだ。この薬は戦えるようになる薬ではなく、人の戦いをコピーする薬である。制約としては同じ人の戦闘を、指先やつま先まで完璧に再現出来るくらい見ること。数にすれば何十万回と見なければいけない……つまり、この薬を手に入れ飲んだとしても大して人の戦いを見たことの無い人間はなんの効果も得られないのだ。
 もしこの薬が手元を離れ世に出てしまう時があるとして、悪用される事が無いように暁が仕掛けた『制約』というものだった。
 そして、まるで幾千もの戦場を渡り歩いてきたような、戦い慣れした戦い方をした暁は言葉通り『何千万回と同じ人間の戦闘を見てきた』という事の証明にもなる。

 周辺に居た攘夷浪士を変わらぬ笑顔で斬り倒し、ふっと息をつく。別に攘夷浪士の行いを罰しに来た訳でもないし、大事になる前に去ろうと刀を鞘にしまう。遠くでガヤガヤと騒がしい音が聞こえるが、暁の頭には「実験が成功した」という事実しか残っていなかった。

「……ありゃ?」

 だから、と言うべきか。背後から近付いていた人の影に気が付かなかったのだ。



「……何やってんの君」

 眉間に皺を寄せた神威が、包帯をぐるぐると巻かれた痛々しい姿の暁をじとりと睨む。
 攘夷浪士に切られたあの後、治療をする前に神威に見つかり罵倒の言葉を永遠と聞かされた暁は、眉を下げながら「はは……」と乾いた笑い声を上げた。

「やー……ね? 薬の効果が分かりそうだから攘夷浪士達に実験台になってもらおうと思って……」
「それはいつもの事だから別に咎めはしないよ。そうじゃなくて、『何で傷を治さないのか』って事だよ」

 す、と目を細める神威の視線に耐えられず、冷や汗だらけな状態の暁は観念したように「はぁ」と軽くため息をついた。
 暁の治療の腕は一級品だ。常日頃から薬の開発・実験をしている暁は、止血のスピードを早めたり、一日である程度の傷口を塞げるような薬を自らの手で作り上げている。その事実を知っている神威は、包帯から少しだけ滲んで見えた血液を目敏く発見し、こうして指摘をしたのだ。

「……自分の傷も、実験に使えるかなと思って、」
「阿呆」
「いッだァ!?」

 ぽつり、ぽつりと本音を呟くと、神威は笑顔を貼り付けながら暁の傷を軽く(神威にとっての当社比ではあるが)小突いた。あまりの痛さに暁は思わず声を上げ、涙目になりながら「暴力反対!」と訴えるが、神威は「うるさいよ」と一蹴するだけで相手にもしてくれない。

「暁。君がどんな実験をしようと俺はどうだって良いけど、自分の身も守れない様なら実験の方も制限するからね」
「ええー!!」
「ええーじゃない」

 いつも好き勝手やって阿伏兎に咎められている子どもらしさが残る青年の神威が、同年代と思わしき女を叱る光景は異様なものだろう。

「……ま、これくらいにしといてやるよ」

 小一時間程、暁に説教じみた事を延々と聞かせた神威は漸く満足したのか、膝に手を付きながら立ち上がる。否、まだ満足はしていないのだろう。いつも通り笑顔を貼り付けてはいるが、『まだ言い足りない』と顔に書いてある。そう、昔馴染みである暁はそれが分かるのだ。しかしそれを指摘してしまえばまだ小一時間説教が始まるため、必死になって口を噤む。
 せいぜいこれ以上のヘマをしないようにね、と残して出ていく神威の背中を見つめ、暁ははて、と首を傾げる。そうして可笑しそうににんまりと笑った。

「……神威、相当私の事好きじゃん」