Quelle belle

「よーしオッケーサッカー部入るよ!!」

私がこう言い放ったきっかけは、同じクラスである円堂守からの部活動のお誘いだった。どうやら彼等サッカー部は今度強豪校の帝国学園と練習試合をすることになったらしく、廃部を掛けた戦いとなる上に部員が11人に達していないため、こうしてキャプテンである円堂が勧誘を続けているらしいのだ。

「本当か!?ありがとう!秋も喜ぶぞ!」
「うふふ〜、秋が喜ぶのならいくらだってマネージャーやってやりますよ〜」
「相変わらずだなお前……」

待ってましたとばかりに学校用のデジカメを取り出して表情筋をふにゃりと緩ませる私に対し、守は呆れた様子でこちらを見る。こんなのは日常茶飯事である。

美男美女が大好きな私、笹宮司は、どんなシャッターチャンスも逃さないために肌身離さずデジカメを持っている。学校行事などの、まさしく美男美女が活躍する場面では一眼レフを携帯するようにしているのだ。とは言っても、美男美女のシャッターチャンスなんて毎分毎秒あるものだから、SDカードがすぐ満タンになってしまって困っている所だ。

それで何故私がサッカー部のマネージャーを引き受けたかと言うと、私は小学生の頃にサッカーチームに所属していたから……というのは建前で、マネージャーやればきっと味方だけでなく敵の美男美女を拝むことが出来るかもしれないからなのだ。そんな……私が純粋な気持ちで部活を変える訳がないじゃない!

「でも司はバレー部は大丈夫なのか?」
「あー大丈夫大丈夫!うち人数多いからどうにかなるって!」
「そ、そういうものなのか……?」

私は元々バレー部に所属していて、主にアタッカーとして活躍していた。けど今年になって新一年生に力のある子達がぞろぞろと入って来たから、まあいいかな?的な感じでもうすでに退部届けは書いてあるのだ。……あー、でもバレー部の美女を拝めなくなるのはちょっとさみしいかも。

拝める拝めないで頭の中で葛藤していると、ふいに私の肩に少しだけ重みを感じた。振り返ってみると、そこには秋がいて、何を悩んでるの?と優しい笑顔で私に話しかけてきた。

「……あ〜〜き〜〜〜!愛してるよ秋〜〜!!今日もかわいい〜〜!」
「はいはい、落ち着こうね司ちゃん」

思い切り抱きついた私に、秋は眉を八の字にして苦笑しながら私の背中を優しくぽんぽんと叩く。お姉ちゃん……というよりはお母さんだ。そう、秋はお母さんなのだ。cute&beautyなお母さんなのだ。

そのままの体制で、秋は明日の練習試合の説明を始める。

「明日の対戦相手の帝国学園はね、中学サッカーの日本一を決める大会、フットボールフロンティアの優勝校なのよ」
「え、そんな強かったのその学校。でもうちのサッカー部って今まで練習試合もしてなかったんじゃないの?」
「そうだけど、なんとかなるさ!」

ニカッと効果音のつきそうなまぶしい笑顔でそう言ってのける守に、今度は私が呆れる番だった。守はああ言うけれど部員が足りない上にほぼ経験も無いだなんて、本当に大丈夫なのだろうか。マネージャーになって美男美女をレンズに納めることが出来るのはとてもありがたいが、こんなでは先が思いやられる。

私は秋の背中に回していた腕を戻すと、秋も私の背中に触れていた手を離す。秋の話の続きを聞きながら、練習試合用のメモリを空けておくようにカメラの整理をし始める。

「それと、確か負けたら学校を壊されるっていう噂があるのよね」
「そ、それって……物理的に?」
「そう、物理的に」
「建築費大変じゃん……」
「着目点はそこなの……?」

絶望した顔で口をあんぐり開けると、ついには秋にも呆れられてしまった。中一から仲良くしている二人に呆れられるなんて、私の人生終わったのでは…?

でも本当に大変だ。負けたら学校を壊されるなんてたまったものじゃない。しばらく学校に行けない=学校の美男美女に会えないという式が成り立つのだ。そんなのあんまりだ。学校が壊されて悲しむ……と言えば、雷門夏未お嬢も悲しむ…?そ、それはいかん!!夏未様を悲しませるなんてそんなの許される行為ではない!!

「守!!全力でマネージャーやるから絶対勝てよ!いや勝てる!!」
「そうだな!俺たちならきっと勝てる!いや、勝ってみせる!」
「さっきまでの弱気な司ちゃんはどこに…?」

おー!と元気よく拳を上げて盛り上がる私と守をよそに、秋ははあ、と心配そうに溜息をついた。
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