Quelle belle

試合当日。規定の時間に学校へ向かうと、守が門の所でおーい!と手を大きく振って私を待っていた。その隣には猫のような帽子をかぶった男の子がいて、よ!と言うとよ、と手を上げて返してくれた。

「お?なんだお前ら知り合いだったのか?」
「いや全然」

男の子はすぐに否定したので私もそれに続いてうなずく。そっかー、と気にする様子のない守は、そうだ!と声を上げた。

「こいつは今日からマネージャーの笹宮司だ!」
「よろしくねー」
「こちらこそよろしく。僕は松野空介。マックスって呼んでよ」
「オッケー」

本当に初対面か?と突っ込まれそうな会話を続けていると、守がせかすように私達の腕を引っ張って部室へつれて行かれる。私はこのときの為と思って特注の一眼レフを持ってきたのだ。電池も容量もばっちり。これでシャッターチャンスを逃す事などないだろう。

満足げに笑っていると、隣で小さく怖っと呟く声が聞こえた。しっかり聞こえてんぞマックス君よォ。

…と、チンピラになる前に部室に着いたため、なんとか表情を元に戻す。がらりと扉を開けると、そこにはユニフォームを着て待っている部員の皆がいた。

「皆!紹介するよ。今日の試合、助っ人に入ってくれる松野空介と、マネージャーになってくれた笹宮司だ!」
「僕の事は、マックスって呼んでいいよ。君たちのキャプテン見てたら退屈しなさそうだからさ」
「あー確かにそれはあるかもね〜」

マックスが部員募集の立て看板を持ってそう言った後に続き、賛同の言葉を述べる。やる気いっぱいアン○ンマン!みたいな感じの精神力持ってるもんね。あ、でもあれ顔ぬれたら無能なんだっけか。

するとすかさずマックスの言葉に部員の一人が反応する。

「退屈って……遊びじゃないんだぜ、試合は」
「心配いらないよ。サッカーはまだやったこと無いけど、こう見えて器用なんだよね」
「私は小学生の頃にサッカーやってたから最低限の知識はあるし、マネージャーとしては有能だと思うよ〜」
「と、言うことだ!期待しようぜ!」

上手いこと話を切り上げてくれた守に、賞賛の拍手を送りたい。そうだ、早く練習やろうぜ!あの水色ポニーテール君の顔が良いから今撮りたくてうずうずしてんだ!

そんな良い流れを切ったのは、なんだか普通な感じの男子だった。しかし…これでもまだ九人だぞ、なんて言って切り出したのだ。いいじゃねーか九人で!!やってやろうぜ普通君!

ふと普通君の後ろから、ぬっと長髪の子が現れて、十人だけど…とぼそりと呟いた。い、いたんだ彼……めっちゃ失礼だけどいたんだ…。ごめん、気付かないで…と凄く気まずそうに謝る普通君の方が失礼だから別に気にする事はないかな!

どうやら長髪の子は影野と言うらしい。その影野君は存在感を出すためにサッカー部へ入部したとの事。陰薄い方が不意打ちに強いのでは…?目立ったらその分マークが付いてしまうのでは…?

と、まあそれは彼のプレースタイルによるから試合を見てから決めればいい訳だけど。

そんな話をしている最中、グラウンドから大きな音が聞こえてきた。急いで外に出てみると、大きな黒い車のようなものが雷門中の門の前に止まっており、周りは砂煙で見えづらくなっている。どうにか目を凝らしてそちらを凝視していると、扉が大きな音をたてて開き、中からレッドカーペットと、帝国学園と思わしき制服を着た生徒達が規則正しく並び、軍隊のように一律の動きをしていた。

私達が呆然とその様子を見ていると、中から帝国学園サッカー部のユニフォームを着た人たちがぞろぞろとレッドカーペットの上をゆっくりと歩いて来る。あ、イケメン発見。撮っておこう。

チームの人たちがなにやらこちらを見てぼそぼそと話をしているのだが、距離があって残念ながら全く聞こえない。

どうにか聞こえないか耳を澄ましていると、帝国学園の車(仮)の天井部分から、椅子に座った大人の男がにやりと口角を上げながら出てきた。隣でゆらりとはためく旗と、着用のサングラスが光ってなんだか怪しい雰囲気を醸し出している。

守はさっそく先頭にいる男の子に挨拶をしに行った。

「雷門中サッカー部のキャプテン、円堂守です。練習試合の申し込み、ありがとうございます」

きっちりと礼儀正しく挨拶をして、握手をしようと手を差し出す。しかし相手は顔を逸らし、握手を拒んだ。なんと非常識な。最初から最後まで腕組んだままだし、なんか知らんけどマント着てるし、大丈夫なのかこの人?全円堂守が泣いてしまうぞ。

「初めてのグラウンドなんでね、ウォーミングアップしてもいいか」
「あ……どうぞ」

そんな相手の態度に対し、守は驚いた様子で了承する。

雷門中サッカー部はグラウンドから離れ、帝国学園に譲る。帝国サッカー部はグラウンドに入ってそれぞれの位置に立ち始める。

一人がボールを蹴ると、そのボールは止まらずにどんどん次の人へと渡っていく。眼帯君が消えたり、おチビ帝国バージョンが器用にボールを操ったりと、まるで大道芸でも見せられているかのようだ。凄くて言い表せないからとりあえず連写でもしておこう。記念だ記念。いつか雷門中が勝った時の拷問アイテムとして保管しておくんだ。

ふと、守を無視した……腕組君でいいか。が、ゴーグルをきらりと光らせ、指をパチンと鳴らす。無駄に綺麗な音が出るのがとても屈辱です。…でもあれ?私この腕組君どこかで見たような気がするんだけど気のせいかね?

まあそれはそうとして、その合図でチームの二人が動き出す。一人は強烈なパスを、もう一人は思いきりそのボールを高く蹴り上げた。そのボールに向かって腕組君がジャンプをして守の方へ強く蹴り落とした。そのボールは速度を落とすこと無く一直線に守へ向かっている。守は間一髪で両手を前にやり、ボールを受け止める。あまりの威力に踏ん張る足は後ろへ下がり、回転が治まったボールはぽとりと地面に落ちた。

「っちょ、守大丈夫!?」

受け止めた両手をぎゅっと握り、ふるふると震える守に声を掛ける。グローブをしているからと言っても、あのボールは流石に痛いだろう。

ゴーグルの奥でにやりと笑う目を見て、なんと守はこう言い放ったのだ。

「面白くなってきたぜ!」

…何が面白いのかさっぱり分からないけど、守が幸せそうならあたしゃ文句ないよ。
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