03 昔話に火が付いた

「ち、ちっす!」
「……」

 頑張って笑顔を作って挨拶をするも、相手がこちらをガン見して黙ってしまえばそんな笑顔も吊ってしまうものだ。

 あれからルキアと黒崎に強制連行され浦原喜助が経営しているという駄菓子屋、『浦原商店』に辿り着いたのだ。私が心の準備をしようとしているのなんて知らない二人はズカズカと店の中に入り、今に至るという訳だ。

「……箕島サン、すよね。その霊圧は」
「ア……アア……」

 声にならない返事をすると黒崎に「お前はカオ○シか?」と突っ込まれてしまった。こちとら今それどころじゃないんだわ、好きでカオナシの物真似やってるんじゃないんだわ。こちとらやっぱり霊圧でバレるか〜!と心の中で叫んで暴れてんだわ。その代償として人語を喋ることが出来なくなってしまったのだが。

「ってちょっと待てよ。『箕島』ってどういう事だよ? お前の名前、泉世じゃねえのか?」
「箕島サン、あの時確実に死んだ筈っスよね。…姿は前と違うから大体予想は付いてますけど…説明願えます?」
「浦原の知り合い…? まさか貴様、死神だったのか!? それならああして鬼道を使えるのも納得…でもそんな名前、尸魂界で聞いた事ないぞ?」
「待って待って! 私聖徳太子じゃないからそんな一気に答えられない! ちゃんと全部話すから落ち着いて!?」

 疑問が募りに募って大爆発した四人が一気に質問をしてくる。私はどちらかと言うと実は頭が弱い人間のため、一斉に質問されると頭がパンクしてしまうので止めて欲しい。

「ええと…まず『箕島』って言うのは私の前世の名前。前世は『箕島湖珀』として死神やってたんだ」
「前世…と言うと、矢張りアナタはあの時『死んだ』という解釈で良いんですね?」

 そうだよ、の意を込めて頷くと、今度は黒崎が慌てて質問を切り出す。

「さっきから死んだ、って言ってるけどどういう事だよ?」
「うん、私は死神として処刑されて死んだんだ」
「処刑…!?」

 あ、これは流石に詳しくは言えないけどね。と言いながら人差し指を自分の唇に当てる。そう、私はとある理由で処刑されて死んでしまったのだ。死んでしまった私の魂はしっかりと現世でこうして人間として生まれ変わる事が出来た。これが幸運と称するか不運と称するかは自分でも分からないが、霊圧を持ってしまう事で虚に狙われるという点を挙げれば不運と言っても過言ではないのだろう。私が死んでから話題が出ないのも、自然と護廷十三隊内で禁句のようなものになっていたに違いない。あまり処刑者の話題を出す事も無いだろうしな。

 ああそう言えば、ここに居るルキアも処刑されそうになったんだったか。私が「処刑」という単語を出した途端、黒崎とルキアの表情があからさまに強ばったのだ。まあそれはそれはタイムリーな話なのだからそういう反応は当たり前なのだが、私にとってはもう遠い昔のような記憶になってしまったため、その単語に対して何か特別な感情を抱くのかと言われれば答えはNOだ。こう見えて、私は過去を気にしないあっさりタイプである。

 それから私への質問攻めタイムが漸く終わり、ほっと一息つく。正直こんな質問攻めされた事が無かったために非常に疲れてしまった。やれやれと言いながら店の奥にあった座布団に勝手に座ると「相変わらず図々しいッスねぇ」なんて言われてしまい、どういう反応をすればいいのか分からなくなり、とりあえず照れておいた。

「そういえば浦原隊長は何で現世で駄菓子屋なんて経営してるんです? そんなにお金に困ってたの?」
「あー…そうですよね。箕島サンがあの事知らないのは当たり前…か」

 へらりと笑う浦原隊長を見て首を傾げる。このへらりと笑う姿も、他にはない浦原隊長の独特な雰囲気は以前と全く変わっていなくて、ほんの少しだけ安心した。しかし、私が死んだ後に一体何があったのだろうか。その疑問をぶつけようとしたその時、つい先日も聞いた代行証のけたたましいサイレンのような音が店中に鳴り響く。それにすかさず反応したルキアが「近くだ!行くぞ!」と言いながら黒崎と一緒に慌ただしく店を出て行った。

「…最近の子は元気だねえ」
「アナタ今高校生でしょ」
「中身が200超えてる人間にそれ言う〜? いやそれはそうとして、さっきの話教えて欲しいんですけど」

 話の軸を戻そうとすると、浦原隊長は「ああ」と言って静かに話し始めた。まず、藍染の事。虚化の事。そして、被害者になった死神達の事。その全てを、詳しい所までしっかり聞いても、まるで悪夢の話をしているのかと耳を疑ってしまった。

 何と言っても、藍染についてだ。私は死神だった頃藍染とは同期であり友人兼ライバルのような物であった。周りからは『物腰の柔らかい優しい死神』としてとても慕われていた人物だが、実はそんな事は全く無く、私はあいつが猫を被って生きているのを知っていた。何かと一緒に居る事が多かった藍染を見て、直感で当てた。そんな藍染は私を見て少々驚いていた様子ではあったが、特にこちらに引き入れようだの脅そうだのと、そんな物騒なやり取りは一切無かった筈だ。確かに頭のキレが良い人間が周りの人間を欺いているとなると滅茶苦茶に怪しまれる要因となり得るのは分かるが、果たしてあの人間はそんなおっかない計画を立てるようなヤベー奴だっただろうか?

 と、思って当時を思い出してみる。私が処刑される前から藍染は計画を立てていた。あの時何でか知らんが市丸ギンと仲良しこよしし始め……あれ?もしかして私が鈍かっただけ?只単に藍染に対して興味が無かっただけなの?あらヤダ、うっかりしていたわ。と口に手を当てて心の中で盛大に驚いていると「……気付いて無かった、って顔に書いてありますよ」と浦原隊長に指摘されてしまう。何故。何故この人はこんなにも容易く私の心の中を読んでしまうんだ。

「ふむ、じゃあ呼び方変えた方がいいですよね」
「え、この話した直ぐ後に言う言葉がそれっスか?」

 帽子で影が掛かっている双眸を細め、呆れた様子で浦原隊長が聞いてくる。し、仕方ないじゃん!あんまりにも重すぎる話と何も気付いて居なかった自分のポンコツさで頭がパンクした結果どう返事をしたらいいのか分からなくなり絞り出した言葉がこれだったんだもん!

 ともかく、浦原隊長…もとい浦原さんが現世にいる理由がやっと分かった。藍染に気付かれないように、という点で言うと、さっき虚に向かって霊圧大放出してしまった私、もしかして結構ピンチなのでは?と自覚し始める。藍染頭良いし勘も良いから最悪の場合がありそうだな、とぼんやりと思いながらもどこか事を軽視している自分がいた。

「じゃあ箕島サン……ではなくアタシも泉世サンと呼んだ方が良いですかね」
「そっちの方がありがたいですね。万が一藍染にバレた時とか、総隊長ら辺にバレたりなんかしてまた処刑台行きとか死んでも御免ですし」
「はは、冗談にしても話が重すぎますよ泉世サン」
「アハハ」

 じょ、冗談とも言いにくい話なんだよなー!と脳内で叫びながら乾いた笑い声を発する。いかんいかん、これじゃあ暗い空気が出来上がってしまう。そう思ってなにか別の話題を出そうとした時、店の奥から懐かしい霊圧が近付いてくるのが分かり、ちらりとそちらを確認する。

「わ! 鉄裁さん!」
「お久しぶりですな、箕島さ……いえ、今は泉世殿とお呼びした方が良いですかな」
「あれ、聞いてたんですか? 普通に一緒に聞けば良かったのに」

 私がそう言うと鉄裁さんは「聞く耳を立てるようで申し訳ない」とへこりと謝る。大鬼道長をやっていたような人間がこんなに謙虚で良いのだろうか。だからと言って浦原さんの様にのらりくらりとしていても中々に問題があるが。

「……にしても、泉世サンは人脈広いッスよね〜」
「んー、言われてみればそうかも?」
「大鬼道長と知り合いの三席平隊員なんて中々いませんよ」
「えへへ……まあ一度喋った相手は友達認定してるんでてん…」
「相変わらず友達の基準がおかしいっスね」

 へらりと笑ってなんとも失礼な発言をする浦原さんに「失敬!」と言いながら足を踏みつける。「それこそ普通は元隊長の足踏みつけないでしょう!?」と言いながら心底痛そうに足を摩る浦原さん。避けられたものを避けないのが悪い!と暴論を提唱していると、どこから入ってきたのか一匹の黒猫がいつの間にか私の横に座って居た。

「え、何、駄菓子屋で猫ちゃん飼ってるんです? かわいいなあ……あれ、でもこの猫酒臭い……んん? ……もしかして夜一さん?」
「気付くのが遅いわ!」
「ふぎゃ!」

 それも酒の匂いで気付くとは失礼な奴だな、と私の顔面に猫パンチをキメる猫姿の夜一さん。人型の夜一さんは美人で良いと思うけど私は猫夜一さんがいいかな。パンチが可愛いし、威力弱いし、可愛いし。そんな心の声を察してか、先ほどよりも威力が増した猫パンチが私の頬へ直撃する。少しだけ痛い。

「元気そうでなによりじゃ、こはく」
「へへ、私は死んでも元気なのが取り柄ですから!」
「……その反応しにくい冗談はやめろ」

 この手の冗談を言うと皆同じ反応するんだよなあ、と思いながら鉄裁さんが淹れてくれたお茶を一口啜る。緑茶の苦みが口全体に広がって、なんだか懐かしさを感じた。まあ、この元死神達と一緒に居ればそんな気持ちを抱くのも無理はないのだろう。もはや同窓会の気分でこの場所に居る様だ。

「……ああそうだ、泉世サン」
「ん?なんです?」
「対藍染の準備、手伝って貰いますよ」
「話の流れおかしくない?」

 泉世こはく、現在人間であり空座第一高等学校の一年生。幽霊すら目に入れないよう気を付けていた、あまり目立ちたくない至って普通の女子高生が、なにゆえこんな大きな戦争に巻き込まれなければならないのだろうか。