つらいんだったらやめちゃえば

「かーぜーまーる」

そう言って風丸の首に腕を回し、寄りかかって体重をかける。いつもなら重い、なんて言って反抗してくる風丸だが、なんだか今日は覇気が無いようで黙ったままだ。

かと思えば私の腕を解いてこちらに向き合うと、目線を合わせて私の背中に腕を回してきた。ぐりぐりと私の肩に顔を埋める彼の頭を優しく撫でてやると、ようやく子供扱いするな、なんて反抗してきた。

「どーしたの、風丸」
「……うるさい、ちょっと黙っていてくれ」

まあ酷い。けれど、こうも甘えたな風丸は滅多に見られないためにその言葉を飲み込む。その代わりに、私も彼の胸に顔を埋める。ふんわりと風丸のにおいが鼻をくすぐって、なんだか不思議な気分になる。やったこと無いけど、ふわふわしてて麻薬みたいな感じ。

それでも頭を撫でる事をやめない私にしびれを切らしたのか、回していた腕を解いて、自らの手を私の後頭部にあてがい乱雑に唇を落とした。いつもより乱暴なキスにどうにか対応しようと受け止めるが、やっぱり人間限度があると言うもので、どうしても声が漏れてしまう。

ようやく離された唇は官能的で、艶やかに光って私の脳内に染みついて離れない。ぼーっと風丸をみつめ、ふにゃりと笑うと対照的に怪訝そうな顔をする風丸。

「ねえ、風丸?」
「何だ」
「何で私がいいの?」

笑顔は絶やさず、首をかしげてそう聞くと、風丸は怪訝そうな表情をほんの少し正常に戻し、ぼそりと呟やく。

「何でも、いいだろう」

弱々しく言い放ったその言葉は案外私の心の奥に突き刺さり、気がついた時にはこんな言葉を放っていた。

「私と居るのが辛いんだったら、この関係やめちゃおっか」



(答えが怖くて、耳をふさいだ)