貴方のお名前は?

「あああ、あの! お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか!?」

 小さな背丈に毛穴を知らなさそうなきれいな肌、そして幼いと感じさせるかわいらしい顔立ち。その女は、きらきらと輝いた瞳をこちらへ向けながら前のめりになりながらそう聞いてきた。
 彼女の名は名字名前。このかぶき町でも有名な甘味処・茶梅(さざんか)で働く成人女性だ。そう、別に俺は今女児に口説かれているのではない。俺はどこかの誰かみたいなロリコンではない。確かに背は小さいし、今の俺の肩くらいしか身長は無いし、胸は無いし、童顔だ。これだけ言えばただの幼女だと認識するだろうが、彼女はれっきとした成人女性なのだ。俺も最初は幼女だと思って子ども扱いしたら「女性の年齢を勘違いするなんて最低ですね。正直キモいです」と無表情のまま言われた事がある。あれは泣いた。一週間くらい根に持ったし新八と神楽に鬱陶しがられるほど落ち込んだ。別に彼女に気が合ったとかそういう訳でもなく、単純に初対面の相手にこれほどの暴言を吐かれたことが無かったためにここまでショックを受けたのだ。
 しかし彼女は俺だけに冷たい訳ではなかった。どうやら茶梅の女将に聞いた話によると、彼女は男性全員に対してこういう対応をしているらしい。逆に女性に対しては紳士のように優しく接していると言う。そう言えば前に神楽を連れて茶梅へ足を運んだ時、神楽がいつもの爆食を披露したにも関わらず会計の時やけに安かった気がする。え、銀さんいつも通ってるけど一度もまけてくれたことないけど? これが対応の差か……。

 だから、今までのアイツを知っていたからこそこの対応をされてかなりドン引いた。今の俺はデコボッコ教の仕業で性転換してしまった、つまりは女の姿だ。いや確かに女だし、さっき鏡見てきたけどスゲー美人だしボンキュッボンだよ? でもそんな見た目に誘惑されるようなチョロい奴だったかなァ〜こいつ。

「あー……、大変言いにくいんですが、俺、坂田銀時」
「えェ、そんな冗談やめてくださいよ! 貴方みたいなお綺麗な女性が、あんなちゃらんぽらんな訳ないじゃないですか!」
「あーーもうダメだよこいつ話聞かねェよ!!」

 俺は名前に背を向けて意味のない会話に頭を抱える。結局俺が女になっても俺の話は聞いてくれねェのかよ! アイツの耳はなんのためにあるんだ!? 

「……? あの、どうかされました?」
「いや、なんでもねェよ。てかもうどうでもいいわ」
「よくわからないですが、とりあえずお名前を!」
「だーーもうお前しつこいな!! まずなんでそんなに俺に拘ンだよ? 女ならもっと他にも沢山居ンだろ」

 半ばヤケクソになりながらも尋ねると、名前はきょとんとして「ああ」と言いながらふんわりと俺にわらいかける。

「このお手入れが行き届いているきれいな銀髪も」

 ストレートだからそう見えるだけだろ。

「この透き通るような綺麗なお肌も」

 オメーも人のこと言えねェだろ。

「睫毛が長くて大きな瞳も」

 そりゃ、オメー、

「かわいらしいお姿で男勝りなそのギャップも」

 …………。

「全部、好きになってしまったから。私が貴方を、守りたいと思ったからですよ」

 俺の手を取って、上目がちに微笑む名前は『かわいい』という形容詞より『かっこいい』という言葉の方が似合う気がした。
 いや、いやいやいやいや。待てって。ちょ、おま、名前ってこういう奴だったっけ? 女に対しては妹のように可愛らしく接していた、はずなのに。

 お名前は? と、まっすぐ瞳を見つめられながら再度そう尋ねられて。俺は、

「……銀子、デス」