徒花は笑う02

れーちゃんの歩く少し後ろを追うように歩いて行く。隣を歩いたら絵面やばそうだからさ。29歳男性と見た目高校生とか犯罪じゃない?と思ったしかわいそうだからやめといてあげた。私ってば優しい!なんて心の中で自分を誉め称えていると、突然れーちゃんが途中で立ち止まったのでぶつかりそうになる。どうにか頑張って足を踏ん張ったが突然止まるのはやめて欲しい。まあ体幹が良いのがここで役だった訳だが。

どこに着いたのか確認しようとする間もなく、れーちゃんは車のドアを開いて「乗れ」と催促してくる。いや完全に犯罪者の言う事じゃん……れーちゃん警察どうしたの……本当に警察官なの……?

それはさておき乗せられ(そうになっ)たのは見覚えのある車で、えーと……確かれーちゃんの愛車の……RX-7…だったかな?まあ愛車と言うだけあってずっと昔から使っている様だった。あんなに荒い運転でボッコボッコ車を傷つけてきたのに車体は傷一つ見当たらないなんて、修理にどれほどの金を費やしているんだ。恋人は車かこのイケメンボーイめ。

結局おじゃましまーすなんて言って助手席に乗り込むと、れーちゃんは反対側に回って運転席に腰掛けた。バタンと扉を閉めた途端、れーちゃんの雰囲気が更に怖いものになる。今にも人を殺しそうだ。

「……で、何故俺の偽名を知っていた?それにお前は警察を辞めてから行方をくらませていたが……一体何をしていた?」
「うーん……、言っちゃうと偶然分かったんだよね」
「偶然?」

れーちゃんは怪訝そうに顔をしかめながらも私の話の続きを待つ。

「とある依頼人から頼まれた用件を調べていたら、意図せず安室透を見つけたんだよね。そこから情報を調べて行く内に、安室透という人物の『不自然さ』に気がついたんだ。それで気になって…まあ、ここからは単に私の知識欲が勝っただけなんだけど、調べたられーちゃんだったんだから驚いたよ*」
「まて、依頼人って何だ?……お前、本当に今何をやっているんだ」
「何って、しがない情報屋だよ。前職より稼ぎは少ないけど、それなりに充実してるよ〜?」
「情報屋……!?」

れーちゃんは驚いたように目を見開く。そんなに驚く事かな……と思っていたら「自営業なんか出来そうに無いのに…」とれーちゃんが呟く。おい失礼だなお前。一応れーちゃんより年上だし上司だったし警察では結構頼られる存在だった(と自負している)のにそんな言われようは流石に傷つく。ひどい。

それよりも、車に入った途端口調が昔と同じになったのは驚いた。あれ、今日驚き過ぎ?いやいやそんなことはどうでもいい。まず……降谷零ってこんな猫かぶりキャラだったっけ。そんな私を見透かしたように、れーちゃんはポアロのバイトの事について話し出した。

「あそこでバイトをしているのは、潜入捜査の為だ」
「潜入捜査……?ああ、まあれーちゃん公安だしありうるよね」
「内容は言えないが、ポアロの上の階にある事務所の主、毛利小五郎の弟子という設定でもある…から、口裏合わせてくれよ」
「うっわれーちゃんが弟子!?うっっわ弟子!!?何それウケる!」
「ウケるな煩いぞ」

れーちゃんの眼光がギロリと鋭くなって思わずびくりと肩を震わせる。人を射殺しそうな目だ。これが警察官のする目か?おまわりさんぞ?平和第一のおまわりさんぞ?



纏めると、安室透って呼ばねぇと殺すって事だろう。え、でも前職の話とかしちゃったけど大丈夫かな。仕事に支障をきたさないといいんだけど……。ま、降谷零だから大丈夫か!生前のじんちゃん…従姉弟の松田陣平もよく「降谷だから大丈夫だろ」とか言ってたし!うんうん、血縁者の言うことはやっぱり違うねぇ!


実は昔たまに乗せてもらったれーちゃんの愛車。まあ言わずもがな内装も変わらずで、面白味がないなぁと少しだけ落胆したのはここだけの話だ。きょろきょろと視線を車内に巡らせながら、次は私が話題を出す。

「でも何か拍子抜けたなぁ……前はもっとスリリングな任務こなしてたのに、喫茶店で任務だなんてさ」
「俺だってそのくらいはするさ」

こういう事に首を突っ込むのは得策とは言えないが、家に帰ったら調べてみよう。あの降谷零が、喫茶店のバイトだけで終わるはずが無い。それにもっと裏がある気がしてならない。……また、大事な後輩が危ないことに首を突っ込んでいるのでは無いかと思うとヒヤヒヤする。

その事を悟られまいとポーカーフェイスを保っていると、途端にれーちゃんの顔が暗くなった。


「……名前が警察を辞めたのは?」
「………」

ああ、その事か。

私は元々警察の特殊奇襲部隊に所属していたのだが、8年も前に親友を自分の事件に巻き込んで亡くしてしまい、辞めた。今でも免罪符なんて物は私の中には無く、残ったのは永遠の懺悔と不甲斐なさだった。……ああ、もう、思い出したくないことまで思い出してしまった。

「やっぱり8年前の……」
「さあ、どうだろうね?ここから先は自分で調べてみなよ」

そう言って私は鞄の中からメモとペンを取り出し、スラスラと文字を書いていく。最後まで書き終わり、はい、と言ってれーちゃんに手渡す。

「…いいのか?」
「久しぶりに会った後輩に冷たくするほど私は馬鹿な先輩じゃあないよ」

伊達に何十年先輩やってないからね。なんて言っておちゃらけたように笑うと、れーちゃんは先ほどよりも少し顔が緩んだ。それでも笑みを見せないのは、私の不甲斐なさに直結するのだろうから本当に申し訳ない。でもきっと、私が謝ったら彼は怒ってくれるんだろうな。

「……君には全てを話す義務があるしね」
「…送っていく。家は?」
「え、いいよ別に。そこまでしなくても」
「乗っておいて何を言っているんだ」
「乗せたの君だよねぇ…?まあいいや。家は前と変わってないよ」
「あそこ売り飛ばしたんじゃ無かったのか?」
「ああ、売ったんだけど取り返した」

取り返した……と呆れた様子で呟きながら、車のエンジンをかけるれーちゃん。………あ、忘れてた。ガチになった時のれーちゃんの運転、私酔うんだった。自分であのくらいの運転をするのは苦でも無いのだが、れーちゃんのアレは駄目だ。化け物だ。とにかく渋滞や事件が被らないことを願おう。

駐車場から出たれーちゃんの車は、(今の所)法定速度で安全運転をしている。うんうん、これが普通なのだよ!普通公共の場でドリフトなんてしません!

ふと、プルルルとスマホの着信音が流れる。それに気が付いたれーちゃんは流れる動作で自らの端末を手に取って、画面も見ずに操作して電話に出た。

「もしもし……ああ、そうか。分かった。今行く」

そう時間も掛からずに、相槌を打ってから電話を切るれーちゃんに首を傾げる。

「どしたの」
「ああ、任務が入った」
「時間ないんでしょ」
「…ご名答」
「いいよ、そっちで降りるからそのまま直行しちゃって」
「助かる」

まあどこが目的地なのかは知らないけどね!

知り合いに迎えに来て貰うって事も可能だし、どうにかなるでしょ。

「じゃあしっかり捕まってろよ?」
「……え、あの、まさかとはおもウワアアアア!!?!???」

れーちゃんがなにやらニヤリと笑みを浮かべて目の色を変えるものだから、私は一つの可能性を頭に浮かべる。……そう、あのハイパードリフト走行である。

まあ止める間もなく始めちゃった訳ですけどね!

私は涙目になりながらも必死に手すりに捕まる。どこに行くかも分からず(これは私が悪い)、それも地獄行きのバスのように走るこの車はレーシングカーだっただろうか。ブイブイ言わせんな族じゃああるまいし!それにお前警察だろ!!

…なんて反抗する余裕なんてなく、悲しくもこの無茶苦茶な運転は暫く続くのであった。