02 欲張りな平凡
「ありがとうございます」
私の目の前にいる、包帯を巻いて下さった保健委員会委員長の善法寺伊作先輩は、優しく微笑んで私に注意をした。そう、忍たまであり委員長の善法寺先輩と私が一緒にいるということは、私が保健室に居るということである。とにかく忍たまとの関わりが少ない私が、授業と委員会以外で話を交わす筈がない。
ちなみに私が保健室に来た理由は単純明快である。新しい実践の授業の難易度が高く、何をするにも平均値を取る私は案の定失敗して怪我をしたからだ。一応保健委員である私が保健室に行くというのは少し抵抗があったのだが。
捻ってしまった右手首は善法寺先輩によって包帯で丁寧にしっかりと固定されていて、少しだけ動かしにくい。その様子を見た善法寺先輩は、くすりと柔らかく笑った。
「お手数お掛けしました。失礼します」
「ううん、気にしないで」
ぺこりと頭を下げると、人の良さそうな笑みを浮かべて両手をふらふらと振った善法寺先輩。
…ずっと思ってはいたけれど、この人女子力高すぎないか?不運なのは置いておいて、善法寺先輩のこの女子力とルックスの良さからして、周りの女子達は放っては置かないことだろう。男子よりも凛々しいくのたま達が色恋に現を抜かすかは別として。
保健室の扉に手をかけると「あ、名字ちゃん!」と後ろから声をかけられた。声をかけられた事よりも名前を覚えられていた事に驚き、一瞬身体が固まるが「何ですか?」となるべく普通に装い、振り向いて手を下ろす。
「手首の様子を見たいのと包帯を巻き直したいから、一日に一回は保健室に来てね」
「え、そんな手間かけられませんよ。それに包帯くらい自分で巻けますし」
「でも名字ちゃん、前包帯巻くの苦手って言ってたよね」
「……何で覚えてるんですか」
「保険委員長をナメるなよ〜?」と言ってにししと歯を見せて笑う善法寺先輩に対し、私は額に手を当ててはぁ、とひとつため息をつく。何気ない一言をこうして覚えられていると言うのは私にとってダメージが大きいものである。
しかし、包帯巻きが苦手というのは本当のことだ。それじゃあ何故保健委員会に入ったのかというと、勝手に友人に入れられたからである。「もう少し忍たまとの関わり持った方がいいわよ」と満面の笑顔で言われてしまっては、断ることなど出来ないだろう。
私は渋々ながらも「よろしくお願いします」と頭を下げると再びニコリと笑顔を向けられた。この善法寺先輩が不運だなんて、一見想像もつかないのだけれど、何度か保健委員会をやっている私はそれを目の当たりにしているため否定が出来ない。
「あ、そう言えば名字ちゃんって明日当番だよね?」
「はい、そうですが」
「なら休み時間に包帯巻に行くから待っててよ」
「え、そんなわざわざ足を運んで頂かなくても当番の時くらい自分で何とか…」
「こーら、遠慮しないの。とにかく、明日絶対に行くからね!」
「…さいですかぁ」
こりゃあ、どんなに止めたって聞く耳を持たないな。そう思って有難く善法寺先輩の意を受け取ることにした。
「…あ、先輩」
「どうしたの?」
きょとんと首を傾げる善法寺先輩の手元を指さす。恐る恐る手元に目を向ける善法寺先輩の顔は徐々に蒼白になっていく。
「薬の材料ばら撒いた…!!」
急いで集める先輩を見ていつも通りだと思ってしまう私は、本当は平凡なんかじゃないのだろうか。まあ、そんなことはさておき、この不運委員長の手伝いをしなくては。
私はすっとしゃがんで善法寺先輩と一緒に材料を集め始めた。