01
「名前ちゃん!サボ君が…!」
血相変えて私の部屋に駆け込んできたコアラの言葉を聞いて、私は思わず目を見開いた。まさかとは思うけど、あの記事を見たから……。そう勝手な想像をしていると、コアラちゃんは構わず私の腕を掴んで「来て!」と走り出す。私は拒むことも無くいとも簡単に足が進み、何よりサボの心配をしている自分の意思の弱さに驚くばかりだった。
急いで走って到着したその部屋は、私の部屋とそう距離は無かった。思い切り扉を開けたコアラは先に私を通そうと端に寄り、「ほら」と私を入らせようと催促する。若干震える足を1歩ずつ進ませると、目を閉じて眠っているサボの顔が見えた。私がなるべく会わないよう、関わらないように気をつけていた、大切な彼の顔だ。ごくりと唾を飲み込み、ベッドの近くにある小さな椅子に腰掛ける。火傷の跡が痛々しく残るその顔にそっと触れると、彼が生きている証拠としてじんわりと熱が伝わってきた。……こんなに眠こくっているのに、生きているだなんて。色々と昔を思い出して感傷に浸ってしまう。いけない、駄目だ。私はここにいては行けない。
「ごめん、コアラ。ありがとう」
サボの顔を見つめながらふっと口元に笑みを浮かべてそう言うと、コアラは眉を下げて「本当に、いいの?」と私に疑問をぶつけてくる。うん、いいんだ。その意を込めて、コアラにも微笑を向けると彼女は悲しそうに目を伏せた。
サボが記憶を失ったあの日、私は何よりも「私を知らないサボ」を恐れていた。顔を合わせて、お前は誰だなんて言われて、自分を保つことが出来るかどうか自信が無かった……ただの、臆病者の我儘に過ぎないのだけれど。それから私はサボの目の前に姿を見せずに、革命軍でひっそりと生きてきた。そんな私の我儘を受け入れてくれたドラゴンさんとコアラには感謝してもしきれない。
軽く手を振ってサボの眠る部屋を後にした途端震えていた足は元に戻っていて、結局はサボの心配よりも自分の事しか考えていないんじゃないのかと自己嫌悪に陥った。重い足を引き摺るようにして去ったばかりの自室に戻り、ベッドに身を委ねる。
「………ここから変われる気がしないや」
重く微睡む意識の中で唯一無二の彼の姿を思い浮かべながら、私はゆっくりと瞳を閉じた。