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いつものことですから



 空は雲一つない晴天。ささやかな風がふわりと隣に立っている木の葉を揺らした。なんとなしに見上げた木漏れ日は星の瞬きのようにきらきら輝いてあたりを照らしている。

 …………きた。

 頭に流れてくるのはフルートの音色。今回は管楽器を使うのもいいかもしれない。最初は優しく、時に大胆に。でもここは少しスローで。ここからはアレグロ。テンポに乗せて黒いオタマジャクシがみるみる五線譜を汚していく。
 お日様と木漏れ日と風のおかげで湧いてきた霊感(インスピレーション)。これだから外は楽しい。溢れてくる音をなんとか紡ぎながら、さらさらがりがりペンを動かす。最後はピアノソロで軽快にかつ繊細に。最後の全音符を書き終えたら、さあ。
「できたーっ!」
 ぶわっと広がる五線譜は五枚、六枚、いやもっとかな?せっかく生まれた音楽だ。生まれたばかりのこの歌を形にする前に、まずは一度宙を舞って、喜びの産声を聞かせよう。
 はらはら落ちるさまはまるで春の桜のようで。名前からあの後輩を思い出す。

「Leader!!」
「うぉっ!?」
 脳内に描かれていたはずの朱色が急に視界に入ってきた。いつものように少し眉を寄せて、綺麗な顔を歪めている。まあそんな顔をさせているのはおれなのだけど。
「スオ〜……びっくりした。いつからいたの?あっ、待って言わないで!」
「あなたが楽譜をまき散らしたあたりですよ」
「なんで言うんだよ〜っ。もっと妄想させて!新しい霊感につながるかもしれないだろ〜?」
「妄想は結構。今日はLessonだと昨日伝えたではありませんか。お忘れですか?」
「え?そうだっけ??そんなの言った???」
「昨日!言いました!!」
 煙でも出そうなくらい怒ってるスオ〜はそこらへんに散らばった生まれたばかりの楽譜を丁寧に拾っていく。ついていた芝生を払ったり、入った皺を伸ばしたり。おれが生み出した曲を大事にしてくれてるのがわかって胸の奥がじんわりと温かい。
「そっかそっか!ごめんな!いい天気だからつい霊感がさ〜」
「そんなことだろうと思っておりました。外に探しに来たのは正解でしたね」
 ふふんとドヤ顔をするその顔が案外好きだったりする。まあまず、元の顔が超好みの綺麗な顔ってのもあるんだけど。
 夢ノ咲学園の校内は広大で、そこかしこに園庭があるからいろんなところに行っては降ってくる音を紡いでいる。前は思いついたまま土の上に書いたりもしてたんだけど、あとあと書き写すのが面倒だから五線譜とペンだけは持つようになった。成長したんだおれも。まあそれはこの後輩のおかげでもあるんだけど。
「さあ、行きますよLeader。今日は遅刻もなさそうですから瀬名先輩に小言を言われることもなさそうです」
 あてもなく歩いて霊感が降ったところで作曲を始めるから基本自分のいるところはわからない。だからもちろん、おれたちKnightsが集まるスタジオが、ここからどう行けばたどり着けるのかもわからない。けれどスオ〜はわかっているから、こうしておれの手を引いて連れて行ってくれる。ほんと、よくできた後輩だ。

 後輩、という枠組みから外れてしまったのはいつからだったろう。ジャッジメントの時かもしれないし、もう少し後かもしれない。目の前を歩くこの小さな背中で、おれを必要としてくれた騎士。それがどれだけ嬉しかったことか。言葉にできないほどだ。
「なあスオ〜」
 それなりに歩いてきたらしく、少しおれでも見慣れた風景になってきたころ、目の前の後輩に声をかける。ぴたりと止まって振り返ると、真紅の髪がさらりと揺れた。宝石みたいだ。
「なんでしょう」
 こちらを見つめる瞳は紫水晶みたいで、きらきらと輝いていて。さっき見た木漏れ日なんかめじゃないくらいに、おれに霊感を与えてくれる。でも今はその音楽に蓋をして。
「ありがとな。いつも、探してくれて」
 連れてきてくれて。
 見つけてくれて。
 たくさんのいろんな思いを乗せたことに、気付いているだろうか。
 きょとんと丸くなった紫水晶は、少し目元を赤くしてふいに逸らされる。ああ、もっと見ていたいな。
「べ、別に。いつものことですからお気になさらず」
 それにLeaderがいなかったらLessonは始められませんし、瀬名先輩も機嫌が悪くなりますし、若輩者の私がこうしてLeaderを連れてくるのは当然であってお礼を改まって言われるようなものでも……
 まくしたてるように続く言葉になんだか可笑しくなる。
 照れてる?照れてんのかな。それなら好都合。少しは見込みがあるってことだ。
 いまだ言い訳じみたことを言う後輩を、今度はおれが引っ張る番。この廊下まで来たらさすがにおれでもスタジオの場所くらいはわかる。
「さーて行くぞ!今日はこの前のステップができるようになったか見てやるからな〜?」
「の、望むところです!私の成長っぷりに驚かないでくださいね?」
「ははっ期待してるぞ〜ひよっこ騎士!」
「誰がひよっこですか!!あ、Leader!そちらではありません!スタジオは反対です!」
「あれ?そうだっけ??」
 結局また手を引かれる羽目になりながら、ようやくスタジオへの正規ルートを歩きだす。
 さあこれからどうしてやろうか。他人にこんな気持ちを抱くこと自体、初めてだからどうやって振り向かせるかは未知数だけれど、それもまた妄想のしがいがあって面白い。欲しいものは、やっぱり手に入れたいしな?おれだって男の子だから!
 変ににこにこと機嫌がよかったらしいおれを見て「チョ〜うざぁい」とセナから言われたって気にしない!だってこのラブソングはまだ序章に過ぎないんだからな!

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