自覚をしている恋心
ラギー先輩、ラギー先輩!くるくると俺の周りを跳ね回るミコトという後輩は、自分なんかのどこをそんなに気に入ったのか姿を見つける度に満面の笑顔で駆け寄ってくる。鬱陶しいかと言われれば、始めこそそうであったけれども慣れてくれば可愛らしいもので。
「なんスか〜、食いもんなんて今持ってないッスよ〜」
「食べ物目当てじゃないですよ!」
「あ、じゃあマドルか…」
「ぶっぶー、強いていうならばラギー先輩狙いです」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、俺の両肩を掴んで座らせ流れるままに頭をわしゃわしゃと撫で回す。
一度許してからというもの、隙を見ては人の頭を満足するまで撫でくりまわしていく通り魔的存在なのであった。
が、まぁこの学園、とくにうちの寮には厳つくてむさい男たちしかいないものだから、こんなちっこい子犬みたいな存在と戯れるのは新鮮で面白くもあったりして。
「はぁ、ラギー先輩の耳フワフワでとっても気持ち良い」
「人の耳をなんだと思ってるんスか、金取るッスよ〜」
「うちにも昔居たんですよね、ポメラニアン。その子のこと思い出しちゃいます」
人の抵抗なんてなんのその、後ろから頭を抱きかかえるようにして触ってくるのは良いんだけど、ちょっと油断し過ぎだと思うのは俺だけなんスかね〜
何がとは言わないけど、当たってるんだよなぁ。バレるわけないとでも思ってるのか、なんなのか。
「はい、じゃあもう俺寮に戻るんで離してもらってもいいッスか〜?」
「僕も遊びに行ってもいいですか?今グリムもエースたちも罰掃除中なので暇してて……。あ、お忙しければ大丈夫なんですけど」
「別に構わないッスよ、てかまた何かやらかしたんスね。懲りないことで」
「本当に頭痛くなります」
呆れたように笑うミコトに袖を引かれて歩みを進める。けど、なんかあれだ、これは散歩されてるみたいで嫌だな。
「こっちが近道ッスよ」と、手を引いて、今度は自分がミコトの手を掴み前を歩くと「ラギー先輩は本当に何でも知ってますね!凄いなぁ」と、満面の笑みを向けてくる。
別に全然全く近道などではないのだが、まぁこれもご愛嬌ということで。
「この近道のこと、誰にも言わないで下さいよ〜」
「秘密ですね!もちろんです!」
さて、なんでこの子が男装なんてしているのか。……は、まぁ異世界から迷い込んできた先が男子校だったから仕方なくそうしているのであろうことは想像出来る。
それはまぁそういう事情だから良いのだけれど、問題なのはこの子が全く危機感を持っていないことなのである。
まだ気付いてるのは俺と、多分言わないけどレオナさんもだろうなぁ。あとこれは勘だけど、なんとなくジェイド君あたりも怪しいと思う。よく絡んでるし。
今はほんの少人数だから平和に過ごしているけれど、男子校の中で女の子が一人混ざってるなんてバレでもしたらゲスな事を考えるやつもいるかもしれない。
そんな心配をする俺を他所に、当の本人はどこ吹く風といった様子でお気楽に過ごしているのだから先が思いやられる。
「ミコトくんは女の子みたいな顔してるッスよね〜」
「えっ、なんですか藪から棒に」
「いやいや、いつも可愛いらしい顔してるなぁって思ってたんで」
「やだなぁ、僕男ですよ〜」
「本当ッスかー?」
あははとわざとらしい笑顔を浮かべてから、不自然に顔を背ける。表情こそ見えなかったものの、耳朶がほんのり紅く染まっているのを見逃す俺じゃない。
こんな反応されたらさ、普通にちょっかいかけ倒したくなるってもんじゃないッスか?
「まつ毛も女の子みたいに長いし」
「いやいやいや、そんなことないですよ普通の男ですよ」
「こんなに肌も柔らかいし、甘い匂いもするっていうのに?」
「も、もしそうだとしてもエペル君だって似たような感じじゃないでしょうか?!」
ふわふわの肌だなぁと、無意識のうちに掴んだ手をすりすりと指の腹でさすっていた。あ、俺ってばすげー変態っぽいぞ。
ミコトを見ると顔を真っ赤にしてもの凄く困った顔をしている。いけない、これはちょっとやり過ぎた。
「ま、確かにそうッスよね〜。アンタももし魔法が使えたならポムフィオーレだったかもしれないッスね」
「恐縮です……」
「シシシッ!ま、いずれにせよアンタ可愛い顔してるんだから気を付けるんスよ、色々と」
「え?あ、はい。ありがとうございます?」
とりあえず、本来の目的であったはずの忠告をほんのりとしておく。危ない危ない、ついうっかりと入り込んでしまった。
先程のテンションはどこへ行ってしまったのか、急にそわそわと口数の減ったミコトと手を繋ぎ、サバナクローの寮へと戻る。
「そういえば、昨日バナナケーキ作ったんスよ。結構いい出来で、レオナさんもすげー食べてて!」
「バナナケーキ!僕も食べたいです…!」
「シシシッ、じゃあそこに座ってて下さいッス」
ケーキという単語に釣られてパッと笑顔になるミコトは、なんというか単純で思わず笑ってしまう。
だからまぁ、そんな放っておけないこの子を何となく気にしてしまうのは自分の性格上、仕方のないことなのである。
「お待たせッス〜」
「わぁ美味しそう!!ありがとうございますラギー先輩!」
無意識なのであろうけれど、ここへ遊びに来た時に誰かさんを探そうとする瞳が俺を捉えていないことは知っているけれど。
アンタの笑った顔がいいなと思うから、やっぱり世話を焼かずにはいられないんスよね、そのうちこっちを向かせてやればいいだけなんだからさ。
END
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