※現パロ


「今朝、君に殺される夢を見たよ」

 私の言葉に、目の前の男、長義は少しだけ余裕が崩れたように眉を動かした。

「……夢の話だろう、俺を責められても困るんだが」
「責めてはないよ、興味深い夢だったから、長義にも共有してあげようと思って」
「まさか、その話をするためだけに俺を飲みに誘ったわけじゃないだろうね」
「あはは」

 図星を突かれた私は、白々しく笑った。長義は呆れつつも、どこか諦めた様子で「まぁいいさ」と話を流した。そして、そのままヤケのように酒の入ったグラスを煽っていた。
 長義との関係は、所謂幼なじみというやつで、家も近かった私たちは小学校から今に至るまで一度も疎遠になったことがない。それこそ、こんなくだらない話題のために呼び出すくらいには、現在もその仲は良好なものだと私は思っている。

「それで、君はどうやって俺に殺されたのかな?」

 ことり、と中身の少なくなったグラスが机に置かれる。これが夢の話であることを知らない人が聞けば驚くだろうが、この騒がしい居酒屋では私たちの話に聞き耳を立てる物好きなどはいなさそうだ。そうだなぁ、と私は今朝見た夢の内容を改めて思い出す。

「心臓を刀で一突き、なんだか槍のような刺し方だったよ」
「……一撃、か。それなら慈悲がある」

 長義はそう言ったが、実際は刺されてすぐに目が覚めたので、それが一撃だったのかどうかは分からない。だけど、もし仮に、彼の言う通りだったとして、一つ疑問に思うことがあった。

「君に慈悲があったということは、夢の中でも私たちの関係は良好だったことになる」

 私は探偵にでもなった気分で話を進める。だが、この事件は夢の中で起こったこと。迷宮入りは目に見えていた。それでも、長義は黙って私の話を聞いてくれた。いつもの彼なら、呆れてため息の一つでも贈っていることだろうに、今日はやけに静かなのが少し気になった。

「君はどうして、私を殺したんだろうね」

 訊ねてみたものの、夢の中の彼と、いま目の前にいる長義は違うのだ。分かるはずないと踏んでいたその質問に、彼は何かを堪えるようにぐっと表情を変えた。

「──君が、俺に殺せと言ったんだろう!」

 はじめて彼の怒号ともいえる大声を聞き、面を食らった私はぽかんと口を開けたまま固まった。呆けているわけではなく、ただ驚いていた。彼の深い藍色の双眸からは、はらはらと音もなく涙が零れ落ちていたのだ。彼の発した大声に、周囲の客の視線が一瞬私たちへと集まったが、彼の様子を見ると皆一様に目を逸らしていった。恐らく酔っ払いの類だと思われたのだろう。一体、どうしたんだとグラスの中身を覗くと、グラスはもう殆ど空になっていて、私は彼が酔っているのだと推測した。元々酒には弱い方ではあったが、にしても今日は一段とひどい。彼は私が驚いているのを見ると、ハッとしたように口を閉ざした。

「……夢の話だよ」
「わかっている、少し黙っていてくれ」

 強がるような言葉とは裏腹に、彼の瞳から溢れていく涙は依然止まる気配はない。
 私は何も言えず、ただその様子を見つめることしかできなかった。そんな中で、ふと思い出したことがある。

 そういえば、夢の中の彼もこんなふうに泣いていたのだ。
磔刑の記憶