※ホラーちっくな話
「夢の話をしてもいいか」
執務室にやって来た鶴丸は、空いた座布団の上にどかりと腰を下ろすと、仕事に追われる私の姿などまるで見えていないように、そんなことを言ってきた。ここに長谷部がいたら、業務妨害だのなんだのと言って、容赦なく彼を部屋の外へと追い出してしまうのだろうが、当人は休憩のため先ほどお茶を淹れに席を立ったばかりだ。鶴丸も、そのタイミングを見計らってこの部屋に来たのだろう。前置きではそれほど重要な話とは思えないが、私は、鶴丸がこうして夢の話をしに来るとき、それは大抵ろくなものではないことを理解していた。
鶴丸が最初にした夢の話は、薬研が出陣先で重傷を負ったというものだった。その日はちょうど薬研に出陣の予定が入っており、なんて縁起の悪い夢を見ているんだと小突く私を、鶴丸はたかが夢の話だと笑った。そして帰還した部隊が重傷の薬研を連れ帰ってきた時、私と鶴丸はお互いに顔を合わせて驚いたものだ。こういったことを何度か繰り返し、3度目でようやく鶴丸の見ている夢が正夢であることを理解した。
それが発覚してから、鶴丸は夢で見たことを私に話すようになった。最初は必ずと言っていいほど当たっていたが、徐々に五分五分という確率まで落ちて、やがてその殆どが外れるようになった。そのせいか、最近では鶴丸の夢の話は全く聞かなくなっていたのだが、今回わざわざ話しにやって来たということは、少し深刻な内容なのかもしれない。
「いいけど、久しぶりだね、それ」
「あぁ、……本当は、こんな話を君にするべきでないと思っているんだが、こんな荒唐無稽な話、君しか信じないだろうしな」
「そうだね」
私も鶴丸も、それが本来有り得ないものであることを理解していた。だから、この秘密の共有者はお互い以外にはいなかった。
それで、どういう夢を見たのかと改めて尋ねれば、鶴丸は珍しく真面目な顔で、こんなことを言った。
「君の死体を受け取る夢を見たんだ」
「……それは、確かに私にするべきではないね」
「だろう?」
はぁ、とため息をついて肩を竦める鶴丸の姿に、なんとなく申し訳ない気持ちになる。私が関与できる問題でもなければ、本来、私がそんな気持ちを抱くことすらおかしいのだろうけど。
「どういった経由で君が死んだのかは明瞭ではないが、死体を見るに外傷による死因であることに間違いはなさそうだ。その後、政府の役人が君の死体を受け取りにきて、さっさとどこかに行ってな、取り残された俺たちは主がいなくなった本丸の後片付けを言い渡され、それで俺は君の部屋を片付けていた」
「鶴丸が?」
「あぁ。にしても、君、部屋は綺麗だが引き出しの中は最悪なんだな。書類をなんでも引き出しに入れると引き出しが開かなくなるから、日頃から整理する習慣をつけた方がいいぜ」
「ほ、ほっといてよ!それに、まだそこまでではないし……」
「まだ、なぁ。夢の中の俺はそれせいで指を切ったわけだが、それはいいさ」
私以外知らないはずの引き出しの実態を言い当てられ、少しだけ背筋が凍った。こういうのを聞くと、鶴丸の見ている夢がただの夢ではないことを思い知らされる。
思わず暗い顔になった私を見て、鶴丸は励ますように笑った。
「といっても、最近の俺の夢はあてにならないしな、外れる可能性だって大いにあるんだ、そう神経質にならず、気にかけるくらいでいいさ」
「……そうだよね、教えてくれてありがとう」
鶴丸のその言葉でなんとか気を持ち直すと、再び机と向き合う。……そういえば、机の引き出しに押し込んだ書類は今どれだけ溜まっているのだろうか。そんな考えがふと頭に過ったが、すぐに頭を振って思考を追い出した。
***
鶴丸は話が終わった後も暫く居座り、審神者と談笑をしていたが、長谷部が戻ってくると問答無用で部屋の外へと追い出された。首根っこを掴む手がいつもよりも乱暴だったことと、部屋を出る時に向けられた厳しい視線から、先ほどよりも主の元気が無くなっているのには気がついている様子だった。
悪いことをしたと思うが、だからといって黙っているわけにもいかなかった。
「やぁ、鶴さん。考え事かい?」
「ん?おお!光坊じゃないか」
行くあてもなく彷徨っていた鶴丸を呼び止めたのは光忠だった。彼が腕に抱えるカゴには、大量の野菜が入っている。
「畑当番か、精が出るな」
「いいや、これは夕餉で使う野菜だよ」
「……これ全部一人で切るのか?大変だな」
「歌仙くんと堀川くんも手伝ってはくれるけど、今回はちょっと多いかな」
貞ちゃんが頑張ってくれた証拠だけどね、と光忠が嬉しそうに付け加える。どうやら今日の畑当番は太鼓鐘貞宗が担当していたようだ。
「暇なら鶴さんにも手伝って欲しいんだけど」
「あー……そうだな、そうしたいのは山々なんだが」
いつもは二つ返事で了承する鶴丸が、今回は珍しく渋る様子を見せた。それに、どうしたのだろうかと光忠が鶴丸を観察したとき、指先に滲む微かな赤に目が向いた。
「鶴さん、指を切ってるじゃないか」
光忠がそう言うと、鶴丸は僅かに目を見開いた。それは小さな切り傷だったが、食材を切るには不得手だった。
「そうなんだよ、紙で、少しな」
「主に手入れしてもらったら?僕たちの傷は人間と違って自然に治ることはないんだから」
「あぁ、そうするさ。じゃあな光坊」
ひらりと、なにかを躱すように手を振ると、鶴丸は審神者の居る執務室とは反対の方へと歩いていった。
「夢の話をしてもいいか」
執務室にやって来た鶴丸は、空いた座布団の上にどかりと腰を下ろすと、仕事に追われる私の姿などまるで見えていないように、そんなことを言ってきた。ここに長谷部がいたら、業務妨害だのなんだのと言って、容赦なく彼を部屋の外へと追い出してしまうのだろうが、当人は休憩のため先ほどお茶を淹れに席を立ったばかりだ。鶴丸も、そのタイミングを見計らってこの部屋に来たのだろう。前置きではそれほど重要な話とは思えないが、私は、鶴丸がこうして夢の話をしに来るとき、それは大抵ろくなものではないことを理解していた。
鶴丸が最初にした夢の話は、薬研が出陣先で重傷を負ったというものだった。その日はちょうど薬研に出陣の予定が入っており、なんて縁起の悪い夢を見ているんだと小突く私を、鶴丸はたかが夢の話だと笑った。そして帰還した部隊が重傷の薬研を連れ帰ってきた時、私と鶴丸はお互いに顔を合わせて驚いたものだ。こういったことを何度か繰り返し、3度目でようやく鶴丸の見ている夢が正夢であることを理解した。
それが発覚してから、鶴丸は夢で見たことを私に話すようになった。最初は必ずと言っていいほど当たっていたが、徐々に五分五分という確率まで落ちて、やがてその殆どが外れるようになった。そのせいか、最近では鶴丸の夢の話は全く聞かなくなっていたのだが、今回わざわざ話しにやって来たということは、少し深刻な内容なのかもしれない。
「いいけど、久しぶりだね、それ」
「あぁ、……本当は、こんな話を君にするべきでないと思っているんだが、こんな荒唐無稽な話、君しか信じないだろうしな」
「そうだね」
私も鶴丸も、それが本来有り得ないものであることを理解していた。だから、この秘密の共有者はお互い以外にはいなかった。
それで、どういう夢を見たのかと改めて尋ねれば、鶴丸は珍しく真面目な顔で、こんなことを言った。
「君の死体を受け取る夢を見たんだ」
「……それは、確かに私にするべきではないね」
「だろう?」
はぁ、とため息をついて肩を竦める鶴丸の姿に、なんとなく申し訳ない気持ちになる。私が関与できる問題でもなければ、本来、私がそんな気持ちを抱くことすらおかしいのだろうけど。
「どういった経由で君が死んだのかは明瞭ではないが、死体を見るに外傷による死因であることに間違いはなさそうだ。その後、政府の役人が君の死体を受け取りにきて、さっさとどこかに行ってな、取り残された俺たちは主がいなくなった本丸の後片付けを言い渡され、それで俺は君の部屋を片付けていた」
「鶴丸が?」
「あぁ。にしても、君、部屋は綺麗だが引き出しの中は最悪なんだな。書類をなんでも引き出しに入れると引き出しが開かなくなるから、日頃から整理する習慣をつけた方がいいぜ」
「ほ、ほっといてよ!それに、まだそこまでではないし……」
「まだ、なぁ。夢の中の俺はそれせいで指を切ったわけだが、それはいいさ」
私以外知らないはずの引き出しの実態を言い当てられ、少しだけ背筋が凍った。こういうのを聞くと、鶴丸の見ている夢がただの夢ではないことを思い知らされる。
思わず暗い顔になった私を見て、鶴丸は励ますように笑った。
「といっても、最近の俺の夢はあてにならないしな、外れる可能性だって大いにあるんだ、そう神経質にならず、気にかけるくらいでいいさ」
「……そうだよね、教えてくれてありがとう」
鶴丸のその言葉でなんとか気を持ち直すと、再び机と向き合う。……そういえば、机の引き出しに押し込んだ書類は今どれだけ溜まっているのだろうか。そんな考えがふと頭に過ったが、すぐに頭を振って思考を追い出した。
鶴丸は話が終わった後も暫く居座り、審神者と談笑をしていたが、長谷部が戻ってくると問答無用で部屋の外へと追い出された。首根っこを掴む手がいつもよりも乱暴だったことと、部屋を出る時に向けられた厳しい視線から、先ほどよりも主の元気が無くなっているのには気がついている様子だった。
悪いことをしたと思うが、だからといって黙っているわけにもいかなかった。
「やぁ、鶴さん。考え事かい?」
「ん?おお!光坊じゃないか」
行くあてもなく彷徨っていた鶴丸を呼び止めたのは光忠だった。彼が腕に抱えるカゴには、大量の野菜が入っている。
「畑当番か、精が出るな」
「いいや、これは夕餉で使う野菜だよ」
「……これ全部一人で切るのか?大変だな」
「歌仙くんと堀川くんも手伝ってはくれるけど、今回はちょっと多いかな」
貞ちゃんが頑張ってくれた証拠だけどね、と光忠が嬉しそうに付け加える。どうやら今日の畑当番は太鼓鐘貞宗が担当していたようだ。
「暇なら鶴さんにも手伝って欲しいんだけど」
「あー……そうだな、そうしたいのは山々なんだが」
いつもは二つ返事で了承する鶴丸が、今回は珍しく渋る様子を見せた。それに、どうしたのだろうかと光忠が鶴丸を観察したとき、指先に滲む微かな赤に目が向いた。
「鶴さん、指を切ってるじゃないか」
光忠がそう言うと、鶴丸は僅かに目を見開いた。それは小さな切り傷だったが、食材を切るには不得手だった。
「そうなんだよ、紙で、少しな」
「主に手入れしてもらったら?僕たちの傷は人間と違って自然に治ることはないんだから」
「あぁ、そうするさ。じゃあな光坊」
ひらりと、なにかを躱すように手を振ると、鶴丸は審神者の居る執務室とは反対の方へと歩いていった。
不眠