VIPの為に用意されたというような、煌びやかな装飾や高価な衣服が並ぶ店内。

 あまりにも似合わない。店の雰囲気も、ブランド物のコートを羽織る隣の男も、私にはとても似つかわしくない。
 知り合いの結婚式に出席するための服を探しにきただけなのに、どうしてこんな所に連れてこられたのか……。溜息を吐く私の存在など御構い無しに、ここへ連れてきた張本人は悠長に私に着せる服を吟味していた。

「なまえちゃん、こっちとこっちなら、どちらがいい?」
「……なんでその二択なんですか」

 どちらも濃い色のシャンタンジャケットを手に、彼は問い掛けてくる。違いなんて、ボタンの色くらいだろう。それよりも、洒落たデザインは他にもある。例えば、そこのマネキンが着ている七分袖の物とか。

「七分袖だと、涙は拭えないね」

 ぴしゃりと、却下が言い渡される。その理由も、私の心情を見抜いたもので、気まずげに視線を逸らした。
 主席する結婚式の主役は、高校時代の初恋の人だ。彼の相手もまた見知った人物で、等の本人は「ブーケはなまえちゃんにあげるね」だなんて、何も知らない無垢な好意で微笑んでくる。その言葉に何度も毒を抜かれては、嫉妬心もみるみる萎んでいくのだ。
 二人は、依然と変わらぬ温度で、私を迎えてくれる。だからこそ、余計に私が報われなかった。

「なまえちゃんは、自己表現が謙虚だからね、他人が気付かないのも無理ないね」
「……貴方は気付いてるのに?」
「どうして不満そうなんだい?」

 私の好意は、きっと私以外誰も知るはずないと思っていた。そんな質問に、日和さんは答える義理はないというように、上着の下に着るワンピースを選んでいる。私の服なのに、一切相談なしときた。深い意味を考える自分が馬鹿馬鹿しくなってきて、届かないと分かった上で溜息を吐いた。

「そういえば彼女、ブーケはなまえちゃんに渡すと言っていたけど、予定はあるの?」
「予定があれば、こうして日和さんとドレスを選んでません」
「生意気だね!もし仮に相手が居たとしてもぼくを優先するべきだと思うね!」

 なんと傲慢な男なのだろうか。嫌われると面倒な相手なので、好かれることに越したことはないのだろうけど。
 因みに、この店はウェディングドレスも売っているんだよ。だなんて、予定がないと知った上で教えられたって嫌味にしか聞こえない。

「どう?観るだけならタダだよ」

 そう言って、店内の奥を指差す彼。その申し出に迷うように視線を彷徨わせた後、私はゆっくりと首を振った。

「羨ましくなっちゃうから、いいです」

 断りを入れて、彼が選んだエメラルドグリーンのドレス・ワンピースを受け取った。日和さんは私の言葉に、考えるように顎に手を添えた。

「憧れはあるんだね」

 そういう意味で言ったわけではないけど、まぁいいかと適当に相槌を打つ。
 これでこの話はお終いのように思われたが、次に発せられた言葉はその続きであり、それは、私の度胆を抜くには十分過ぎる内容であった。

「ぼくが、着せてあげようか」

 驚きから、二度、三度と目を瞬かせる。
 言ってほしい相手とは違うものの、普段見ることができない真剣な表情で言われてしまえば、意識せずとも羞恥が顔色として滲み出てしまう。

「ブーケを受け取ったら、真っ先にぼくのところに来るといいね」
「……本気ですか?」
「本気だよ。気付いていなかったのは君だけだね」

 恥じた様子もなく涼しげに笑う彼。
 彼がこうしてドレスを選んでくれる理由も、私の想いに気付けたのも、随分と簡単な理由だったのだ。

「それで、どうする?」

 そう言って、彼はもう一度、ウェディングドレスが並ぶ一角を指差した。そんな顔をされては、断れるわけがない。観念して頷けば、待ってましたと云わんばかりに手を引かれる。

 輝かしい純白が並ぶ風景、先程よりも意気揚々とドレスを下見する彼に、まだ応えてもいないのにと、思わず苦笑を浮かべた。

 この様子だと、折角選んだドレス・ワンピースは早々に用済みとなってしまうかもしれない。
 外れる気のしない予想を立てては、私は密かに微笑んだ。
憧憬色