面接試験と親心

 バイトの面接当日。訪れたのは、まさかの雷門中学校に併設された合宿施設であった。

「お灸を据える、ってさぁ……」

 あたしの隣には響さん。目の前にはハンサムな、顎髭が素敵なナイスガイ。ナイスガイはじっとあたしを見据えている。

 ナイスガイもとい、FFI日本代表監督、久遠道也そのひとである。

「流石に日本代表の合宿とは思わないよね!?ふつう!」
「条件に食いついてきたのはお前さんだろうが」
「日本代表のお手伝いとか聞いてたら来なかったですぅ〜」
「だから言わなかったんだ」

 響さんの魂胆がようやく分かったのは今のこの場に来てからだった。流石のあたしも日本を背負ってる中学生クンたちの合宿場で適当な真似は出来ない。当然、不良的行為も無理だ。しかもいざとなれば響さんが直接見張りにこれる。嵌められた、嵌められた……!

「俺が手を焼いている不良娘だ。適当に見えるかも知れんが仕事はできる。こき使ってやってくれ」
「しかし響さん、」

 久遠さんは眉を顰め、訝しげな視線をあたしに送る。やっぱ不安ですよね。こんな不良娘に何が任せられるんだって感じだよね。その視線に、ここぞとばかりに便乗する。

「あたし無理です!荷が重い。それに、見ての通り褒められたような人間じゃないし、ほんとお金と住むとこが欲しかっただけなんで……!」
「……彼女はこう言っているようですが」
「手の掛かりそうな問題児は選手たちにもいる。そこは問題ない。寧ろ俺は、そういう奴らとの橋渡し役にコイツが役立つと思っている」
「と、言うと」

 久遠さんは手を組み顎を乗せ、話を聞く姿勢に入る。響さんはただ淡々と、いつものように話す。自分のこと話してるのに、口も出せず他人事みたく聞いているあたしは酷く滑稽だった。

「実力揃いの良いメンバーが揃った。だがチームとしてやっていくには余りにも確執が大き過ぎる。……重いものを抱えている子達もいる。サッカー選手の前にあの子達もただの中学生だ。理解者が必要だと俺は考える。コイツは、円堂ともまた違う視点から誰とでも平等な目線で向き合える奴だ」
「……なるほど」
「それに、さっきも言ったが俺もコイツに手を焼いててな。しかし今は俺もコイツを構ってやれる時間が少ない。だからアンタに託したいんだ。勿論、半端な仕事をしたら容赦なく突き返してくれて構わん。これは俺からの、頼みだ」

 そう言って響さんは久遠さんを真っ直ぐに見据えた。久遠さんは目を閉じ、その言葉を受け止め考えているようだ。けれどあたしはそれどころじゃなくて、響さんの言葉に引っかかって思わず不安げに響さんの顔を見上げた。

「響さん」
「なんだ」
「忙しく、なんの……?またどっか行くの?」

 この前だって、宇宙人?との戦いで暫くいっしょに居てくれなかったじゃない。じっ、と。不安から響さんの顔を見つめて固まってしまっていると安心させるかのように彼はニッと口角を上げた。

「なに。可能性の話だ。忙しくなるかも分からん。それに、俺直々に見てやりたい選手もいるんだ」
「……そう。そうなんだ。なら、いいけど」
「まぁこんな感じの奴でな。いい加減野放しにもして置けん。どうだ、久遠監督」

 暫く沈黙が続いたのち、久遠さんが口を開けた。

「分かりました。その話、お受けします。一指導者として名字さんを預からせていただきたい」

 そう聞くと響さんは「ありがとう」と久遠さんに頭を下げた。そのやり取りに、何だかむず痒い感覚を覚える。そわそわしてしまってチラリとまた響さんの顔を伺うと、今度はあたしと目を合わせてくれた。

「名前、出来るか? 今俺がお前に紹介できる一番いいバイトだ」
「……ん〜」
「ここにお前がいるのなら、俺も安心なんだがな」
「……、響さんは、あたしがこの仕事が適任だと思って、出来ると思って斡旋してくれたんだよね?」
「あぁ、そうだ」
「なら、やってもいいかなぁ。不安しかないけど〜」

 そこまで言うならしょうがないなぁ。内心、頼られたことが嬉しくて頬がだらしなく緩んでしまう。

「あたし、ここでマトモになれるかな」

 ポツリと零れた言葉に応えるように、くしゃりと頭に乗せられた響さんの手は暖かかった。