いつだって、ヒーローは求められる。手を伸ばしたら必ずその手を取ってくれると、信じられているから。
弱き者の味方で、社会を守る存在と願われる限り、ヒーローは常に人の興味の対象だ。
けれど、千歳はヒーローに興味がなかった。街中で出会っても、その姿に惹かれることはなかった。
ヒーローはただそこにあるからヒーローなのではない。ヒーローと、私たちが認識するから、ヒーローなんだと。
だから、彼女は──人の認識の枠外にあるものを知りたかった。
淡いオレンジ色の光が店内を照らす。鼻腔を抜けるのは香ばしい匂い。パチパチと炭が弾ける音と肉が焼ける音が静かな店内に響く。
カウンターと小さめの座敷が一つのみの店舗に座るのは自分と初老の男性だけ。繁華街から離れた場所にあるこの老舗焼き鳥屋に来るのは常連客以外なく、だからこそ一人酒を洒落込むには都合が良かった。仕事仲間に掴まったら、この辛気臭い顔を見られてしまう。
「あーもう…」
ため息を吐いて、地酒を一飲みする。「モモとネギマ追加で」とぶっきらぼうに言い放っても店主は嫌な顔ひとつすることなく、黙って頷くものだから本当に居心地が良かった。
鬱屈した気持ちは、あの日からずっと拭い去れないままだ。
「…ヒーローなんて」
口走った一言に、やるせなさが滲む。
──結局、千歳のルポは世に出ることはなかった。何があったかも言えず、記事を温めておく、なんて言い訳して数日後、ワイルドアームの引退が突如、事務所から発表された。
唐突な記者会見にテレビ局も各紙も殺到。当然、担当していた千歳も行かされたが、事務所の対応は塩そのもの。引退理由は「一身上の都合です」のみに留まり、それ以上の追及は不可能だった。
しかし、社内では千歳への追及の嵐で。「何か兆候は無かったのか」「不審な様子は」「プライベートも聞いたんだろ?」と四方から責め立てられた。取材不足の烙印を押され、局長にデスクの並河と頭を下げる始末。「災難だったねぇ」と他人事のように宣った上司に思わず蹴りを入れたくなった。
「私だって…私だってさぁ…」
無言で置かれたモモとネギマを直ぐにたいらげて、もう一杯胃に流し込む。空になった瓶にむくれて、「同じものお願いします」と頼むのはこれで三本目。人並み以上に飲めるため、これ幸いと翌日休みを利用して飲み明かすつもりだった。
「どーも、こんばんはー」
──はずなのに、何故、今自分の耳にホークスの声が聞こえたのだろう。
ガラリと引き戸が開いて、常の軽い声が店内に木霊する。ちらりと店主を見遣れば、さしもの彼も眼を瞠っていた。初老の客の方がどっしり構えているが、やはり視線はチラチラと引き戸へいっている。
最悪だ、勘弁してくれ。
「……あ、あのやっぱりさっきの注文」
「お、千崎さんじゃないですか。いやぁ、奇遇ですね!」
本当に勘弁してくれ。
ぐぎぎ、と首を回せば、ニコニコと気の良い笑みを浮かべるホークスが手を上げていた。オフなのか、Tシャツに緩めのパンツというラフな格好だ。
脱兎のごとくダッシュを決めたい衝動に駆られたが「先日ぶりです」と言われれば、今立ち上がって帰るわけにもいかない。さらに、隣に座られて逃げ道だって塞がれた。
「美味い焼き鳥屋探していろんなところに行ってるんですけど、此処は来たことなかったんですよね。いやぁ、千崎さんおられるなんてびっくりですよ」
「…それは、本当に…びっくりですねぇ、本当に」
嘘つけ、と言下に返したかったが、理性を保って笑顔を向ける。「皮とムネ、モモ、チーズ乗せを二つずつ」とメニューを見ながら注文するホークスに、千歳はひとつ嘆息すると声を顰めた。
「…別に、約束を反故にするつもりはありませんよ?」
見張らなくても、カメラのデータと録音記録をばら撒きはしない。週刊誌に売る胆力だってない。
しかしホークスはへらりと笑う。
「そういうので来たわけじゃないですよ。ほんと偶々ですから」
誰かこの男に、偶々、の意味を教えてやってくれ。
大方、不審な行動を取るかを期間を設けて監視するつもりなのだろう。
理解できないわけでも、納得できないわけでもないため、千歳は逃亡を諦めてホークスの飲みに付き合うことにした。
ホークスは大将に差し出された串に礼を言って、はぐっ、と熱々のまま口の中へ放り込む。肉汁が口いっぱいに広がったのだろう。眼を見開いた後、「うんまっ!」と顔をふにゃりと綻ばせた。
「…美味しいですか?」
「えぇ、とっても!」
満面の笑みを向けられたら悪い気はしない。そうだろう、此処の大将の串は他には負けない絶品なのだ。肉の大きさ、炭火の焼き加減、秘伝のタレ、全てが絡み合って絶妙な味になっている。素材の良さを殺さず、しかし店の味を出して。
(違う、そうじゃない)
絆されてどうする。千歳はぶんぶんと首を振った。笑顔は武器だというのはこちらだって重々、理解しているだろう。
とはいえ、お気に入りの店の串を楽しみ、グイグイと酒を飲むホークスの食べっぷりと飲みっぷりは、やはり気持ち良いものがあった。
状況に翻弄されても仕方ないと、千歳もまた酒に手をつける。
「千崎さん、それ何本目です?」
「え…と、三本目です」
「へぇ…強いんすね。女性でそんなにグイグイ飲む人あんまり見ないんで」
ぱちりと目を瞬かせたホークスに、千歳は小首を傾げた。
「そうですか? 私の職場、割と女性の方が酒豪ですよ。連日、飲み歩いている人もいますし」
むしろ、自分はまだ弱い方だ。中堅、ベテランの女性の先輩と飲みに行くと、辺りのおっさんより遥かに飲むのに酔い加減はその半分、なんてザラで。尊敬の眼差しを向けると「慣れよ、慣れ」とニッと歯を見せて笑う、頼もしい人たちだ。
「私は、ほどほどにしか飲みませんから」
「えー…たまには羽目外して飲みたくありません?」
「それはまぁ、そうですけどね。酔ってお喋りになっても面倒ですし」
酔いに呑まれてペラペラと。案外多いのだ、そういう人間は。
「俺は千崎さんとお喋りしたいですけどね、いろいろと」
「…はぁ」
「あ、今絶対に警戒したでしょ」
「いえ、仰る意味が分からないだけです」
「つれない!」
やたらと話しかけてくるホークスに警戒心は薄れない。
この人は、同じタイプだ。
相手に合わせて、反応を伺いながら立ち回る。笑顔は武器で、よく回る口は商売道具。
気を抜いたら何を話してしまうか分からない。特に、酒の席なら尚更。
「実はね、ちょっと千崎さんに興味が湧いたんですよ」
それでも、ホークスはグイグイと攻めてくる。千歳の警戒を知ってかしらずか、こてんと頬杖をついて彼女を見つめた。「興味?」と訝しげに眉を上げれば、「ええ」と、彼の口角がにんまりと上がる。
「千崎さんの個性、おもしろいなぁと思って」
「…おもしろい…ですか」
おうむ返しになったのは、やはり意図を図りかねるからだ。
自分がヴィランから逃げる時に個性を見られていたのか、登録されている情報を閲覧されたのかは定かではない。ただ、それを見て何がおもしろかったのか。
「結構使い勝手良いし、個性を伸ばせばプロヒーローとしてかなり活躍できるものだと思うんですけど、ヒーローになろうとは思わなかったんです?」
どうやら、ごく普通に疑問に思っただけならしい。お猪口に一杯注がれ、新たな串も勧められたため、ひとつ口に含んで喉も潤す。
質問に対して、千歳は在りし日の思い出を追想し、苦笑した。
「…中学生の時、担任の先生にも言われました。貴女の個性はヒーロー向きだから、目指してみたら、て」
世の中の八割は個性持ちで、ヒーローは子どもが憧れる職業第一位だが、向き不向きがある。
その中でも、確かに自分の個性は使い方次第でかなり有用になることは、分かっていた。
「大概、みんな憧れは持ってるんですよね。だから先生に言われた子は、みんなヒーロー科のある高校に行きましたけど、私はどうもしっくりこなくて」
テレビの向こうで活躍するようなプロヒーローに自分もなれるかもしれない。憧れが現実になるかもしれないと、多くの子どもは夢膨らませた。
けれど、担任に言われた言葉は千歳にとって、どうだって良かったのだ。
「昔から、ヒーローに対して憧れがなかったんです。だから、行きたいとも思わなかった」
「…憧れがない、ですか。今時の子としては珍しかったんですね」
穏やかなホークスの声音に、くすりと笑う。注がれた何杯目かの日本酒をぼんやりと見つめた。
「…映画みたい、て言ったの覚えてますか?」
「えぇ」
ワイルドアームの名前を出さないホークスの言外の意図も読み取って、千歳は笑った。
「あれ、別にあの人のことだけじゃなかったんです。昔から、ヒーローのことをそんなに身近に感じてなんかいなくて、テレビの向こう側の、自分とは関係ない人たちだと思ってたんです」
いつだって、ヒーローは遠い存在。オールマイトもエンデヴァーもその他大勢のヒーローもみんな、虚構なのだ。現実にそこにいて、守ってくれるという実感が湧かない。人気投票上位のヒーローたちの挨拶だって、政治家の就任会見と大差なかった。
「テレビの向こう側…なんか、少し分かる気もします」
ぽつりと、吐露したホークスの声音が少しだけ侘しげで。視線を向ければ──
「…ホークスさん?」
ちょっとだけ、薄らと目を細めた彼の横顔が──
──ひどく哀しく見えた。
なんだか言っては駄目なことをペラペラと話した気がして、思わず目の前のお猪口を一気に口に含む。くらりくらりと、いよいよ正常な思考が出来なくなる感覚が全身を支配して、千歳の意識が揺らめいた。
「ひとつ、いいですか」
やけに神妙なホークスの声が耳に届いて、酩酊感を抑えて彼を見れば。
「千崎さんにとって、ヒーローって何ですか」
くらくらは頂点に達している。
真っ直ぐ見据えた瞳に、千歳は俯いた。
「私にとって、ヒーローは──」
*
仲良くお喋りを長々とするつもりはなかった。酒を酌み交わしながら、諸々、牽制する程度にしとこうと思ったのに。
左隣から聞こえる規則正しい寝息に、ホークスは眉尻を下げる。肩に掛かる体重がズレ落ちそうになったので、思わず剛翼で躰を支えた。
「──ずいぶんと呑んだねぇ」
自分の心を見透かすような大将の言葉にどきりと心臓が脈打つ。顔を上げたが、大将は視線を合わさずに炭の様子を見ていた。
「すんません。いきなりお邪魔して」
「客が邪魔しなけりゃ、誰がウチを使ってくれるんだよ」
ぶっきらぼうな声に、ホークスの頬が思わず緩む。不必要に客にへりくだりもしないが無碍にもしない、心意気の良い大将だ。
仏頂面を貼り付けた彼は、視線をゆらりとホークスへ向け、スライドさせた。
「…珍しいよ、この子が寝るまで呑むなんて。新人で連れてこられた時以来か」
若干、柔らかみを帯びた声音に人の良さを感じさせる。娘ほどの歳の彼女のことを随分と気にかけているようだ。
「千崎さんのこと、よくご存知なんですか?」
「たいして知らねぇよ。ただ、オレもこの子もここ出身じゃねえから、ちぃとばかし同調意識があっただけだ」
ここじゃない、との言葉に首を傾げたホークスに「オレもその子も、愛知に親がいるんだよ」と大将は肩を竦める。
日日新聞は全国紙だ。転勤は大概、三、四年に一度。地方記者として一生を過ごす社員もいれば、中央に昇進してデスクとなる記者もいる世界と聞く。
「悩んだり、行き詰まるとよくここに来る。溜め込むタイプなんだろうよ。もうちょい、楽しい気分の時に来て欲しいもんだがね」
「…そう、ですか」
見知らぬ土地で一人で暮らしている上にあんなことに巻き込まれて、それでも口外せずに抱え込んでいる。何が彼女にそうさせるのかといえば、自分や公安の要請もあるが、それ以上に──
「責任感が強いんでしょうね、千崎さんは」
自負や矜持とは違う。自分ごととして物事を捉え、影響を加味する。その責任感故に溜め込んでいることは推察できた。
(…厄介なことに巻き込んだな)
横顔にかかる髪を払って、スヤスヤと眠る相貌に目を細める。
面白い記者だと思った。ヒーローの活躍を"映画みたい"と評して、華やかな光景に呑まれない姿には感心した。かつて自分も、ヒーローはテレビの向こう側だと感じていたが、それとはまた違う。否、それより寧ろある種、冷めた目だった。
しかし、淡々と事象を捉えていた彼女は、きっと、思ったより情感豊かだ。報道者としての矜持と責任の狭間で揺れ動く、ごく普通の人間なのだろう。
「何があったか知らねぇが、よろしく頼むよ。プロヒーローさんよ」
柔らかな物言いだが、芯のある声音に彼の心が見える。何かあったら許さねえぞと、語る背中にしかし頷くこともできず「送ってきます」とだけ返して、ホークスは彼女を抱えて店を出た。
夜風にあたり、彼女を抱えて滑空するのは二度目だ。普段の人命救助は剛翼で躰を持ち上げるが、さすがに眠っている相手にやることではない。
自宅は公安お得意の捜査で特定済み。着いたら…申し訳ないが鞄から鍵を抜き取らせてもらおう。
すやりすやりと眠りに落ちて、ホークスの腕の中で静かな寝息を立てる彼女に、彼はひとりごつ。
「…貴女にとってのヒーローは、何なんですかね」
結局、聞けずじまいになった彼女の言葉の続きに思いを馳せて、彼の翼は夜のしじまを抜けた。
*
たとえば、朝目が覚めたらテレビでしか観たことのない有名人が隣で寝てたら、どうするか。
決まっている、これは夢だと思ってまた目を閉じる。
「…あ、おはよーございます」
けれど、目を閉じていた筈のその人の目が開いて、自分を認識して話しかけてきたらそうもいかない。これは夢だと思っても、くるりと視線を走らせれば自分の部屋で。
「っ、なっ、え…あ、え」
「いやぁ。熱烈ですねぇ、千崎さん」
「へ、私…昨日、え」
「まさかあんなに求められるとは思ってなかったです」
「っ!!」
にこりと、頬杖をついて笑顔を向けるホークスは昨日と同じ服。対して自分も、全く同じ服。そして、同じベッドで同じ空間で、至近距離どころのレベルじゃない状況。
私は、いったい何を。
考える前に体が動いた。
「──っ、た、大変申し訳ありませんでしたぁああ!!」
朝っぱらから平身低頭する経験を、千歳は初めて味わった。
「──いやびっくりですよ。部屋に入るまでぐっすりだったのに、ベッドに躰を置いた瞬間、引きずり込まれて離してくれないなんて、少女漫画の世界かと」
「ほんと…本当にすみません、本当に、本当に…」
木製のローテーブルの上には、コーヒーが注がれたマグカップとこんがり焼けたパンにバター、ゆで卵とウインナーなど一人暮らしにしてはちょっとばかし豪勢な朝食が並んだ。「なんだかすみませんね」と、若干しっとりとした髪のまま、ホークスは席に着く。
土下座の謝罪の後、気にしなくていいと笑うホークスに、せめて朝食とか、シャワーでも、とか、普通に考えたらそうじゃないだろうと一蹴するような詫びを入れたのが一時間前。泣き出しそうな千歳にホークスは考える素振りを見せると「なら先に千崎さんがどうぞ」と何故か提案されたため、速攻でシャワーを浴び、髪を乾かし、朝食を用意し現在に至る。
いや何してんの私。
落ち着いたところで冷静になっても後の祭り。「いただきます」と手を合わせ、豪快にパンに齧り付くホークスを見たら、なんだかどうでも良くなってしまった。
「…なんか、本当にすみません。記憶が飛んでて…」
「記憶飛んでなくてアレやったとしたら、魔性の女過ぎて逆に尊敬しますよ」
「ははー…そんな胆力はないですねぇ」
男性経験なんて片手で数えるほどもない。恋人がいたことはあるが、良好な関係を築けていたかと言えば微妙だ。恋愛に精を出すほど、自分は人に執着しない性格だとは自覚している。
「ハニートラップ仕掛けるにしても、ホークスさんはのらりくらりかわしそうですよね」
「えー、俺割と惚れっぽいですよ」
「いやいや、絶対嘘ですね」
惚れっぽいの意味を辞書で調べてこい。
他愛のない会話をしながら朝食を食べ終えると、ホークスが洗い物もすると言い出したため丁重に断る。「ホークスさん、お仕事は…」と聞けば二連休をとっていたらしく「だから洗い物する時間くらいありますよ」と台所に立たれてしまい、結局、二人で皿洗いをすることになった。
(…こう見ると、普通の人だよね)
ちらりと、横目でホークスを見遣る。
休日はいつもこんな感じで過ごしているのだろうか。朝起きて、ご飯を食べて洗い物をして、掃除をしたり、趣味に勤しんだりとごく普通の─自分たちと同じような生活を送っているのだろうか。
黙々と手際良く作業を進める彼を見つめながら、しかし千歳は先日の出来事を思い起こした。
宵闇の中から現れた剛翼がヴィランをあっさりと制圧し、翼を持つ彼はひどく、冷めた目で彼らを見下ろして。
ヒーローなのに、そこに見えたのは仄暗く、深い闇のような気がした。
「千崎さん、水」
「え…あ!」
いつの間にか洗い終わっていて、出しっぱなしの水をホークスに指摘されて慌てて止める。「すみません」と苦笑すれば、ホークスは「いえいえ」と爽やかな笑顔を向けてきて。
貼り付けたようなそれに、どこか落胆の気持ちが燻った。
「──それじゃ、お邪魔しました」
身支度をしたホークスに一礼され、千歳もまた深々頭を下げる。「こちらこそ、たいへん、たいへん、申し訳ありませんでした」と平身低頭の勢いで下げれば「もう良いですって」と返されたため、大人しく頭を上げた。
視線の先の彼は、へらりと笑みを絶やさない、いつも通りの、笑顔。誰にでも向ける、ヒーローホークスの笑顔があって。
ふとその相貌に、質問が口から溢れた。
「ホークスさんは…どうしてヒーローになろうと思ったんですか」
彼と出会い、短い期間ながらさまざまな顔を見て抱いた、疑問だった。
虚実入り混じる世界に身を投じて、仮面を付け替えての生活を彼はいつ受け入れたのだろう。
彼のヒーローとしての原点は、どこにあるのだろう。
帰りがけの人間に聞くには場違いで、けれど、胸に渦巻く疑問は抱いたままだと気持ちが悪かった。
底堅い声音と昏い瞳。暖かな色を一才排した、冷めた目を隠すような貼り付けた笑顔とは対照的な、自分達と同じように生活する顔に隔たりを感じる。
知りたい、と思った。
純粋に、興味が湧いた。
「…それは、記者としての質問ですか?」
くすりと笑んで、尋ねる彼に思案する。「どっちもです」と真顔で答えれば、彼はぱちりと瞬いて、そして吹き出した。
「千崎さん、ほんと大胆ですよね」
「こんな機会、滅多にないですから」
有名どころのヒーローと話す機会なんてそうない。気後れしていたら、チャンスは無くなってしまう。
じぃ、と見つめる千歳の瞳に、ホークスは暫く視線を逸らして思案する様子を見せる。
そして数秒考えた後、彼は、悪戯を思いついた子どものように、ニィ、と笑った。