序幕

世界は白に覆われていた。白銀が大粒に落ちる世界は何処までも伸びていて、先の景色など分からない。踏みしめても踏みしめても、直ぐに世界は塗り替えられる。
己がつけた足跡すら振り返る余裕もなく、少女は歩いた。
静謐な世界には、闇と光が混在している。白銀が闇夜を暴き出すおかげで、少女は歩みを進められた。
吐息が白く靄がかり、その熱が己の生を実感させてくれる。命を燃やしている。今己は、命を使っている。
寄る辺のない明日を、今を歩き続けることに意味などなかった。
少女はただ歩き続けていた。意味もなく、未来もなく、白の世界を歩き続けた。

ふと、少女の瞳に光が見えた。

闇夜に光るそれは淡く、暗闇に溶けそうな弱弱しい光にも関わらず、少女はその光に魅せられた。
白銀に覆われた世界、しんしんと降りしきる白に覆われてしまった己が身を溶かしてくれる、そんな微かな思いがぽっと胸に浮かんだ。
自然と少女の足は光へと向かった。己が歩んだ場所から塗り替えられる世界、銀世界は少女を隠すように広がっている。
一歩一歩、歩んだ先の光に少女は手を伸ばす。
伸ばした先、光の軒下から出てきたのは、ひどく色のない男だった。



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