「お。またナナシの勝ちじゃん」

”GAME SET”という文字が表示され、画面が変わる。そこには最前で勝利を喜ぶ黄色いモンスターと、それを後ろから祝うキャラクターたちが映し出された。

「これでナナシの五勝だね」
「つーか、お前俺にばっかアイテム狙い打ちしてんじゃねーよ」
「ルールの範囲ですが???」

 なにか?問題でも?と挑発するナナシ。その生意気な態度が気に入らなかった五条は、彼女の顔に手を伸ばすとためらいもなく頬を左右に思いきり引っ張りだす。

「痛い痛い痛いッ!!」
「今度はアイテム無しハイラルな」
「一番最初にそれやって惨敗しただろ」

 未だに頬から手を離さない五条に、可哀想だから離してあげな。と夏油が言うと意外にも素直にそれに従った。少し赤くなった頬を見て、溜飲が下がったようだ。

「それより、最下位だった奴がパシリだっけ?」
「私ココアがいいな。硝子は?」
「コーヒー。ブラック」
「私も同じの」
「硝子はゲーム参戦してねーじゃん」

 五条はグチグチと文句を言っていたが、自分が言い出しっぺということもあり最後には、仕方がないと言いながら部屋を出ていった。そしてそれに続くように今度は硝子が席を立つ。

「硝子?」
「電話きた。ちょっと出てくる」

 確かに硝子の手にある携帯のランプが、忙しなくチカチカ光っているのが見える。今は夜の十一時過ぎ。こんな時間帯に電話など、ある程度の目星はつくだろう。ナナシはにやける頬を誤魔化すように、ごゆっくり〜。と彼女の後ろ姿に声をかけた。

「硝子のあれ、この前言ってた大学生の彼氏だ!」
「ああ。前に話してたね」

 そういえば少し前にそんな話をしていたな。と記憶を掘り返す夏油に、お熱いねえ。とゆるゆる笑うナナシ。しばらく二人は帰って来ないだろう、とナナシが言うと、ならば今度は二人で再開していようと夏油が返した。

「ルール変えなくていい?」
「いいよ。ステージはランダムにしようか」
「いいねぇ」

 キャラクターの選択画面で、次は何を選ぼうかとカーソルを右往左往させる。対する夏油はとっくに選び終わったのか、悩んでいるナナシの顔を見て笑っていた。

「悟たちが帰ってきたら、今度は違うゲームでもしようか」
「何する?マリカー?桃鉄?」

 私もう99年はしたくないけど。と言うと、じゃあ桃鉄はやめておこうか。と過去のしんどい経験を思い出し、苦笑いが出る。あの時は、ゲームの終わりが全然見えずナナシに至っては後半、タスケテ、タスケテ......、とほぼ半泣き状態だった。

「でも最終で逆転してたよね」
「五条にボンビー擦り付けまくってやったからね」
「そういえば、あの時も誰がコンビニまで行くか賭けてて、悟が負けたんだっけ。.......どうだろう、今度は私たちで何か賭けないかい?」

 未だに選択画面で迷子のように彷徨っていたカーソルが止まる。一体何を企んでいるんだ、というような視線が夏油に刺さるが、構わず言葉を紡いだ。

「悟が居ると勝負にならないだろ?」
「五条負け前提なのウケるね。まあ、いいよ。じゃあ私が勝ったらどうしようかな〜」
「もう勝ったつもりかい」

 随分気が早いね。と挑発するように笑う夏油に、ナナシがついムッとした表情になる。実はこの同期たちの中で、一番勝ち星を挙げているのは意外にもナナシなのだ。夏油もそれなりに上手いが、正直なところ、ナナシには自分が負けるビジョンは全く浮かんでなどいない。

「夏油も結構な負けず嫌いだよね」
「まあね」
「じゃあベタだけど、負けた方が勝った方の言うこと聞くっていうのは?」

 やっとキャラクター選択が終わり、今度はステージ選択の画面に変わった。

「いいね」
「夏油が負けたら、今度の任務変わってよ」
「いいよ。じゃあ私が勝ったら......」

 先ほど言っていた通りステージはランダムにすると、ピンク色のファンシーなステージに決定された。夏油の話半分に、ゲーム開始のカウントに意識が向く。3、2、1、と始める寸前の時、

「私と付き合って」
「エッ」

 夏油の言葉に対して、つい出た間抜けな声と共に赤い帽子の少年が悲鳴を上げながら画面外に飛んでいった。

「あ、それ、そういう意味......?」 
「"そういう"が私と思っているものかわからないけど」

 トン、とお互いの腕が触れ合う距離にまで夏油が近づいて来る。

「私は"こういう"つもりだけど」

 吹っ飛んでいった帽子の少年が復活する。が、隣にある温度に動揺が隠せずに、帽子の少年はまた画面外へと落ちていく。

「ちょっと近くないですかね?!」
「そうかな?それより、」

 残りの残機一つだね。元々切れ長の目を更に細めて、嬉しそうに夏油は笑った。


▲▽


「うえーい、五条くんのお帰りで〜す」
「あれ、今度は二人でやってんの」
「二人が帰って来るまで暇だったから一戦やってた。次、違うゲームする?」
「マリパしようぜ。俺と傑、ナナシと硝子でタッグ戦な」
「硝子姐さんのヨッシー遣い舐めんなよ」
「また五条パシリにしちゃる」
「じゃあ俺マリオ。傑は?ルイージでいいだろ?」
「......ウン、イイヨ」

 次こそナナシに勝つ。と意気揚々にゲーム機に手を伸ばす。テレビ画面には、最前列で勝利を祝われている赤い帽子の少年が照れたように頭をかいていた。

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