hyacinth orchid
あんたはあたしよりも7つばかり年上でいつもあたしの先を行く。
あんたの後を追い掛けることがあたしの日常で幼いながらに感じていた生きる意味でもあったんだ。
あんたがこの小さな島を出た日、あたしは10になったばかりで17になったあんたに「行かないで、連れて行って」と駄々をこねたわ。
あんたが頑なにあたしを連れて行ってくれなかった事が今じゃ懐かしいくらいよ。
「バケモノがこの村から出たと聞くと村の存続に関わるんだぞ、この生き恥晒しめ!」
あたしやあんたをバケモノ扱いする村の偉い人や大人が嫌いだった。
あたしが出て行くとなるとそうだ。口を揃えて「村の存続」と言う。
あいつの時は止めもせず皆清々したと口々に言っていたのに。
後ろ指さされるあんたを見ていると悔しくてあたし、本当に死ぬ気で働いたわ。
見世物ショーも用心棒も何だってした。
あんたに会うためのお金を貯めたかったの。
「薄情者め、あの男がそんなに良いのか!」
隠していたお金、きっと40万ベリー前後。遂に見つかってあたしの髪を引っ張って大人達は声を荒らげた。
頬を腫れるまで打たれてもあたしは泣かなかったし大人達に反撃しようとは思わなかった。
あたしのお金が大人達の酒代になった事を後々知らされて、それが悔しくて悔しくて。
すっかり伸びきった爪が掌に突き刺さったあの痛みを今でも忘れない。
「こんなはずじゃ無かったの」と家族にも見捨てられてその日は牛舎で過ごしたわ。
でも、あたしは諦めなかった。
何年も何年もチャンスを狙っていた。
あたしの16歳の誕生日。23歳になったあんたは本当のワルになっていた。
「待ってて、今行く。」
何度も何度も見返した手配書の滲んだ文字はSir Crocodile.
あたしはその日、故郷を捨てた。
《シラン hyacinth orchid
お互いに忘れないように 変わらぬ愛》