裁定者 賽を投げ


砂漠に咲く私は嫋やかな毒草で、貴方は例えどんな闇の向こうへ行こうとも私の光で希望でしたわ。この世の中で一番醜い私をたった1人の人として扱ってくれた貴方も又、肚の中に化物を宿しておりました。
数奇な運命だとつくづく思うのです。

広大な大砂原が眼前に伏すこの里で、砂中にころころと混じる硝子のように鮮明で細やかな希望。それは極彩色で、原色で彩られた1つ1つの独創的な芸術作品に等しいものです。私はただそれが愛おしくて愛おしくて、《貴方を愛して生きねば》と童心ながらに私は胸に鋭利な硝子で"愛"を刻みました。

肌を割るような日差し、皮膚を剥がすような乾いた砂交じりの埃っぽい風。目に入る景色全てが憎らしくて憎らしくて仕方がありませんでした。私は彼をも忌むこの里全てが気に入らないのです。半身の中に潜む醜い憎悪がドクりと波打ち、渦潮のように中心から外心に掛けてぐにゃりぐにゃりと厭らしさが太陽を覆う次第でございます。



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かつての胸を裂く言霊は私の心臓目掛けてずぷりとめり込みました。


「失敗作め。」
ああ、もう言わないで、違うのです。私、私。

「他里に知られたらどうするのだ。」
ああ、ああ、一層の事私を殺めてください。醜い私を殺めてくださいませ。

「期待していたのだがな、お前には。だが、失敗作のお前よりもうんと優秀な化物が出来てしまった。」
ぐじゅり、ぐじゅり、どぷり。涙は出ませんでした。失敗作でも良いのです。『私』を見て欲しかっただけなのです。蟲が潜むこの痣だらけの半身も、蟲と結んだ命を蝕む契約も、それを含めて『私』という人間を愛して欲しかったのです。
私が望むものは私にとっては大きすぎるものでしたので、自分でも抱えきれない贅沢であると理解はしていたのですが。

目を瞑るといつだって幸せだった筈の家族の光景、仮想の友人、優しい里の人々と触れる夢を見ます。現実に返った瞬間ほど恐ろしいものはありません。

幸せな子で"幸子"だなんて嘘っぱちで、棒を1本取られてこの世で最も辛い仕打ちを受けております。痛い、痛いと喚いても誰も助けてくれません。男児を望んだ肉親も女として産み落とされた私を見放しました。

恐ろしく悍ましい術の生贄となり、化物となった私を恐れ慄き隔離した里。血縁を断ち切った一族。模倣とされた何処かの里の蟲を操る一族。
全てが全て不幸せになって仕舞えばいいのにとさえ願うのです。

ああ、私はやはり卑しい化物。けれど、けれどお願いですから、1度でも1度でも良いのです。
"幸"蚕 と呼んでくださいませ。

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