阪神共和国


 小狼が助けた少年は斉藤正義と名乗り、お礼がしたいと主張した。無論謙虚な小狼は「おれは何もしてない」と言ったが、彼の頭上に乗ったモコナが“おいしいとこ”での昼食を希望したので、一行は正義の案内でお好み焼き屋に入った。

 鉄板の上で香ばしく焼かれているお好み焼きを前に、話はまたファイが主導で展開される。私たちに関する質問はそれとなく受け流しながら、話は先ほどの“ナワバリ争い”について持って行く。



「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのーー?」



 金髪のファイを見て私たちを外国からの観光客だと思い込んでいる正義は、この国のいろはを知らないと踏んでわかりやすく簡単に説明をしてくれた。

 ナワバリ争いではチームを組んで自分たちの巧断の強さを競い、強いチームがナワバリ――場所の権利を得る。今回のこともあり街中では危険だという小狼やファイの指摘には、正義が鈍臭かったからだと主張するので、やはりこの国でナワバリ争いは見慣れた事なのだろう。チームによってはナワバリの治安維持に貢献している側面もあるというが、他チームとのバトルで建物への被害も見られるということで、警察からは目を付けられているようだ。

 正義はゴーグルのチームリーダー・笙悟の巧断が“特級”と称して憧れなのだと立ち上がって熱く語る。直後にはっとして座り、顔を赤くしている彼に、ファイはにこやかに「憧れのひとなんだねぇ」と傾聴の姿勢を取る。



「は、はい!……でも小狼君にも憧れます。特級の巧断が憑いてるなんて、すごいことだから」

「それ、何なんですか?」



 小狼の質問に対して、今度は正義が”巧断の等級”について説明をしてくれる。

 特級を一番上として次に一級、そして一番下の四級までの等級があり、この制度は昔に国によって廃止されたものだが、今も人々の間では一般的に使われているという。



「じゃああのリーダーの巧断ってすごい強いんだ――」

「はい。小狼君もそうです」



 正義の説明では、巧断は自分の心で操るものであり、特級の巧断は本当に心が強い者にしか憑かないという。彼は自分の巧断が一番下の四級であることを悲し気に呟いた。

 等級制度が廃止になった背景は幾つか予想がつくが、昨日私が出会った亀が巧断だとして、果たして自分の心に見合ったものだと一体誰が判断するのだろうと疑問が残る。私の巧断は確かに小狼のように戦う力が秀でているようには感じないが、だからといって劣っているとは思わない。正義の巧断もまた同じなのではないか。心で操るという話が真実ならば、扱う側の心の変化に応じて巧断も変わりゆくため、等級制度が廃れたという可能性もある。

 憂いる正義に掛ける言葉は数多浮かぶが、今話を聞いたばかりの私の言葉が彼に届くとは思えず、開いた口を噤む。



「でも一体いつ小狼君に巧断が憑いたんだろうねぇ」

「そういえば――昨日の夜、夢を見たんです」



「待った――!!!



 亀の存在が確信に変わった瞬間、身体が震える程大きな声が降ってきた。

 強かに膝をテーブルへ打ち付けた私を、目の前に座るファイが「大丈夫――?」と笑って聞いてくる。何とも言えず、とりあえず頷いて声の元を辿れば、若い男性店員がこちらのテーブルを険しい顔で見下ろしていた。後ろにいるもう一人の男性店員は柔和そうに微笑んでいるのが対照的である。



「王様!?と、神官様!?どうしてここに!?」



 彼らを見知っているらしい小狼が目を見開いてそう呼んだ。しかし、小狼の反応とは正反対に、店員たちは「誰かと間違ってませんか?」と困惑した態度である。

 どうやら王様と呼ばれた店員は、お好み焼きの面倒は店側で見てくれるという話をしに来てくれたらしかった。親切だと感じると共に、「お、おう!」と珍しく焦った様子で元気よく返事をした黒鋼を見ると、少し油で汚れたヘラを手にしていた。この騒ぎの犯人、発見である。



「しかられんぼ?」



 そういえばそんなことを言われていたな。小さく囁いてくすりと笑っていると、地獄耳が「うるせー」と気まずげである。モコナが彼の傍で「しかられた――」と笑うのを相手にするのに忙しいようで、矛先はすぐに逸れて一安心だ。

 小狼の言っていた”王様と神官様”は、店員の彼らが他人と思えないほど、前いた国での彼らと酷似しているようだ。ファイはそれを次元の魔女・侑子さんが言っていた通りだと評した。



「”知っている人、前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている”って」

「ならあの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」



「同じだけど同じじゃないかなぁ。小狼君の国にいた二人とはまったく別の人生をここで歩んでるんだから」



 ファイの説明は私に関係のない話だというのに、居心地が悪い。



「でも言うなれば”根元”は同じ、かな」

「根元?」



「命のおおもと――。性質とかー、心とかー」

「”魂”ってことか」



 いや、本当に関係が無いと言えるだろうか。

 一度目の人生の記憶を持って二度目の人生が始まった私は――同じ”根元”が、違う世界で別の人生を生きているという目の前の光景とは状況が違う。私の根元は一体何故真っ新にならず、前の記憶を保持しながら、新たな世界で生を受けているのだろうか。小狼たちと同じ根元を持つ人は他の世界に居るかもしれないが、私と同じ根元を持つ人は居ないのかもしれない。何故私だけが、生かされ続けているのだろうか。世界の終焉と共に消えることが無かった私の肉体、失われない記憶、繰り返した人生――他の人と私は、何が異なるのだろう。どうしたら、消えて、終われるのだろう。

 足首が冷えていく。血が通っていたはずの身体が冷えていく。羽根を取り戻す前のサクラの身体は、これくらい冷たかったかもしれない。私が眠り続けた闇の中は、温度なんて感じなかった。しかし、外界の温かさを思い出した今、あそこに戻ったならば、さぞかし冷たく感じるだろう――



「ウィズちゃん」



 息をするのを忘れていたようだった。落ち着かなければ。今、考えるべきことは他にある。自分のことは後で、下宿に戻ってからで良い。

 少し長く目を瞑ってぐちゃぐちゃの感情を押し込んでから、私に向けられる何もかも見透かしたようなファイの蒼い瞳へ、一線を引いた笑顔を返す。この疑問を明らかにして、解決するのは不可能かもしれない。それよりも、小狼がサクラの羽根を探す旅に集中させてあげたい。



「小狼くんもー、なくなっちゃうよ」

「はい」

「いただきます」



 久々に食べたお好み焼きの味は、日本と比べるには長く時間が隔たっていたが、ソースのはっきりとした濃い味が懐かしさを感じさせ、とても美味しかった。先に食べ進めていた彼らより出遅れた私は、お好み焼きを奪い合って喧嘩していた黒鋼とモコナに半分食べてもらった。正義は私の口に合わなかったのではないかと心配していたが、味わいについて長々と賛辞を述べると頬を赤くして「よかったです」と安堵したようだった。



 店を出た一行の予定は、羽根探し続行である。土地鑑のない私たちが遠出して帰れなくなっては困る、というファイの言葉に正義が案内を買って出てくれた。無論、小狼が「御迷惑じゃ」と遠慮するのだが、正義はむしろ嬉しそうに「家に電話します!」と言って、止める暇も与えず場を離れた。



「モコナもでんわしたーい♪モシモーシ、モシモーシ♪」

「ほんとに憧れなんだねぇ」



 上機嫌のモコナを乗せた小狼の頬が少し赤くなっているのを見て、ファイの機微の敏さに感心する。成程、小狼への尊敬の念から正義は行動を共にしたいと思ってくれているのか。それだけ小狼の巧断が印象的だったのだろう。

 そのまま話は巧断の夢に戻った。



「さっき出てきたあの炎の獣の夢です」

「妙な獣の夢なら俺も見たぞ」



 商店街の展示に見入っていると思われた黒鋼が話に参入する。私が見たのは亀の夢だが、獣といえば獣なのだろうか。



「オレも見たな――なんか話しかけられたよー」



 それにピンときて、ファイの顔を仰ぎ見た。目が合ってこくりと頷けば、柔和な面持ちの笑みが深まる。分かりやすく確信を得たような表情である。



「”シャオラン”ってのは誰だ!?」



 話の最中に響いた大声に一行が目を向ける。足音荒く道の真ん中に並び立つのは、露骨にモヒカン風の集団――巧断のチームであろうと思われた。



「笙悟が”気にいった”と言ったのはおまえか!?」



「だとしたら?」



 知らないふりを通し黙ってやり過ごそうと目を逸らす私に対して、ファイが緩い笑顔のまま反応を示した。肩に乗るモコナと同じ表情――彼が笑うとモコナによく似ているな。

 あからさまに小物然とした大きなお腹と小柄な背丈だが、特徴的なV字のモヒカンは、後ろに並び立つ通常のモヒカンたちが部下なのだろうと分かる。彼らを相手に巧断の腕ならしでもしようと言うのだろうか。こんな商店街のど真ん中で。修理費を考えると目が回るが、警察に捕まらなければ弁償は要らないのか。しかし、周囲の店が費用を負担することになるのでは――



「小狼はおれです」



 もしかするとファイが”シャオラン”と誤解されてもおかしくない状況で、小狼が黙って見ている性質ではないのは、昨日今日の付き合いでも分かっていた。ファイだって、わかっていたのではないか。ならば何故渦中に飛び込んだのだろう。

 小狼の姿を見て「こんな子供か!ほんとに!?」と信じ難い様子のモヒカンリーダーは、小狼が笙悟のチームに参入するのを懸念しているようだ。否定した小狼を今度は自チームに勧誘するが、勿論彼は断る。



「おれにはあることがあるんです。だから……」

「新しいチームをつくるつもりだな!!うおおおおお」



「いえ、そうじゃなくて」



 冷静な小狼に対してモヒカンたちは感情的になってしまっている。そういう辺りが強豪チームらしい笙悟に敵わない理由なのではないか――と考えている内に、モヒカンリーダーはとげの目立つ大きな巧断を繰り出す。



「でっかいね――」



 モコナとファイがすっかり観戦モードで囃し立てる中、小狼は戦う意志がないことを相手に主張している。無論、話を聞く気のないモヒカンたちの耳には入らないのだが。とげのある巧断は巨体を回すことで長い尾を鞭のように振り回し、商店街の太い柱を抉る。

 戦う意志がない小狼がその攻撃を避けたあと動かない様子を見てか、ファイが少し硬い声色で「聞く耳持たないって感じだね」と歩み出そうとする。しかし、それを制したのは黒鋼である。



「ちょっと退屈してたんだよ」



 しゃがみ込んだままの小狼の前に好戦的に進み出た。

 傍らで「黒鋼、さっきまで楽しんでた――」「満喫してたよねぇ」と矛盾を突く小言を「うるせぇぞそこ!」と注意する余裕まであるようだ。

 小狼だけは刀を対価に差し出した黒鋼を心配して声を掛けるが、相手が”魔物”じゃなければ必要ないという彼の言葉に、それ以上止める言葉が続かない。



 遠巻きに逃げていく民衆に反して近寄って来た人影は正義である。彼を巻き込まないためにも黒鋼を除く一行は柱の物陰に寄って、この世界に詳しい彼にモヒカンに関する話を聞く。ああ見えて一級の巧断を憑けているという説明がある。



 そこで、続きの説明より早く黒鋼への攻撃は始まった。”蟹鍋旋回”と吠えたモヒカンの言葉と同時に巧断は素早く回転し、柱を一本切断する。黒鋼は力強く後ろへ跳び、身を伏せて攻撃を回避した。彼を追いかける蟹の巧断から素早く駆けて距離を取ろうとしているが、足は相手の方が速い。 再び尾が降られたのを黒鋼は跳んで避ける。

 黒鋼の動きは軽やかだが、小狼は「危ない!」と助けに入ろうとする。それを引き止めたのはファイである。



「手出すと起こると思うよ――黒たんは」



 その直後、蟹の巧断は甲羅にあたる部分のとげを弾丸のように射出し、黒鋼は瓦礫と共に吹き飛ぶ。受け身は取ったようだし大打撃は無いだろうが、あの中に居て無傷ということは無いだろう。黒鋼を呼ぶ小狼の声は悲壮だが、今にも駆け出しそうな彼をファイは引き留めたままだ。



「巧断はどうした!見せられないような弱いヤツなのか!?」



 勝ち誇ったように大声を上げるモヒカンに対して、黒鋼はまだ挑戦的な表情を一切崩していない。硬さを誇る巧断を相手に、とっくに弱点は分かっている様子である。瓦礫の上で思案する様子の黒鋼の背後から水を纏う龍が現れ、彼の前に大剣として姿を変える。



「使えってか?――なんだ、おまえも暴れてぇのかよ」



 黒鋼の巧断を見て呆気に取られていたモヒカンは焦りを隠せない様子である。不敵に笑う彼に対し、必殺技と言って次なる攻撃を仕掛けてくる。

 全身のとげを伸ばした巧断は黒鋼に向かって飛んで行く。彼の背丈を優に超える長さのとげに打つ手なしと思ってもおかしくないのに、その顔は敵なしといった様子である。



「どんだけ体が硬かろうが刃物突き出してようがな、エビやカニには継ぎ目があんだよ」



 ”破魔・竜王刃”



 黒鋼の一撃で巨大な蟹の巧断はバラバラに崩れ、モヒカンは痛ましい叫び声を上げ、自身の身体を抱くように崩れ落ちた。部下たちが囲む中、息も絶え絶えに黒鋼を指す。



「も……もうチームつくってんじゃねぇか――おまえ”シャオラン”のチームなんだろ!」

「誰の傘下にも入らねぇよ。俺ぁ生涯ただ一人にしか仕えねぇ――知世姫にしかな」



 黒鋼を異世界に飛ばした姫のことだろう。あの場所で、帰りたいと願った黒鋼に何があったのかは分からない。しかし、例えどんなことがあっても揺るがない決意が黒鋼にはあるのだ。

 腕は立つが、手が掛かる人であることは間違いない。細かい傷だらけの黒鋼と合流し、横でへらへら笑っているファイを小突く。



「黒鋼の怪我は、ファイが診るんですよ」

「え――黒たんは自分で突っ込んでったのにぃ」

「喧嘩買ってたのはだれ?」



「これくらいほっときゃ治る――って!」



 少しの怪我を甘く見ていたら痛い目を見るのだと、一番目立つ擦り傷を抓ってから魔法で治癒させた。今日の今日、私が戦いに飛び込もうとしたら止めたくせに、自分は突っ込んでいってしっかり怪我して来るなんて、人のことを言えたものだろうか。



「もっと痛くしてもよかったんですけど」



 低く呟くと、黒鋼がぶるりと身震いをしたので、少しは効いたようである。



 まだ少し陽があったが、ぼろぼろの黒鋼を引き連れて街歩きをする訳にもいかず、今日の探索は終了することになった。一先ずサクラの待つ部屋のドアを開けると、サクラの傍に座っていた嵐が玄関まで出迎えてくれた。ちょうど空汰も帰宅してきて、場がぱっと賑やかになる。



「おう、みんな揃ってんな!どうやった?――その前に、ハニー!おかえりのチューを[V:9825]」



 矢継ぎ早に語る空汰が両手を広げて嵐に迫ったが、彼に与えられたのは頭に拳が一発だけだった。

 玄関からサクラの眠る部屋に入り、今日の話を空汰夫妻に説明したのは小狼である。



 小狼と黒鋼に憑いている巧断について報告すると、空汰が歴史に関心を抱いたきっかけは巧断にあると言って、説明が続く。彼は巧断が阪神共和国にいると伝わっている八百万の神であり、国民を守ってくれていると考えているという。小狼も空汰の意見に賛同し、二人は意気投合した。

 阪神共和国の国民には必ず憑く巧断が人々を守ってくれていると信じる空汰が、他国では戦争や悪事に手を染めてばかりの人間も居ると言葉少なに語る。そのような国に比べれば、少しはサクラの羽根探しがマシなのではないかと言う。今日一日で二度も戦いに巻き込まれた現状、平和だとは言い難いが、正義のように親切にしてくれる少年も居る。ここまで旅を支援をしてくれる空汰の言葉は信じたい。



 話を聞いていた嵐は、羽根の波動が感知できたりできなかったりした点に着目し、”巧断の中に取り込まれているのではないか”と言った。小狼がハッとして「巧断ですか!?」と声を上げる。



「なるほど――確かに巧断なら出たり消えたりするから」

「巧断が消えりゃ波動も消えるな」



「巧断の中にさくらの羽根が……」



 巧断の出現・消失を目の当たりにして、嵐の言葉は核心を突いていると一行は考える。

 しかし、ナワバリ争いで沢山の巧断が出現していた最中にモコナが感知したため、誰の巧断に取り込まれているのかははっきりしない。



「けど、かなり強い巧断っちゅうのは確かやな」

「なんで分かる」



「サクラさんの記憶の羽根はとても強い心の結晶のようなものです」



 日中に正義から聞いた話を思い出す。嵐は彼と同じように、巧断が心で操るものであると説明し、その心の強さによって巧断も強くなると言った。

 やはり、正義の説明だけでは分からなかった点がはっきりとした。巧断に等級はあるが、それは心の強さと共に変動しうるものなのだろう。



 ファイが嵐の説明を受け、サクラの羽根を取り込んでいる巧断は強いと仮定し、強い巧断が憑いている相手を探すのが近道だろうと言い、小狼もそれに頷く。



 話が一度まとまったところで、空汰は夕飯の仕上げに取り掛かると言って小狼以外のメンバーを戦力として招集した。



「おれも手伝います」

「今日はええ、サクラちゃんとずっと離れとって心配やったやろ」



 調理に向かう後ろで、空汰が小狼に掛ける言葉の温かさに感じ入る。空汰も嵐も思いやりの深い人たちなのだろう。大切な人を思う気持ちや心配する気持ちへの共感があり、礼を言った小狼と別れる。



 共用部だという一室は他より広くなっていて、台所も空汰夫妻が並んでも十分な広さがある。私が一人増えてもそれは変わらないが、ファイが続けて入って来ると少し圧迫感がある。黒鋼は煤塗れの身体を流してから来ることになっているが、とても全員で入れる広さではない。



「んじゃ、ウィズとモコナには中に入ってもらって、黒鋼とファイにはそこでお稲荷さん握ってもらおか」

「おいなりさんって、どんなですか――?」

「これです」



 嵐の手によってつやつやのお揚げにゴマの混ぜられた酢飯が詰められていき、既に包まれているお稲荷さんの横に新しく並べられる。室内に立ち込める匂いも相まってお腹が空いてくる気がする。



「おいしそ――う!」

「美味しそうです……」



「この二人はつまみ食いしそうやから、中で見張らんとな!」



 否定せずきゃっきゃと喜ぶモコナと、否定できない私がしずしずと台所に消える背中に、ファイの笑い声が刺さる。嵐の優し気な微笑みすら羞恥心を煽るばかりである。ファイと後からやって来た黒鋼はお稲荷さんを包みながら何やら言い合っていたが、騒がしくなると空汰の巧断が飛んでいくため、乱闘までは始まらなかったようだ。

 お稲荷さんを学生たちの分と自分たちの分、空汰夫妻の分とそれぞれ分けたあとは、肉うどんを次々温めて椀に盛る作業を全員で行い、順々に食事をとった。一番初めに席に着いたのに、食べ終えたのは一番最後に席に着いた小狼と同着である。確かに食べるのが早いとは言えないけれど、多分原因は男子学生並みに盛られた量のせいだろう。無論、完食したのだが、お腹ははち切れそうだ。



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