設定
※全編完結後の裏話語りだったり、ツバサ・オタクトークだったりなので、本編読了後を強く推奨します。
インフィニティから遡る形で書いています。
〇インフィニティの暗澹を攪拌する
合わせ鏡の晩餐が起きた原因をちゃんと書かないとファイがただの変態になってしまう。優しさと弱さとずるさが共存して崩壊寸前でグラついている状況を表現したかったのです。主人公には寝て食べて元気でいてほしいという優しさを、自己嫌悪と自己否定に支配されるファイは素直に表現する術を持たず、持ち前の器用さを発揮してコントロールした結果なんです。痛み分けキス、どうでしたか。
ご一行は2か月以上もインフィニティに居たのでもっと生活を書くべきかなと思ったんですが、これ以上長いと読む側のメンタルも限界を迎えるだろうと思い、黒鋼に霧を払ってもらって腹くくったのが本編ですね。ファイと過ごしてきた時間と築いてきた関係を信じ”嘘でも優しく触れてあげたい”一種の弱さに、恐怖と悲しみを捨てて応える覚悟をした表現でした。
サクラとイーグルの交渉を見ていた主人公ですが、サクラの目的が単独での次元移動だけではないことを理解しているだけで、ファイの呪いを回避するという目的には発動するまで気付いていません。サクラと主人公が話し合っていればセレスまで呪いを持ち越すこともできたかもしれませんが、あのときのサクラは黒鋼の言う通り”好きにしていた”ので、主人公を巻き込むリスクを取らずに自己犠牲で済ませようとしただろうと考えました。サクラのそういうひたむきに見えるけれど一点の曇りを残すような不器用な優しさがすごく愛しいんですよね。
〇東京で痛感する”生きること”
ファイが吸血鬼になった後で主人公は神威から「魔術師にお前の血を飲ませたのか?」と問われています。敢えて明言しないことで広く解釈してもらった方が楽しいかなと思っています。考えていた理由としては二点あって、一点目は主人公がだらだら出血していたので儀式中に混入していた可能性。どちらかというともう一点が個人的に本命で、ヒーラー(聖職者)の血は吸血鬼にとって甘美な”餌”である可能性でした。
ファイの吸血鬼化はオタクにとって大変な事件で(ぜひ餌をやらせてください!)という気概もあるのですが、黒鋼とファイの大きく乖離した生き死にへの価値観みたいなものを擦り合わせていく貴重な状況かなと思い、主人公にも尊重してもらいました。生きていてほしいが、幸せでないのなら意味がないという葛藤を持ったままインフィニティに行って地獄を見ます。
蛇足も蛇足ですが、睡眠や食事を必要としないことに主人公がはっきりと気付いたのも東京でした。冒険中にろくに宿にも寄らず回復薬でHP回復を図ったり、食事は飽くまでも強化アイテムに過ぎないという価値観はRPGあるあるですよね。主人公の肉体は二度目の世界でもそういう仕様でしたが、他人とは死の価値観がズレている主人公は自分を顧みることが疎かになっていて、そもそも”気にしたことがなかった”感覚です。毎日眠って一日三食食べるという習慣は、一行のリズムに合わせていただけ。空腹感に似たものは感じても飢餓には至らず、疲労を感じても気絶はしない。世界を救うためにどこまで不要としてつくられた身体なのでしょうか。
〇レコルト国
記憶の本を介して黒鋼は主人公の過去を知ります。主人公は”ウィズ”として生きた過去しか見られていないと思い込んでいますが、記憶の本がサクラの羽根を模しているのならば、本人が覚えている全ての記憶を見せたのではないでしょうか。黒鋼が赤ん坊だった頃の姿は描写されなかったように、本人の覚えている限りで最も古く、印象的な記憶から。そう仮定して、黒鋼は主人公の一度目の人生の終わりも見ています。疲れ果て、病を患い孤独に死んでいく。そして、新たに生を受けて冒険してきた日々も。ニホン滞在中に主人公が溢した一度目の人生の話に、もしかすると気付いたかもしれませんが、黒鋼にとって過去は過去なので敢えて言わなかったということです。主人公がその話題になってうじうじしていたら、ファイにしていたように叱咤されます。黒鋼のそういうところが大好き。
ファイが主人公の杖を自在に出せる魔法をかけます。インフィニティを去る直前、黒鋼の蒼氷に使った魔法。ファイが切り捨てられなくなってしまった情を形にする儀式だと思っています。魔法は使わないと言っていた彼にとってご法度の行為だけれど、それでも無事に生きていてほしいと願う、皆を助けてほしいと願った形。黒鋼や小狼にはこの時点で施されないそれは別に好意が足りないからではない。主人公がピッフル国で”ずるくてもいい、許さなくてもいい、ずっと一緒にいてくれるのなら”という意味をこめて放った言葉に、ファイは絆されてしまったという表現でした。
〇グラスキャット・ロコウとは
酒場・トランヴェルに登場するスターのロコウは偽名で本名はジャコウという設定です。有名な香料として知られるムスクの原料・ジャコウ(麝香)を由来としています。二度目の世界で主人公が出会ったジャコウは格闘家だったので、鍛え上げられたハムストリングスが見えるミニ丈ドレスが大好きです。愚直で明るいスケベ男だったジャコウも、産まれた世界が違うなら身の振り方も違う。出会った昔の仲間に主人公は安堵する一方、貴重な資源・ミスリルでグラスキャットを支配するやり方をジャコウにはしてほしくなかったようですね。ならば私がもらいますと言わんばかりに回収していますが普通に泥棒です。ミスリルがなければ真っすぐに生きられたかもしれないジャコウにとっては、前に進む一歩になるかもしれませんが。
距離感のおかしい主人公とファイですが、私にとってファイがあまりにもエンジェルではっきりと肉欲を描写するのはまだ早かったようです。女の扱いに慣れているので手練れなのでしょうが、自分の本心を明かすことは苦手という、器用さと不器用さの両面を本編中は終始描写できるよう意識しました。グラスキャットではせっかくオリジナル閑話を挿し込むので、原作中に一行が訪れなかったようなじめじめとした夜の裏通りを経由してもらいました。未成年の少年少女を守る大人組の姿をもう少し書きたかった気持ちもありますが、小狼やサクラにひ弱なイメージがつくようなことはしたくないので、こっさりラーメンに仕上げました。気になるミスリルの行方は、最終決戦で主人公が使っていた杖の素材に使われています。
〇ピッフル国とだいすきシーン
夢小説なんてオタク語りの最終形態みたいなものなので――とはいえ気にしながら語りますが旅の始まりから一行を見ていたファイが「変わったなぁって思って」と言い、それに黒鋼が「そう思えるおまえも、変わったんだろ」と返すシーン。ラブが止まらないですよね。黒鋼、絶対に微笑んでるし。ファイの変化を誰よりも望んでいたのが黒鋼だと思うから、そりゃ微笑んでしまいますよね黒鋼父さん!小狼とサクラを見守るファイの優しい横顔がもう母さんだし。ご一行が愛しすぎて心臓痛めながら打ち込んでました。
オタク語りパート2になりますが、モコナの采配によって一行にハグして回る主人公のパートは私の欲望を忠実に晴らしてもらい大満足です。サクラって華奢な体型なのにギュッとしたら絶対にふわふわしていて気持ちいいと思うしいい匂いがすると思うし頬を赤らめながら控えめに抱き返してくれると思うのでやっぱりサクラが世界を救うんですよね。
あとファイ夢と胸を張るために黒鋼にはあまり肉体的接触をさせないようにしている今作唯一の黒鋼ハグイベントですが、脂肪の少ない筋肉質と想定する黒鋼の体格と圧倒的元気心拍、ぽかぽか体温を描写できて満足です。黒鋼から男の人のニオイがしたらメロついてしまう気もしたので洗剤や柔軟剤の香りに紛れるくらいの体臭にしておきました。ホラ、忍者だし!あんまりセクシー出したらダメだぞ、黒鋼!それと、ご一行が同じ洗剤の香りさせてるんだろうなと思うとそれだけで涙が止まらないので捻じ込んだというのもあります。ご一行が洗濯干してる扉絵を何度も何度も思い出して、心臓痛くなっているので。
小狼については夜魔ノ国で再会したときに大ハグかましているのが後ろめたくなった主人公が自制しています。小狼可愛さでかましたい気持ちVS年頃の少年に安易に触れてはならない倫理観〜サクラに顔向けできねぇ〜の戦いでした。
ファイはあの感じなので割愛するとして、主人公が黒鋼によくゲンコツくらってるのが共通認識になっていく描写、旅が進んで関係性が構築されている感じがして結構気に入っています。主人公もぶつくさ文句を言いながら、加減されてるのは分かっているのですよね。
〇紗羅ノ国と優しさの形について
主人公にとって飲食物は強化アイテムであり、強化アイテムは基本的に際限なく使えるものではないので、お酒には耐用上限がありますね。
夜魔ノ国では言葉がかなり理解できてる黒鋼は余裕があったでしょうが、一切理解不能といっていいファイはかなり負担があったんじゃないかなと思っています。半年くらいは滞在していたようなので、器用なファイのことですからあっという間にそこそこ言語も覚えたでしょうが、最初のうちは黒鋼に頼って、我々読者の知らないところで関係性を深めていたのでしょう。詳しく、もっと聞かせてほしいですが、想像にお任せしますが一番丸くて確かにいいですよね。
言葉が通じなくても自分の立場を守って生き抜いていくためには労働力となる必要がある。どんな仕事も楽ではない。一生懸命やっていれば気付く人は見ているもので、物語上もかなり情に厚い夜叉王は主人公にも分かり易い言葉を選んでくれる優男ぶりを描写しています。
互いの共通認識の言語が限られる中で、それでも思いやりあふれるファイは非言語的コミュニケーションを駆使して関わってくれます。人対人の戦いをすんなりと飲み込めない主人公のキャパオーバーを察してケアしてくれますが、時期と手法がガッチリ組み合ってずぶずぶになっていきます。元々睡眠や暗闇、孤独を恐れている主人公を依存させてしまうのですね。自分は死にたがりのくせに。性根が優しいので余計に悪い男です。
〇ニホン
平成の日本、観光地をイメージしています。紗羅ノ国でくたくたに疲れたご一行のインターバルになればいいなと思って書いていたのに中々重たい空気が抜けませんでした。怪談の話とかも入れたかったんですが、結局他の国の間で入れようと考えている内、本編が終わってしまいました。モコナのジャムをなめなめは入れられて満足です。
〇偶像の国で美味しい順番
サクラ、主人公、小狼、ファイ、黒鋼の順に美味しいと思います。
〇桜都国で”痛くても”
ファイへ。女性相手に”可愛い”と躊躇いなく言い放てる男なんかチャラいに決まってるだろうと申しているのだ。ウェイター姿も板につき過ぎだ。ジェイド国で分断してしまったときにしっかり大怪我している主人公のことを放っておいたらまた離れて怪我をするんじゃないかとファイは少々気にかけています。人懐っこく感情豊かに見える主人公をモコナとセットでウサギ扱いすることにしたようですね。原作読者アニメ視聴者の皆様はモコナのちいちゃなエプロン姿可愛すぎて悶絶されたことと思います。
黒鋼と二人で留守番中に組手を行っていますが、当然歯が立ってません。回復魔法の裾野を広げるために格闘術と攻撃魔法も熟練する必要があったという設定です。魔法を応用しながらの格闘術ならば小狼よりも秀でることがあるかもしれませんが、魔法なしなら彼にも技量では敵いません。桜都国の後も暇ができたら実践想定の訓練をつけてもらっています。
桜都国でとうとうご一行全員から主人公は食いしん坊(かも)という認識をされます。自分で決めた設定のくせに飢餓の概念がないので食事の描写をするたびに心を病んでいます。実際、食事の味は分かりますし、食卓を囲むという雰囲気を主人公は楽しんでいるので、食いしん坊と認識して差支えはないのですよね。東京辺りから精神的にしんどさが増すだけですね。
織葉の歌はファイが思わず”待っていた頃”を想起する歌詞ですが、途中で挟まる黒鋼の「自分で行きゃあいいだろう」という言葉が、それを受けて「また嫌われちゃうねぇ」と返すファイの諦め方が二人の溝を感じるシーンですよね。お互いに過去を知らないのですから行き違って当然ですが、二人なりの優しさや人の弱さを知る主人公からすれば”ばかちん”な行き違いでしたね。
泥酔にゃんにゃん大乱闘は楽しく終わってもよかったのですが、主人公のメンタルは一度落ちるとそうそう立ち直らないのでファイが怪我をしたときのことをしっかり根に持って当て付けました。ファイが死にたがりの側面を持つと理解するなり、主人公はこの旅の終わりを意識するようになり、一番図太そうな黒鋼があと何年生きるかを気にし始めます。黒鋼とは日本国に移動できれば別れることになると分かっていても、帰る世界のない主人公は自分の居場所を欲していました。決して拒否はしない黒鋼に安堵して、その晩は比較的ぐっすり眠れたようですね。
桜都国の死亡条件を満たしてもその場に串刺しのまま残る主人公を見て、ファイは再び喪失体験をします。かつての虐殺を想起したでしょう。人懐っこく感情豊かな主人公の純粋な好意の数々を思い出し、絶望したところで自身もゲームから離脱しました。桜花国で再会した主人公が、彼が”綺麗な歌”だと称した歌詞を思い浮かべながら紡いだ言葉が幾らかは、響いたかもしれません。
〇ジェイド国の距離感
阪神共和国で黒鋼に説教したことがそのまま自分に返って来てますね。こういう時間の流れとかやり取りを描写できると、生きて動いている感じがあっていいですよね。ファイは初心そうな主人公をイジって遊ぶつもりだったのですが、主人公が想定以上の初心で真面目な返答を寄越すのでイジりきれませんでした。阪神共和国でも感謝は伝えられていますが真っ向から”すごく好き”なんてもじもじ言われたら流石の軟派男でも照れちゃいましたね。やけくそで同衾しています。素直な感謝と好意に若干絆されたが故に、この後誘拐されて大怪我している主人公の行方に不安を感じましたし、今後しばらくの心配性にそのまま反映されます。負傷した後は眠れば回復するので、戦闘が終わって安全が確保されると眠気が襲います。アドレナリンが切れる現象ですね。冒険者なので戦闘開始するとまた覚醒します。
寿司の話は別に入れなくても良かったんですけど、好き嫌いしてるファイが可愛かったのと、魔法で腰痛肩こり全部治ったらいいのになと思ったので入れました。
〇霧の国 親から子へ
小狼やサクラにファイが掛けた言葉を、彼はきっとセレスで色んな人から掛けてもらったんだろうなと思います。ファイはセレスを愛していたし、アシュラ王もファイにそういう言葉を掛けたのでしょう。優しさの分け方を知っているのに、自分は蚊帳の外に居ようとする。そういうところが悲しくてこの話を書くことにしたのです。ひとつひとつ、取りこぼしてしまいそうなところにも散りばめられているファイの優しさを拾い上げて、抱き締めて、感謝を伝えたかった。原作中でも勿論語られていますが、それは後半に差し掛かっての状況なのですよね。自己否定と自己嫌悪をもう少しだけ早いところから、少しずつ剥がして、溶かして、温めたい。黒鋼がバリバリーッと剥がしてくれるのも本っ当―――に大好きなんですが、主人公がしたような生ぬるいやり方も兼ねたっていいだろうという考えで生まれたトリオの関係性でした。
〇高麗国 春香への投影と経験値について
主人公は基本的に”正体”というものに察しがいいのですが、RPG慣れしている現代人のメタ推理と、二度目の世界で積み重ねて来た経験値によるものです。秘妖が戦いを本意ではないと考えていることを見抜いてはいますが、アクションを起こせるほどの作戦を考えることはできません。黒鋼は主人公の勘が良いと旅の間で感じ取り、ときには考えを聞きますが、あまり結果には結びつきませんでしたね。
主人公から春香への異様な親切心については、自分が置いてきた家族への罪悪感と、自身が闇の中で感じた孤独を投影していることに由来しています。幼齢の春香は過酷な環境に置かれ、情緒的な安全基地がありません。彼女との異様な距離感の近さや寄り添いは主人公のエゴであり、春香に与えた影響は決していいものではありません。春香は主人公が消えた後、地域の復興に勤しむ傍ら残された寂寥感に苛まれたでしょう。過剰な干渉は決していい影響ばかり残す訳ではない。のちにファイと共に”どろどろ”と揶揄し合う可愛がり方ですね。
〇阪神共和国 心の強さ
巧断の設定ってすごく面白いですよね。本編中で描写しましたが、敢えて追記で語りたいのは等級制度についてです。心の強さが変われば等級も変わり得るだろうと主人公には予想を立ててもらいましたが、他の創作物でも”心の強さ”が武力そのものに直結する設定はありがちです。一方でツバサにおいて感動したのは”一度決めた等級制度が廃された”ところまでしか語られないところです。なぜ廃されたのか等敢えて語らなくても分かりますよね、というインテリジェンスな挑戦の一手なのですか。それとも考察班に自由させてくれているのですか。たまりません。垂涎。
空汰・嵐夫婦もたまりませんよね。空汰のいう”ラッキー”だったことを、話が進むにつれて身に染みて感じますし、かなりしんどかった東京編で彼らと再会したときもこのときを思い出して半泣きでした。
このときの主人公はまだ闇の中から抜け出したばかりで、旅の目的や過ぎて行く出来事を追いきれていない場面もあります。根元や魂の話をしているときが顕著ですね。自分という存在を理解しきれていなくて、受け止められていない。それでも小狼とサクラが直面している状況に、外野から打ちひしがれている。黙って立ち去っていれば我慢できた涙も、同行する黒鋼やファイもまた同情している優しさを悟ってしまえば我慢ができなかったという形です。小狼が感じた痛みをしっかり描きながら、この時点で描写されている黒鋼とファイの静かな優しさが描けて良かったなと思っています。
〇闇について
ゲームからプレイヤーがログアウトして、キャラクターが待機させられている空間を想定しています。まさに”無”な闇の空間ですね。いつまで待たされるのだろう、もう二度と出られないのかもしれない。自分がもしその環境へ落とされたら、恐怖と不安でおかしくなると思います。
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