| ※赤司が吸血鬼 火神は夜遅くにアルバイトをしている。食費が半端ないので、さすがに親父から貰っているお金が足りなくなることもあった。だから、働き始めた。 アルバイトしているところは牛丼屋でいつも鼻孔をくすぐっていて、辛かった。何で、こんな所を選んだだろうと少し後悔した。 でも、アルバイトが終えると、牛丼をいつも一杯頼んでいる。本当にうまいし。お金が半額されていて、お得ばかりだ。食べ終えた後に隣にあるマジバに行って、ハンバーガーたくさん頼む。それが火神の幸福の一時になっていた。働いた後の食事はこんなにうまいことか。 夜道を歩いて、真っ直ぐ帰るつもりだった。でも、電車にトラブルが起きたらしく、人の集まりが出来ていた。仕方なく、バスに乗って遠回りに帰ることにした。 それが火神の人生を大きく動かしたのだった。未来予知みたいなことはもちろん出来ない。気付かないまま、バスの中でゆうゆうと建物を眺めていた。 バスから降りて、歩かなきゃない。距離を考えると、気が滅入る。ちょっとお腹が空いてきたので、近くにあるコンビニに寄っていこうと考えた時、冷たい視線が感じた。どこからなのか、分からない。辺りを見回すと、特に異変が見られなかった。気のせいかと頭の隅に追いやる。 歩いていくと、ふと足が止まる。 「ここ───どこだ?」 どうやら、迷ったようだ。知らない夜道。五十メートルごとに離れた街灯。積み上げられたゴミの山。囲まれた家の住宅街の中に自分は迷子になってしまった。まあ、家は近いからがむしゃらに歩けば何とかなると思っていた。 その考えが甘かったと気付くまでは三十分くらいに歩いたことだった。ガチで迷子になってしまったことに危機を感じる。何より、時間は今日が明日になってしまった。 あわあわと大の男が住宅街の中で慌てている事態に陥った。そして、また視線が感じた。今度は目の前にいるものだと何となく分かってしまう。しかも、冷たい視線ではなく、ただの視線だ。気のせいだと思うのだが……。俺って、反応が良すぎじゃね?勘違い多すぎね? 歩いてきた道を戻っても、振り出しに戻りそうな気がしたのでそのまま前に歩く。 そして、とんでもないものを見ることになる。 赤い髪の少年。見ただけで俺と同じくらいか、年下かの幼い顔をしていた。鮮やかな赤い髪より上回るどす黒い赤が少年を占めていた。 視線の正体はコイツだったのかと頭が回る判断は出来ず、状況を全く理解出来なかった 電柱にもたれかかっている少年の周りは血まみれだった。口からだらだらと血が溢れていた。初めて見たときは生理的に吐きたくなった。もしかして、俺はとんでもない場面に立ち会っているんじゃないかと脚が震える。 貴族が着ていそうなシルクのシャツが鮮血に染め上げられ、見ていられない惨状が出来上がっていた。特に左胸がぽっかりと穴が開けていて、内臓的なものが見えていた。 しかも、下半身を見るとない。二つの脚の一つが丸々無くなっていた。否、斬られていた。はっきりと断面図が見えて、声を発することを許さなかった。 その場から逃げ出そうとするが、足が身体が金縛りでもあったみたいに動けなかった。恐怖ですくんでいる。 ぴくりとも動いてなかった彼から息が吹き返したように咳が聞こえる。まさか、こんなになっても生きているのか。 「ぁあ───アァあ、うン?ゲホゲホ」 重低音の声が濁っていた。喉から声を作るだけでも苦しそうだった。ぺっと口内に溜まっていた血を吐き出す。 そこで火神と彼は初めて視線が合った。 「────ニ、ンげン、?」 人間と問いかけられた。もちろん、俺は正真正銘の人間だ。その前に質問自体に疑問を抱く。まるで、自分は人間じゃないと言っているようなものだった。よくよく考えたら、こんなになっても生きているなんて人間じゃないよな。火神は息をのんだ。初めて気付いた真実に叫びたくなった。 影がなかった。 街灯に照らされているのに、はっきりと彼の影は全くなかった。自分をおそるおそる見るとちゃんと合った。少し安堵すると、 「●●●●●●……●●●●●●●●●●●●●●●●●●───●●●●●●●……●●●●●●●●●……?●●●●………」 急に知らない言葉で話しかけられる。と言うより、聞き取れなかった。分かっていない火神を見ると気付いたのか、日本語に切り替える。 「こコ、日本ンン、だッたな───……君ノ血吸わせ…てくレなぃか?」 は?と反射的に漏らす。いきなり血をくれだと?そんなの御免だ。見ぬ知らずで人間じゃない奴が倒れていて、お前の血が欲しいと要求される、どんな対応すればいいのか誰もきっと分からない。 「頼むム──イマは、死……にたクない。人間なラば、吸血鬼に吸ゎれるのがアりがたくぉも、ッテもいい」 「きゅ、けつき?」 「●●●」 そうだと返事したつもりが、やはり火神には伝わらなかった。火神は吸血鬼と聞いて、少し納得する。脚がない。左胸が開いているのに瀕死で生きているのも、影がないのも、少年の正体が吸血鬼だからこそ、説明できるじゃないか。 「ほら、さっサとはゃく血ヲ差し出せ───僕をわずラわせルな、な」 血を求めてくる少年の目は鮮やかルビーの色の宝石のようで強く生きようとしていた。見下したような口調で血をくれと命令している。 「血をあげたら───どうなるんだ?」 「●●●。愚問●な……──死ぬ●決まってぃいるだ●う……だが、僕ノ為に死●でくレるなら●●ば、当然●●とだ」 死の宣言。聞き取れないところがあったが、「死」の言葉を聞けただけでも十分だった。まだ、こんなところで死にたくないし。先輩達、アレックス、タツヤ、こんなにも色んな人を置いて、勝手に死んでたまるか。 「それは無理だ」 「なっ───?●●●!●●●●……お願いだ」 断れたと知り、皮肉に顔を歪めた。懇願するような言葉が出るが、火神は死にたくない理由があったので無視する。身体の緊張が解けたのか、足が一歩下がる。そして、そのまま逃げた。瀕死の少年…いや、吸血鬼を見捨てて───。 見捨てられたとすぐに分かった彼は皮肉な叫び声をあげる。 「お願いだ!血をくれ。頼むから。助けてください。お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします」 見下したような口調が面影なく、丁寧で懇願する口調となり── 「まだ、まだ、死にたくない………あ●あああああああああ●ああ●ああああ●ああ●●ああ●あああ●●●●ああああ●●●●●●!!!!!!!!!」 泣き声と変わっていった───。 その少年の最後になるであろう叫び声を聞いた火神は奥歯を噛みしめながら、逃げ続けていた。 ───クソクソッ! 心の中で胸くそ悪い感覚に襲われていた。見下していた少年がここまで変わるとは死にたくなかっただからだろう。火神だって死にたくないのだ。実はこれが夢なんじゃないだろうかと現実逃避し始めていた。 『お願いだ』 『死にたくない』 少年の力が振り絞った声が頭から離れられない。もうこっちまで泣きたくなってきた。足が無いだの、影が無いだの、内臓が出てるだの、常識から逸脱しすぎている。 息遣いが荒くなるまで走りきり、街灯にもたれていた。 「あの………」 ぼそりと小さな声が聞こえ、うわっ!と驚きの声をあげる。水色の目をした少年もそんなに驚かされるとは思っていなかったらしく、少し驚く。 「驚かせてすみません。質問あるんですが………」 「あ、ああ、場所とか無理だぜ?俺、迷っているっんで……」 「いえ、場所ではなく、人の尋ねです。赤い髪…君と同じような赤い髪の人見かけませんでした?」 一瞬、顔を強ばったが、すぐに戻る。しかし、それを水色の少年は見逃さなかった。 「僕は黒子と言います。吸血鬼退治をやっています。その化け物を見たなら、ぜひその場所に連れて行って欲しいです」 |